2021年10月13日 15:00
株式会社ジーンクエスト(本社:東京都港区、代表取締役:高橋 祥子)および、新潟大学医学部血液・内分泌・代謝内科研究室(新潟県新潟市、藤原 和哉特任准教授、曽根 博仁教授)は、日本人を対象としたゲノム解析による共同研究を通して、肥満度とニンジンの摂取頻度との関連に影響を及ぼす遺伝子型を初めて同定しました。また、この成果は専門誌「Nutrients」にて2021年9月30日に公開されました。
◆研究結果の概要
同じような食事をしてもなぜ人によって肥満度が違うのかという問題は、栄養学の大きな課題です。それぞれの人を作り上げている遺伝子全体の集まりをヒトゲノムといい、その基本情報の大部分は人類共通ですが、一部に個体別にみられる遺伝子の多様性(=多型)は、体質の個人差に影響することが知られており、現在遺伝子の多様性と、個体間の形質、形態、さらには生活習慣・生活習慣病などとの関連が世界的に研究されています。
野菜を多く摂る人は肥満になりにくい、ということについても多くの研究で示されていますが、様々な野菜ごとに摂取頻度を細かく分類し、肥満度や肥満に関して、摂取頻度と遺伝子多型(一塩基多型・SNP、注1)の間に遺伝子・環境相互作用があるかを大規模かつ詳細に検討した報告は、これまでほとんどありませんでした。
本研究では、日本人約1万2千人のゲノム情報とWebアンケート情報を用いてゲノムワイド関連解析(GWAS、注2)を行い、ヒトゲノム上で肥満度や肥満に関してそれぞれの野菜の摂取頻度とSNPの間に遺伝子・環境相互作用があるかを横断的に検討しました。その後、飲酒、喫煙、運動習慣、総野菜摂取などの、既知の肥満度と関連する因子の影響を除いて(補正して)、肥満度および肥満(BMI 25kg/m^2以上)に関して、ニンジン、ブロッコリー、ホウレンソウ・コマツナ、ピーマン・サヤインゲン、カボチャ、キャベツといったそれぞれの野菜の摂取頻度と相互作用のあるSNPを検索しました。その結果、表1に挙げたSNPsが肥満度に関して、それぞれの野菜摂取と相互作用があることが示唆されました(表1)。
次に上記のSNPsの中で特に有意だったSNPに関して、肥満度と肥満について、野菜の摂取頻度とSNPの間にある遺伝子・環境相互作用について詳細に解析しました。その結果、ヒト12番染色体上のSNPのひとつであるrs4445711(図1)のGアレルをもつタイプにおいて、ニンジンの摂取頻度の増加と肥満度および肥満(の割合)の低下が関連していることが初めて明らかとなりました(図2)。肥満度との関連は、飲酒、喫煙、運動習慣、総野菜摂取などの、既知の肥満度と関連する因子の影響を除いても比較的強く維持されていました。
図2 ニンジンの摂取頻度およびrs4445711遺伝子型と肥満度・肥満者の割合の関連
さらに、rs4445711の影響を、男性と女性、年齢別に分けてそれぞれ解析した結果、男女間で影響に差はなく、若年でより強い関連が認められました。その他の野菜に関しても同様の分析を行いましたが、rs4445711と同程度に肥満度や肥満に相互的に作用するSNPはみられませんでした。
ニンジンにはカロテノイドが豊富に含まれており、βカロテンの血中濃度は糖尿病やがんの発症、インスリン抵抗性を含む炎症系の指標と関連することが報告されています。なお本研究は、ニンジンの摂取頻度を増加させることで肥満度が低下するかを直接証明したものではなく、また、全エネルギー摂取量や調理法を含むニンジンの摂取方法、血中のカロテノイド濃度の情報などが含まれないことから、今後は、これらの要因の影響を含めたさらなる前向きの検討が期待されます。
引き続きこのような遺伝子・環境相互作用の分析を活用し、肥満度や肥満に限らず、健康寿命の延伸を妨げる生活習慣病や動脈硬化疾患の予防に関して、治療や予防の個別化に役立つ科学的エビデンスを確立していく予定です。
■用語解説
注1 SNP(Single Nucleotide Polymorphism):ある生物種集団のゲノム塩基配列中に1%以上の頻度で見られる一塩基が変異した多様性を指します。
注2 ゲノムワイド関連解析(GWAS):ヒトゲノム全体のSNPsの遺伝子型を決定し、SNPsの頻度と病気や量的形質との関連を統計的に調べる方法です。
■図・表と解説
図1 マンハッタンプロットの結果
縦軸:今回の解析でのp-interaction
横軸:SNPのポジション
rs4445711は12番染色体のthioredoxin reductase 1 (TXNRD1)のイントロンに位置する。
図2 ニンジンの摂取頻度およびrs4445711遺伝子型と肥満度・肥満者の割合の関連
左:肥満度
右:肥満(BMI 25kg/m^2以上)との関連
rs4445711のGアレルをもつタイプにおいて、ニンジンの摂取頻度の増加と肥満度・肥満の低下が関連していることが分かる。
表1 肥満度に関してそれぞれの野菜摂取において相互作用があるSNPs
◆研究表題:Carrot consumption frequency associates with reduced BMI and obesity by the SNP intermediary rs4445711
DOI:10.3390/nu13103478
URL: https://www.mdpi.com/1293980
■企業情報
社名 : 株式会社ジーンクエスト
所在地 : 東京都港区芝五丁目29番11号 G-BASE田町
設立 : 2013年6月20日
資本金 : 110,000千円(資本準備金含む)
代表者 : 代表取締役 高橋 祥子
事業内容: 個人向け遺伝子解析事業
URL : https://genequest.jp/
■ジーンクエストリサーチについて
「ジーンクエストリサーチ」は、国内外の企業、研究者等と連携し、主に遺伝子解析キットを通じて蓄積されたゲノムデータを活用し、遺伝子多型と体質、疾患に関する幅広い研究に取り組んでおります。研究活用に関して同意が得られたユーザーのデータを匿名化し、倫理審査委員会により情報の取扱い、提携先における利用目的等の承認を受けた上で、研究活用します。今後も、共同研究パートナー企業、研究者とともに、サービスと研究のシナジーを創出し、新たな価値の創出を目指し実現してまいります。当社では、共同研究の研究者、パートナー企業様を広く募集しております。
ジーンクエストリサーチURL: https://genequest.jp/forbiz/