イベントレポート
Qualcomm、160MHz対応11acチップや、中国Allwinnerとの提携を発表
~競合他社との性能差についてもベンチマーク結果などを公開
(2015/6/3 16:34)
携帯電話向けのSoC、モデムなどを製造、販売しているQualcommは、COMPUTEX TAIPEI 2015初日に会場近くのホテルで記者会見を開催した。
記者会見では、IEEE 802.11ac Wave2 Gen2に対応した最新Wi-Fiコントローラの発表、および同社が中国のSoCベンダーであるAllwinnerと提携し、共同でQualcommのSnapdragon 200シリーズを中国のタブレットメーカーなどに販売していくことを明らかにした。
また、Qualcommは記者会見の中で、具体的な名前こそ避けたものの、台湾の会社だという競合他社A、サンタクララの会社だという競合他社B、韓国の会社であるという競合他社Cとの、モデムの転送速度やCPU/GPUの性能の比較データを公開し、QualcommがLTEモデムでも、SoC全体でも競合他社との性能比較で上位にあるとアピールした。
IEEE 802.11ac Wave2の160MHzに対応したQCA9984/QCA9994
今回の記者会見でQualcommは、IEEE 802.11ac Wave2(第2世代の802.11acの規格という意味)対応の新しいWi-Fiコントローラのサンプル出荷を開始したことを発表した。
QualcommのWi-Fiビジネスは、2011年にQualcommが買収したAtheros Communicationsの資産を生かして展開されている。Atheros Communicationsは現在ではQualcomm Atherosに社名が変更され、Qualcommの子会社として活動している。
Qualcomm AtherosのWi-Fiコントローラは、日本ではノートPCやNECプラットフォームズが開発、販売しているWi-Fiルーター「Atrem」シリーズなどに採用されており、日本のユーザーも知らず知らずの間に同社の製品を使っているということが少なくないだろう。
今回QualcommおよびQualcomm Atheros(以下Qualcommに統一する)が発表したのは、「QCA9984」および「QCA9994」という2つのWi-Fiコントローラだ。最大の特徴はIEEE 802.11ac Wave2の160MHz幅の通信に新しく対応したことだ。
IEEE 802.11ac Wave2は、第2世代のIEEE 802.11acの仕様で、Wave1と呼ばれる最初の仕様が最大1.3Gbpsの伝送速度をターゲットにしているのに対し、Wave2では最大3.5Gbpsの伝送速度をターゲットとしつつ、新しい機能が用意されている。
例えば、MU-MIMO(Multi User MIMO)と呼ばれる複数のアンテナを複数のユーザーで仮想的にシェアする方式はその1つだし、IEEE 802.11ac Wave1では80MHzまでだったチャネル幅を160MHzに拡張するのもその1つだ。Wave2では80MHz+80MHzのCA(キャリアアグリゲーション)、160MHzという2つのチャネル幅が追加されており、それを利用すると、伝送速度を80MHz時と比べて2倍に引き上げられる。
Qualcommによれば、現在発売済みの製品で既にMU-MIMOに関してはサポートしていたが、80+80MHzおよび160MHzのチャネル幅はサポートされておらず、今回の2製品(QCA9984、QCA9994)で初めて実装されることになる。また、前世代でサポートされていたMU-MIMOも引き続き機能拡張がされているとQualcommは説明している。
QCA9984が家庭向けの製品用、QCA9994がエンタープライズ向けと位置付けられており、今後ルーターメーカーなどから搭載した製品が登場する見通しだ。
低価格なタブレットを製造する中国のODMメーカーをAllwinnerと共にカバー
また、Qualcommは記者会見の中で、子会社のQualcomm Technologiesが中国のSoCベンダーとなるAllwinnerとの提携を行なったことを明らかにした。Allwinnerは特に中国の中小のODMメーカーに強いことで知られており、チャネル向けなどの低価格なタブレットに搭載されることが多い(日本で中華タブとして認識されているような製品のことだ)。今後AllwinnerはQualcommの製品となるLTEモデムを内蔵したSnapdragon 410/210を中国のODMメーカーなどに売り込み、開発支援やサポートなどを担当する。
