イベントレポート

AI工場もEVもデータセンターも……Foxconnの野望を語る舞台に“主役級”フアンCEO登場

Hon Haiの基調講演に登壇したNVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏(左)とHon Hai Technology Group(Foxconn)会長 ヤン・リュー氏(右)

 5月20日より台湾においてCOMPUTEX TAIPEI 2025が開催されている。開幕初日となった午前中には、台湾のEMSベンダーHon Hai(Foxconn)による基調講演が行なわれた。基調講演にはHon Hai Technology Group(Foxconn)会長 ヤン・リュー氏が登壇し、スマートマニファクチャリング(AIにより実現される工場のこと)、スマートEV(AIによる機能が付加された電気自動車)、スマートシティーなどに関して説明を行なった。

 講演の後半には、ここ数年Hon Haiの強力なパートナーになっているNVIDIAのCEO ジェンスン・フアン氏が登場し、Hon Haiとのパートナー関係などに関して説明を行なった

NVIDIAのファンCEOとの会食で示された手書きのイラストがスタートだった

Hon Hai Technology Group(Foxconn)会長 ヤン・リュー氏

 Hon Hai Technology Group(Foxconn)と言えば、日本でシャープを傘下に収めるなどしているため、現在では著名な企業の1つ。Hon Haiの本業は、EMSやODMといった受託製造事業で、PCやスマートフォンなどの製造を日米欧のブランドメーカーから請け負って製造している。

 よく知られている例では、AppleのiPhoneが中国にあるHon Haiの工場で生産されているのがその端的な例だろう。ほかの多くの電機メーカーやPCメーカーなどがHon Haiの受託製造サービスを利用しており、もしかたら今読者の皆さんが本サイトを見るのに使っているPCやスマートフォンもHon Haiの工場で製造されたものかもしれない。

AIファクトリーの実現を目指す

 そうしたHon Haiが近年力を入れているのが、いわゆるAIファクトリーや、スマートマニファクチャリングと呼ばれる、デジタル技術を活用した工場の近代化だ。いわゆるデジタルツインと呼ばれるシミュレーション技術と物理を融合させることで、工場の稼働率を上げたりすることを可能にする取り組みだ。

構想の元となったフアン氏手書きのイラスト
そのAIファクトリーの構造

 Hon Hai Technology Group(Foxconn)会長 ヤン・リュー氏は同社がそうしたことに取り組むことになったきっかけとして、数年前に同氏がNVIDIAのジェンスン・フアンCEOと会食した際に、ファン氏が手書きで書いたメモが始まりだった。そこからさまざまな取り組みが始まり、GTC 24、GTC 25などのNVIDIAのイベントに参加し、その逆にNVIDIAのジェンスン・フアンCEOがHon Haiの展示会に参加するなど両社のより密度の高い関係が始まったと説明した。

高雄に100MW級の電力を必要とする巨大データセンターを建設する

スマートEV
スマートシティ構想

 リュー氏はほかにも三菱自動車が最初のカスタマーとして発表された同社のスマートEV事業、そして高雄で検証が進んでいるeBus(電動バス)から得られたデータによりスマートシティの開発が進んでいる事例などを紹介しながら、そうしたスマート事業の成功に向けて、NVIDIAのB200などのGPU、NVIDIAのソフトウェアスタックなどを利用し、同社が自社で開発したファウンデーションモデルとなるFoxBrainを運用するデータセンターとして台湾の高雄に100MW(メガワット)の電力を消費するデータセンターを建設しているという。

FoxBrain

 といっても台湾も、100MWの電力を供給してもらうのは大変なので、まずは20MWでスタートし、その次の40MWといったように供給する電力を増やしてもらう計画だと説明した。

AIは人間を代替するが、代替されるのは開発途上国から出稼ぎしたり、アウトソースされている労働者になる可能性が高い

 また、リュー氏はAIが人間の働き方に与える影響について触れ「調査によれば、AIが普及すると影響を受けるのは、生産性の低い労働者、特に開発途上国などから先進国に送り出されている出稼ぎ労働者になると考えられる。この点は開発途上国の指導者は注意して置くべきだ」と述べ、よく議論になるAIが人間を置きかえるというのは、主に低賃金で働いているような労働者で、特に開発途上国から先進国に出稼ぎにいっている、あるはコールセンターのように先進国から開発途上国にアウトソースされているような業務が置きかえられるだろうと指摘した。

NVIDIAのフアンCEOがHon Haiの基調講演に乱入し、基調講演をジャック!

NVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏とHon Hai Technology Group(Foxconn)会長 ヤン・リュー氏(右)

 Hon Haiの基調講演の後半には、そうしたHon Haiのデータセンターに半導体を提供するNVIDIAのジェンスン・フアンCEOが登壇し、リュー氏との対談を行なった。このフアン氏が登場してから約27分間、ほとんどの時間をフアン氏が話すという時間になり、基調講演の約65分の時間のうち40%はフアン氏との対談に使われたというから、基調講演としてはかなり異例で、実質的にHon HaiとNVIDIAの共同基調講演のような形になった。

 なお、フアン氏はこのHon Haiの基調講演の後に行なわれたMediaTekの基調講演にも参加しており、そちらでも「ジェンスン・フアン・オンステージ」のような形を再現しており、今回フアン氏は5つあるCOMPUTEXの基調講演のうち、3つで主演ないしは順主演をつとめた形になる。

 この中でフアン氏はHon Haiが取り組んでいるAIファクトリーの構想などについて議論した他、AIファウンダリーやフィジカルAIなどのNVIDIAが今回のCOMPUTEXでアピールしている取り組みに関して説明した。

NVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏

 また、リュー氏が「ちょっと個人的なことを聞いていいかな?中国の古い格言では、成功を収めた男性の影には素晴らしい女性がいるという。その意味であなたの配偶者について教えてほしい」というとフアン氏は照れながら「30年以上前に、まだ私がオレゴンで電気工学を学んでいた時に、妻と知り合った。当時私は17歳で、彼女は19歳でそれからずっと歳上の女性とお付き合いしている(笑)」とその馴れ初めを説明した。

 その上でフアン氏は「クラスには250人の学生がいて、女性の生徒は3人しかいなかった。その中で私が一番美人だと思った女性のところに行って超能力を使ったんだ」と振り返る。リュー氏にその超能力ってなんだって聞かれると「ねぇ、僕の宿題をみたくない?と言ったんだよ(笑)、それからは毎週日曜日にデートできるようになった」というと会場は大いに沸いた。

フアン氏が登場すると、ファン氏の追っかけの人(またの名をメディア関係者)が前に来てすごいことに……

 フアン氏が登場して以降、多くのメディアが前の方にきて写真を撮影し、報道関係者でなくても熱心にスマートフォンでフアン氏の写真を撮影するという状況になっていた。その様子は、ITの基調講演を聴きに来たというよりは、ロックスターのコンサートに来たような不思議な基調講演になり、そのまま終演となった。