【Flash Memory Summit 2009】
3bit/セルのNANDフラッシュ技術をMicronが語る

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会期:8月11~13日(現地時間)
会場:米国カリフォルニア州サンタクララ
   Santa Clara Convention Center



 「Flash Memory Summit 2009」の初日である8月11日(現地時間)にMicron TechnologyとIntelは共同で、3bit/セル方式(1個のメモリセルに3bitのデータを記憶する方式)の32Gbit NANDフラッシュメモリの開発が完了したことを報道機関向けに発表した。両社が3bit/セル方式のNANDフラッシュメモリを製品化するのは今回が初めて。

 3bit/セル方式の32Gbit NANDフラッシュメモリは34nmのCMOS技術で製造する。チップ(ダイ)面積は126平方mmとかなり小さい。Micron Technologyはすでにサンプル出荷を始めており、2009年第4四半期には量産出荷を始める計画である。Flash Memory Summitに併設の展示会ではMicronのブースに、3bit/セル方式の32Gbit NANDフラッシュメモリを作り込んだシリコンウェハが展示してあった。

3bit/セル方式の32Gbit NANDフラッシュメモリのチップ写真3bit/セル方式の32Gbit NANDフラッシュメモリを作り込んだシリコンウェハ。テーブルにウェハが剥き出しのままで置かれてあった

 Flash Memory Summitの講演会では、NANDフラッシュメモリの2bit/セル方式と3bit/セル方式に関してMicron Technologyが発表していた。本レポートではこの2件の講演概要をご報告する。

 最初にご紹介するのは、同社でアプリケーション・エンジニアリング・マネジャーを務めるMichael Abraham氏の講演である。Abraham氏は、1bit/セル(SLC)方式から2bit/セル(MLC-2)方式に移行すると、長期信頼性にどのような影響があるかを報告した。

 NANDフラッシュメモリはデータの書き換え回数に制限がある。SLCの書き換え可能な回数(Endurance)は10万回であるのに対し、MLC-2ではその10分の1である1万回に減少する。そして今後の微細化ととともに、MLC-2の書き換え可能な回数はさらに減る傾向にある。ただしコンシューマ用では、書き換え回数の減少はそれほど問題にならないとする。

 とはいうものの、誤り訂正(ECC)機能の強化は免れない。特にMLC-2では、ECCを急速に強化せざるを得ない。SLCでもECCを強める必要がある。

 書き込み性能では、シークエンシャル書き込みのスループットを維持するために、MLCではページサイズ(書き込みの最小単位)を拡大する。4KBだったページサイズを8KBに増やす。

 またランダム書き込みでは、ブロック(消去の最小単位であり、複数のページで構成される)を構成するページの数に留意する必要がある。MLCではページの数が増えると、書き込み時間が急速に増大するからだ。NANDフラッシュメモリの書き込み動作では始めにブロックの消去を実行するので、消去前に対象ブロックのデータをまとめてコピーしておく。コピー時間はページ数に依存するので、ブロックのサイズが大きいとコピー時間が増大する。例えばフラッシュメモリ搭載カードでは、書き込み時間に制限を設けている製品がある。ブロック当たりのページ数をみだりに増やすことは望ましくない。

書き換え可能回数と誤り訂正機能の将来動向ページサイズとシーケンシャル書き込みスループットの関係ブロック当たりのページ数と書き込み時間の関係

 次にご紹介するのは、Micron Technologyでシニア・アプリケーション・エンジニアを務めるTerry Grunzke氏の講演である。3bit/セル(MLC-3)方式の技術概要を説明した。

 MLC-3は、1個のメモリセルに3bitのデータを記憶する。3bitのデータを記憶するには、メモリセル(トランジスタ)のしきい電圧を8段階に区分けし、区分けした通りに書き込む。といっても8通りのしきい電圧を直接に書き込むのではない。まず2通りのしきい電圧を書き込んでから、それぞれを2つに分け、さらに2つに分けることで最終的に8個のレベルにしきい電圧を分けている。確実さを重視した書き込み手法だ。

 当たり前のことだが、MLC-3では記憶容量当たりのコストは、SLCおよびMLC-2よりも低くなる。大容量のNANDフラッシュメモリを低いコストで製造できる。

 ただし低いコストの見返りに、MLC-3では性能を失う。書き込み時間と読み出し時間が伸び、それぞれのスループットは低下する。例えば書き込みスループットはSLCでは30MB/sec~35MB/secであったのが、MLC-3では5MB/sec~8MB/secに下がってしまう。MLC-3は書き込みがいくつもの段階に分かれているので、時間がかかってしまうのは当然とも言える。

 また書き換え可能回数も低下する。講演では具体的な回数を示さなかったが、MLC-3ではMLC-2よりも低い書き換え可能回数にとどまると説明していた。MLC-3の書き換え可能回数が下がるのは原理的なものなので、MLC-2を上回ることはありえない。なぜなら、MLC-3では1回のデータ書き込みで実質的には少なくとも3回の書き込みを実行しているからだ。その分、メモリセルの劣化は必ず早まる。

 したがってメモリコントローラはSLCのNANDフラッシュメモリとは大きく異なるものになる。MLC-3のコントローラはECCを強化したり、データのアドレスを散らしたり(スクランブル)する必要がある。

 またMLC-3にはアプリケーションとの相性が存在すると講演では述べていた。USBメモリには向いているものの、ポータブルメディアプレーヤ(PMP)ではECCが必要、SDカードではファームウェアの調整が必要といった条件がついてくる。

3bit/セル(MLC-3)方式の書き込みステップ書き込みスループットの違い。1BPCはSLC、2BPCはMLC-2、3BPCはMLC-3のこと3bit/セル(MLC-3)方式のNANDフラッシュメモリの応用

 Flash Memory Summitで、Micron Technologyは高い存在感を示していた。ずいぶん講演が多いなと感じてプログラムをチェックしたところ、同社による講演は6件もあった。フラッシュメモリのベンダーでは最も多い講演数とみられる。昨年のFlash Memory Summitでも、同社は少なくない数の講演をこなしていた。日本では、同社の講演にふれる機会はあまり多くない。米国における同社の精力的な活動を目の当たりにし、認識を新たにする思いだった。

(2009年 8月 17日)

[Reported by 福田 昭]