ARM Technical Symposia 2011 Japanレポート
~2020年には累積出荷が1,500億個を超えるARMコア

ARM Technical Symposia 2011 Japanのスポンサー企業とパートナー企業

11月11日 開催
会場:東京コンファレンスセンター・品川



 英国の大手CPUコア・ベンダーであるARMの日本法人アームは、顧客向けのイベント(講演会および展示会)「ARM Technical Symposia 2011 Japan」を11月11日に東京コンファレンスセンター・品川で開催した。

 アームはここ数年、毎年11月に「ARM Forum」の名称で顧客向けのイベントを開催してきた。例えば2009年は11月10日に「ARM Forum 2009」を、2010年は11月11日に「ARM Forum 2011」を開催している。会場はいずれも東京コンファレンスセンター・品川である。ARMの顧客にとって、11月に東京で開催されるイベントは恒例行事になっている。

 2011年のイベントは名称が変わり、「ARM Technical Symposia 2011 Japan」となった。これはARM本社および現地法人が世界各地で開催する顧客向けイベント「ARM Technical Symposia」の一環と位置付けたことが理由である。ただし名称は変わったものの、イベントの内容そのものには大きな変更はなかった。午前中は「キーノート・スピーチ・トラック」と呼ぶ全体講演で構成されており、午後は「テクニカル・セミナー」と呼ぶ、6本のトラックが同時進行する技術講演で構成されている。ワールドワイドのイベントとなったことの効果は、午後の技術講演で英国ARMを中心とする海外の講演者が増えたことくらいのようだ。

●Cortex-A9コアの国内採用事例を列挙

 午前の「キーノート・スピーチ・トラック」がアーム代表取締役社長の西嶋貴史氏による挨拶で始まったのも、前年と変わらない。西嶋社長は今年も本イベントが満員になったことを感謝するとともに、ARMが提供するCPUコアとGPU(Graphics Processing Unit)コアの製品系列を紹介した。GPUコア「Mali」をCPUコアとともに取り上げたのは、たぶん、今年が初めてである。

 また、最先端のCPUコア「Cortex-A9」を日本国内の半導体メーカーと電子機器メーカーがSoC(System on a Chip)に採用した事例を、以下のように列挙した。

・富士通セミコンダクター:カーナビ用画像処理LSI「MB86R11」(動作周波数400MHz、65nmプロセス)
・パナソニック:インターネット・テレビ受像機用LSI「MN2WS0220」(デュアルコア、動作周波数1.4GHz)
・ルネサス エレクトロニクスとルネサス モバイル:車載情報端末向けLSI「R-Car H1」(4コア、動作周波数1GHz)
・ソニー・コンピュータエンタテインメント:携帯型ゲーム機「Playstation Vita」用システムLSI(4コア)
・東芝:テレビ受像機用LSI「レグザエンジンCEVO」(デュアルコア、40nmプロセス)

 なおARMの事業形態について補足しておこう。ARMはCPUコアやGPUコアなどの回路コアを開発し、半導体メーカーに有償でライセンス供与する。半導体メーカーは、ARMからライセンス導入した回路コアを使用して独自仕様のマイクロプロセッサやSoC、マイクロコントローラ(マイコン)などを開発する。開発した半導体チップが市場に出荷されると、半導体チップの価格に応じたロイヤルティをARMは受け取る。このライセンス売り上げとロイヤルティ売り上げが、ARMの主要な収入となっている。

CPUコアの製品系列。赤線で囲ったCPUコアが2011年に発表したものCPUコアとGPUコアの製品系列。赤線で囲ったのはイベントの前日(11月10日)に発表したハイエンドのGPUコア「Mali-T658」ARMの事業形態(ビジネスモデル)。2009年11月に開催されたARM Forum 2009で西嶋社長が示したスライド

●代表的なコアのライセンス数は2年で2倍強に

 西嶋社長に続き、英国ARMのプレジデントをつとめるTudor Brown氏が、「成功をもたらすパートナーシップ(Partnerships Turn Opportunities into Success)」との題目で講演した。

 Brown氏はまず、ARMの過去25年におけるCPUの進化を概観した。1985年に同社が開発した最初のCPU「ARM1」は、6,000ゲートの回路を7mm角のシリコン・ダイに収容していた。25年後の2010年時点でローエンドのCPUコア「Cortex-M0」は、8,000ゲートの回路を0.07mm角のシリコン・ダイに収容している。ゲート規模はあまり変わらないものの、シリコン面積ではわずか1万分の1と極めて小さくなった。一方、ARM1とほぼ同じ7.4mm×6.9mmのシリコン・ダイには、ARM1の1万倍に相当する、1億ゲートの回路を搭載している。CPUコア「Cortex-A9」のデュアルコアやGPUコア「Mali-400」などを内蔵したSoCの例で比較した。

 この25年間で、ARMの回路コアはさまざまな応用分野のSoCに搭載されるようになった。例えば2010年には年間で220億個のSoCが出荷されたが、その中で約28%にARMの回路コアが搭載されたという。携帯電話端末用SoCでの搭載比率は約90%、ストレージ用SoCでの搭載比率は約50%に達すると述べていた。