この関係はIntelがRockchipと提携し、IntelのSoCであるAtom x3 C3200RKシリーズをRockchipが販売、開発支援やサポート担当するという関係と、かなり近いと言える。Qualcommは自社のリファレンスデザインであるQRD(Qualcomm Reference Design)を中小のOEM/ODMメーカーに対して供給しており、台湾のODMメーカーなどはそれを利用して自社でケースなどを作って販売するという形でスマートフォンを生産できるようになっている。しかし、タブレットに関してはQRDではなかなか中国のODMメーカーにリーチできておらず、実際、昨年(2014年)はIntelのSoCが中国のODMメーカーに採用される結果となっていた。Allwinnerと提携をすることで、「より低価格なタブレット市場向けにもQualcommのSoCを販売していきたい」という狙いがあるものと考えられる。
なお、Qualcommの発表では「Allwinnerが中国のカスタマーに対してSnapdragon 410/210の販売、開発支援やサポートなどを担当する」とだけ発表されており、具体的にAllwinnerが独自にリファレンスデザインを作ってそれを供給するのか、などについては何も触れられていない。今後もタブレット市場はより低価格なソリューションへの注目が集まると考えられており、そうしたODMメーカーとの関係が深いAllwinnerと提携するというのは、理にかなった選択だと言えるだろう。
LTEモデムには数千に渡る機能があり、全てをカバーできるのはQualcommだけ
また、Qualcommは記者会見で、同社としては珍しく他社との比較データを公開した。Qualcomm Technologies マーケティング担当副社長 ティム・マクドノウ氏は「最近競合他社もLTEモデムを出荷しているし、他社が10コアのSoCを出すなど性能面でもQualcommは追いつかれているのではないかという質問をされることが多い。そうした質問に1つ1つお答えするのも大変なので、今回まとめて紹介したい。確かに他社もLTEモデムやLTEモデム内蔵SoCを出荷しつつあるが、LTEモデルには数千に渡る機能があり、それら全てをカバーするのは決して簡単なことではない」と述べ、依然としてQualcommには機能や性能面でアドバンテージがあるとした。
その上で、競合A社、競合B社、競合C社を競合他社として紹介し「競合A社は台湾の半導体メーカー、競合B社はサンタクララに本社がある半導体メーカー、競合C社は韓国の半導体メーカーだ」と述べ、具体名は口にしなかったが、競合A社が台湾のMediaTek、競合B社がIntel、競合C社が韓国のサムスン電子であることを示唆した(実際にはほぼ言っているに等しいが……)。
まずモデムに関する比較を示したマクドノウ氏は、一覧表で他社とLTEモデムの機能の違いを表にして示した。例えば、最近日本の通信キャリアでも導入が始まっている、LTE-Advancedで規定されているCAT6(カテゴリー6)のCA(キャリアアグリゲーション、複数の通信チャネルを束ねて通信を行う機能)とVoLTE(Voice over LTE、LTE通信網を使った音声通話)では、競合B(Intel)は対応しているが、競合A(MediaTek)は対応していないとした。
さらに「他社のモデムでは通話が数十%失敗するなど、回線と組み合わせた時の品質にも課題がある。それに対しQualcommではそれがない。また、消費電力に関しても他社のモデムに比べて低く、かつ高いスループットを実現している」と述べ、QualcommのフラッグシップSoCとなる「Snapdragon 810」に統合されているX10 LTEモデムが機能面で大きく優れているとアピールした。
SoCに内蔵されているCPUやGPUの性能についても触れ、競合A(MediaTek)や競合C(サムスン電子)とのベンチマーク結果を公開した。それにより、OpenGL ES 3.0を利用したテスト(CL Benchmark ES 3.1 Manhattan-Original)でQualcommのSnapdragon 810が競合A(MediaTeK)に比べて倍、さらにOpen GL ES 3.1を利用したテスト(CL Benchmark ES 3.1 Manhattan-3.1)で競合C(サムスン電子)に比べて3倍という結果であることが明らかになった。
ただし、こちらの性能競争では、競合B(Intel)との結果は公開されないことが明らかになると、会場からは失笑が起こり、どうやら競合B(Intel)には性能で負けているのだという印象(実際にそうかどうかは別の話として)を与えてしまう結果になってしまったのはちょっと失敗だったと言えるだろう。