イベントレポート
GeForceを増産へ。NVIDIAフアンCEOが公約
2021年6月2日 17:35
NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは、COMPUTEX TAIPEI Virtualの開催に合わせて報道関係者向けの質疑応答を行なった。この中でフアンCEOは、GeForceの供給がタイトな問題への対処と、2023年に投入するArm CPU「Grace」の展望について語った。
GeForceの品薄への対策は二段構え
NVIDIAはCOMPUTEX TAIPEIにおいて、同社のGeForce RTX 30シリーズの最新製品となる「GeForce RTX 3080 Ti」、「GeForce RTX 3070 Ti」という2つの製品を追加した。
フアン氏は今回の質疑応答を、同社の新本社社屋「Voyager」(ボイジャー)からオンラインで行なった。NVIDIAは以前「Endeavor」(エンデバー)という新社屋を、同社の旧社屋から道を挟んだ反対側に建設した。Voyagerは、そのEndeavorに隣接して建設された新しい建屋で、2018年から建設が開始されていたものだ。
フアン氏によればVoyagerの敷地面積は75万平方フィートで、外見からはEndeavorと対になっているデザインになっており、2つの建物が一体感があるデザインになっているという。まだ落成式などは行なわれていないが、今回フアン氏は初めて完成しつつあるVoyagerに足を踏み入れ、記者からの質問にオンラインで答えた。
フアン氏は「COMPUTEX TAIPEIではGeForce RTX 3080 TiとGeForce RTX 3070 Tiを発表した。これは1年に1度予定されている製品のアップデート計画に基づくもであり、ほかにも140を越えるGeForce搭載ノートブックPCが発表されている」と述べ、今回のCOMPUTEX TAIPEI Virtualで発表されたGeForce RTX 3080 TiとGeForce RTX 3070 Tiは、元々予定されていた製品計画に基づいた順当なアップグレードだと説明した。
その上で、現在世界的に品薄となり価格上昇が発生しているGeForceの供給問題に関しては「例えばDRAMやフラッシュメモリなどに世界的に半導体の供給不足が起きているが、我々のGeForceが足りないというのはそうした半導体供給不足とは直接的には関係がない。というのも、我々が提供している製品のMSRP(Manufacurer's Suggested Retail Price、メーカー希望小売価格)は何も変わっていないが、暗号通貨のマイニングが世界的な流行になってしまったことで需要が高まっているため、流通事業者のレベルで価格が上昇してしまっているのだ。このため、GeForceを購入したいユーザーが買えないという状況が発生していたのだ。
そこで、GeForceにハッシュレートの制限を導入した。そしてハッシュレートを制限しないバージョンとなるCMPを別途リリースした。暗号通貨のマイニングをやるユーザーにはCMPを買ってもらい、ゲーマーにはGeForceを届けられるようにする、これが最大の理由だ。よって今後徐々に価格は下がっていくと考えている。既に第2四半期には十分な量の供給を増やしており、今年の後半にさらに供給を増やす計画だ。可能ならばさらに供給を上乗せしたい」と述べ、供給不足の問題を解決していきたいと述べた。
GeForceの購入はゲーマーにとっては「消費」だが、そうした暗号通貨のマイニングに使っているユーザーにとっては「投資」という違いがある。投資に使う人にとっては希望小売価格よりも高かろうが、最終的に元が取れると考えれば購入するが、一般消費者であるPCゲーマーはそうではない。
そこでこの状況を整理するために、GeForceのハッシュレートを制限し、GeForceはゲーマー向けとポジションを明確にし、CMPはハッシュレートを制限せず価格帯を変えて投資向けのユーザーに引き続き販売していく、これがNVIDIAの基本的な考え方ということになる。
現在は第2四半期(4月~6月期)の最後の月になるが、市場には徐々にGeForceが供給され始めている。依然としてタイトなことに変わりはないが、フアン氏が言うように今年の後半に向けて供給が増えていくのであれば、現在の品薄、価格高騰の状況も徐々に改善されていく可能性が高い。
Graceは既存のx86プロセッサを置き換えるモノではない、サーバー市場のCPU選択は是々非々で
また、NVIDIAはGTC 2021でデータセンター向けのArm CPUとなる「Grace」を発表し、COMPUTEX TAIPEI VirtualではArm CPUを搭載したサーバーの認証プログラムを開始するなど、同社がすることを買収したArmのソリューションの採用を強めている。
そうしたデータセンター向けソリューションでのArmの採用について、将来的に今はx86の独占市場となっているデータセンターのCPUにArmが採用される可能性があるのか?という質問に対しては「多様性が重要だ。現在のところx86はデータセンターのさまざまなところで利用されている。重要なことは市場特性に応じたCPUの選択だ。例えば、われわれAIサーバーであるDGXにはAMDのx86プロセッサが採用されている、5GならMarvell TechnologyのArm CPUが採用されている。日本の富岳も富士通のArm CPUを採用している。このようにそれぞれの市場にあった選択でよいと私は考えている。Armも、x86もそうした中の重要な選択肢であり続けるだろう。
(Graceに関して言えば)メモリやGPUの間で十分な帯域幅が用意されているCPUが市場にはない。それらの要素はAI、特にモデルが巨大なAIでは今後必要になっていくとわれわれは考えている」と述べ、NVIDIAが決してx86をArmで置き換えるという戦略を取っているわけでなく、CPUの選択に関しては是々非々で臨んでいくと述べた。
ArmアーキテクチャのCPUとなるGraceに関しては、巨大なAIのモデルを処理するのに、GPUとメインメモリやGPUとGPU間で十分な帯域幅が必要であり、そのために特別なCPUが必要だからArmベースで作ったのだと説明した。
なお、Armの買収プロセスに関して問われると「現在の所各国の規制機関の承認待ちだ。通常であれば、まず米国の承認が降り、その後欧州、中国と行なわれていくことになる。通常これは約18カ月かかり、来年の初頭には結論が出るだろう。
私はこの取引に自信をもっている。なぜならばこの取引は顧客にとってもメリットだからだ。彼らはCPUを持っており、われわれはGPUやDPUを持っている。両社がそれらを併せて顧客に提供することができるのだから、大きなメリットであると考えている」と述べ、世界各国の規制機関の承認は早ければ来年の初頭で、フアン氏自信は承認されることに疑いはないと自信を示した。