英国ARMのプレジデントを務める、Tudor Brown氏による基調講演のタイトルARMの過去25年におけるCPUコアの進化。25年間でシリコン面積は1万分の1に減り、ゲート数は1万倍に増えた
2010年におけるSoCの需要(出荷数量)とARMコアの搭載比率2015年におけるSoCの需要予測とARMコア出荷数の拡大予測ARMの回路コアが搭載される分野の広がり。10セントと安価な半導体チップにも、1000ドルと高価な半導体チップにも、ARMコアが載っている

 続いてBrown氏は回路コア製品のライセンス数を示した。講演では示されなかったが、2009年11月のARM Forumで公表されたライセンス数と比較しよう。旧世代のCPUコアであるARM7ファミリ、ARM9ファミリ、ARM11ファミリはわずかながら、この2年間でライセンス数が増えた。ARM7は171ライセンスから172ライセンスに、ARM9は257ライセンスから269ライセンスに、ARM11は72ライセンスから82ライセンスに拡大した。

 ライセンス数増加の主役はもちろん現行世代の回路コアで、特にCortex-AファミリとCortex-Mファミリ、GPUコアのMaliシリーズの増加が著しい。いずれもこの2年間でライセンス数が2倍以上に増えた。Cortex-Aファミリは29ライセンスだったのが77ライセンスに、Cortex-Mファミリは44ライセンスだったのが109ライセンスに、Maliシリーズは24ライセンスだったのが51ライセンスに、それぞれ拡大した。なおCortex-Rファミリは17ライセンスが21ライセンスへとわずかに増えた。Cortex-Rファミリはやや不調に見える。

2009年11月時点におけるARMコアのライセンス数(累積)。ARM Forum 2009で公表されたスライド2011年11月時点におけるARMコアのライセンス数(累積)。GPUコアの「Mali」がイラストに加わった。ここでもARMにおけるGPUコアの地位向上がみてとれるGPUコア「Mali」の普及状況。29件のSoC設計にMaliが採用されており、ロイヤリティの支払い企業は10社に達している

 それから将来の市場規模を、Cortexコアのシリーズ別に展望した。始めに、ディスプレイとインターネット接続機能を備えた電子機器が、2015年には40億台の市場規模になると予測した。内訳は携帯電話機や携帯型メディア・プレーヤー、車載用娯楽機器などで、アプリケーション・プロセッサ用CPUコア「Cortex-Aシリーズ」が対象とする市場である。

 続いてリアルタイム制御機器の市場規模は、2015年に110億台になるとの予測を示した。内訳は携帯電話のベースバンドやネットワーク機器、プリンタ、ストレージなどで、リアルタイム・プロセッサ用CPUコア「Cortex-Rシリーズ」が対象とする市場である。

 さらにマイクロコントローラ(マイコン)搭載機器の市場規模は、2015年に190億台になるとの予測を示した。内訳はスマートメーターや民生用リモコン、車載用マイコン、スマートカードなどで、マイクロコントローラ用CPUコア「Cortex-Mシリーズ」が対象とする市場である。

 これらの市場に向けてARMコアの出荷数量は順調に拡大しており、累積出荷数量は2002年の時点で10億個だったのが、2010年の時点では250億個を超えるようになった。四半期ベース(3カ月ごと)の出荷数量は2011年7~9月期に約20億個に達しており、さらに増えつつある。2020年には、累積出荷数量は1,500億個を超えるとの見通しを示していた。

ディスプレイとインターネット接続機能を備えた電子機器の出荷台数予測(2015年)リアルタイム制御機器の出荷台数予測(2015年)
マイクロコントローラ搭載機器の出荷台数予測(2015年)ARMコアの累積出荷数量の実績と予測

 このほか展示会場では、ARMコア内蔵のSoCを搭載したタブレットPCやスマートフォン、PC周辺デバイス、電子玩具などが展示されていた。Cortex-A9コア、Cortex-M3コアを採用した製品が多く、両者が「旬」のCPUコアであることが分かる。

ARMコア内蔵SoCを搭載した機器の例。中央奥は「Tegra2」チップ(Cortex-A9デュアルコア)を搭載したLenovo Thinkpad、右奥は「Snapdragon」チップを搭載したHTCのAndroidタブレット、左手前は「STM32F1」マイコン(Cortex-M3コア)を搭載したレーザーマウスARMコア内蔵SoCを搭載した機器の例(続き)。「OMAP4430」チップ(Cortex-A9デュアルコア)を搭載したRIMのタブレットARMコア内蔵SoCを搭載した機器の例(続き)。左はOMAP4チップ(Cortex-A9デュアルコア)を搭載したLG電子のAndroidスマートフォン、右はCortex-M3内蔵チップを搭載した電子玩具「Sifteo Cubes」

 CPUコアやGPUコアなどをARMが発表した時点から、製品が市場に登場するまでには少なくとも3年~4年の時間を要する。「旬」のCPUコアであるCortex-A9が発表されたのは2007年である。その意味では、ARMは常に「3年後」を視野に入れて新しいコアを発表している。2010年にはハイエンドのCPUコア「Cortex-A15」を発表し、今年はエネルギー効率を重視したCPUコア「Cortex-A7」を発表した。A15とA7の両者が2013年~2014年に「旬」のコアとなる。そして2013年までには、次の世代を担うコアが発表されるはずである。次世代コアの基盤となる新たな命令セット・アーキテクチャ「ARMv8」も今年、発表された。2012年秋のイベントでは、次世代コアの姿がより鮮明になってくるのだろう。

(2011年 11月 15日)

[Reported by 福田 昭]