やじうまPC Watch

ストV公式大会がもたらした「天国と地獄」そして「喜怒哀楽」

 ストリートファイターVのその年の王者を決める「Capcom Cup」(CC)への出場権を賭けた「Capcom Pro Tour(CPT) 2020 East Asia」の決勝トーナメントが7月26日に行なわれた。優勝を決めたのは、格闘ゲーム界の至宝こと梅原大吾選手だった。ストリートファイターVの大会に興味がある人で、まだ試合を見ていない人は、公式配信と同時進行していた「裏配信」を見てもらいたい。結果についてはネタバレしてしまっていて恐縮だが、ゲームのプレイ画面から見える技術のぶつけ合いに加え、極限まで高まった選手の気持ちのぶつけ合いまでが垣間見えてくるからだ。

再度相まみえる梅原とときど

 CPTシーンを積極的に追っていない人にとっては、これだけ聞くと「ああ、あの強い梅原さんがまた勝ったのね」という感想を持つかもしれない。しかし、今回のCPTは、過去とまったく違うかたちで開催されている。従来、CPTは年に30回程度開催され、その順位に応じたポイントが積算され、ポイント上位30人ほどが最終のCCに出場できるかたちとなっていた。

 だが今年は、COVID-19の影響で、すべての大会がオンラインとなり、参加できるのは開催地域に住んでいるプレイヤーのみに変更。開催数も18に縮小されたことに加えて、CCに参加できるのは、基本的には各大会の優勝者のみとなった。つまり、CCへの切符はほぼ一発勝負となったのだ(地域大会は2回あるので、より正確には一発勝負が2回)。

 名前こそ同じCPTの1大会だが、参加者にとって、ほぼすべての状況がはじめてのもの。そして、日本人選手にとっては今回の大会は今年初のCPTでもあった。25日に行なわれた予選の前日あたりから、今回の大会に関する各選手の意気込みなどのツイートがちらほらと見受けられるようになったのだが、その時点からすでに、ベテラン選手からも「今回は緊張する」という、普段とは違う様子が見て取れていた。

 300人以上、しかもいずれ劣らぬ精鋭が勢揃いした初日予選を制したのは、梅原(日本)、ときど(日本)、ふ~ど(日本)、Verloren(韓国)、ももち(日本)、りゅうせい(日本)、様式美(日本)、Cosco(韓国)の8名だった。

 この試合は、カプコン公式のTwitchチャンネルなどで生配信されていたのだが、筆者はそれ以外に、ハイタニ選手の配信も同時に視聴していた。

 ハイタニ選手は、自身もCPTに参加する現役トッププレイヤーの1人だが、カプコン公式ストリーマーとして、個別に解説配信も行なっている。トッププレイヤーによる解説が加わると、筆者のような一般ファンでも、1つ1つの攻防の裏にある「読み」や「意図」に近づけるので、より前のめりになれる。毎回トッププレイヤーが行なっているわけではないが、CPTの楽しみ方として、そういった個別配信も同時に観てみるのはお勧めしたい。

 さて、今回のCPTは、今年行なわれた他の地域のものより盛り上がりを見せていたと思っている。もちろん、筆者が日本人で、参加者の多くも見知った日本人というのもある。ただ、決勝初戦のカードが、あの梅原とときどだったというのは、やはり見逃せない要素だ。

 梅原はこの業界のトップをひた走ってきたプレイヤー。プロゲーマーの代名詞と言ってもいい存在だ。対するときどは、梅原の背中を追い続け、近年の大会では梅原を上回る実績を残す。つまり、業界の人気を二分する2人が相まみえたわけだ。

 それだけではない。2年前の「獣道2」では大敗を喫し、半年前の「TOPANGAチャンピオンシップ」では逆に梅原を完封したときど。今回の戦いは2人だけの対決ではないが、この試合は、どうしたってその背景抜きには語れない。そして、その物語を知っているからこそ、否が応でもその勝負の行く末には注目が集まる。決勝戦でこそないが、トップ8にこの舞台が用意されたのは、できすぎだと言ってもいいだろう。

 果たして、今回は梅原が勝利を手にした。そして、ときどは、敗者復活戦を勝ち上がり、梅原に再挑戦する権利を得るのを待たずして敗北を喫する。今大会でのときどの物語はここで幕を閉じた。

梅原決勝の相手はチームメイトのふ~ど

 ときどに土をつけたのは、ふ~ど。ここから今大会でのふ~どの物語がはじまる。ときどを倒した勢いに乗り、ふ~どは、トップ8で自分を倒したVerlorenに逆転し、梅原が待つ最終決勝に駒を進めたのだった。

 ふ~ども、梅原、ときどらと長年切磋琢磨し、この業界を支えてきた実力者。しかし、なぜか最後の局面で勝ちを掴みきれず、2位に終わることが多く「シルバーメダルコレクター」という苦々しい異名もつけられている。そのふ~どが、汚名返上と言わんばかりのかたちで、生ける伝説に勝負を挑むこととなった。

 ふ~どは、ときど戦のタイミングから、自宅での個人配信を開始していた。その配信を支えていたのは、妻の倉持由香だ。ふ~どの一挙手一投足からも、勝ちへの渇望が窺い知れたが、そばで見守る倉持も緊張に耐え切れず、決勝の試合がはじまる前から人目をはばからずに号泣してしまう。決勝戦での選手の様子をここまで間近で見られるのも異例と言っていい。

ふ~ど配信より。ときど戦とVerloren戦

 勝負は3本先取。ここまで無敗で勝ち上がり、完全に仕上がったとみられていた梅原だが、ふ~どはその牙城を崩し、勝利をもぎ取る。だが、敗者復活から勝ち上がった選手は、無敗の選手に対しては決勝で2度続けて勝つ必要がある。

 迎えた最終戦。ここでの2人の試合は、ハイタニ選手の言葉を借りるなら「もはやリスクとリターンという計算を度外視した殴り合い」。あの経験豊かで、普段は冷静に俯瞰した目線で取り組みを行なう2人が、ただ「勝ちたい」という本能的欲求を満たすためだけに技を繰り出した。

 最終セットまでもつれにもつれた試合の結果、ふ~どが手にしたのは、新しいシルバーメダルだった。

 試合を終えたあと、ふ~どは悔しさを滲ませつつも、号泣する妻をなだめながら、日本酒を自分と妻のグラスに注ぎ、胸にこみ上げるもの押さえ込むかのように飲み干した。あの日本酒は、勝利の晩餐用に用意していたものだったのだろうか。

ふ~ど配信より。梅原戦

 時を同じくして、普段は投稿数が少なく、人間離れしたプレイで観客だけでなく対戦相手をも唸らせた梅原が、こんなツイートを投稿した。

喜怒哀楽の楽以外欠落してるかと思ったが、これは中々嬉しい。

人間で安心した。

CC頑張ります

梅原選手のツイートより