イベントレポート

Core i7-6950Xの殻割り準備ができました。実行しますか

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Broadwell-E(Roman Hartung氏提供)

 5月31日に発表されたコンシューマ初の10コアCPU「Core i7-6950X」。国内で20万円超というかつてない価格帯に驚く読者も多いようだが、世界に誇るオーバークロッカーにとって20万円のCPUは安い買い物のようである。

 COMPUTEX会場で、PC向け製品を製造/開発しているCASEKING GMBHのプロダクトエンジニアであるRoman Hartung氏に会う機会があった。彼は製品開発者であるとともに、世界に誇るオーバークロッカーの1人でもある。

 今回彼が見せてくれたのが、Core i7-6950XなどのBroadwell-Eプロセッサのヒートスプレッダを簡単に外せるようにする、いわゆる「殻割りツール」だ。

 Broadwell-Eなどの高TDPのハイエンドプロセッサは、メインストリーム向けのSkylakeとは異なり、ヒートスプレッダとダイの間はグリスではなくハンダ付け(ソルダリング)されている。熱伝導率はグリスと比べものにならないほど高いので、わざわざ外す必要性もないのだが、どうやらオーバークロッカーにとってヒートスプレッダはどうも邪魔者でしかないようだ。

 一般的に、ダイとヒートスプレッダがソルダリングされている場合、いったん外部から熱を加えて、ハンダ部分を溶かしてから外すといった作業が必要になる。さもないと、ハンダによる接合でダイを基板から剥がしてしまい、CPUを完全に破損させてしまう可能性がある。

 ところがHartung氏が開発したツールは、基板とヒートスプレッダを逆方向に力をかける、最近Haswell/Broadwell/Skylakeでは一般的になった“万力法”を応用したもの。Hartung氏によれば「角度と方向さえ間違わなければ殻割りできる」といい、同氏はこれまで過去に8個割ったものの全て無事だったという。

 さて、実際に割られたBroadwell-Eだが、なかなか興味深い。写真を見ると、2段構造になっているのが分かる。ダイはまずLGA2011-v3のパッケージより二回り小さい基板に装着されており、その基板をLGA2011-v3の基板に装着/変換していることが分かる。

殻割りされたBroadwell-E(Roman Hartung氏提供)
こちらはHaswell-Eの殻割り(Roman Hartung氏提供)
Broadwell-E(上)とHaswell-E(下)の比較。コアが増えているにもかかわらず、14nmへのシュリンクによりダイが小さくなっている(Roman Hartung氏提供)
Broadwell-Eは基板が薄いため、もう1枚の基板で嵩上げされている(Roman Hartung氏提供)

 実は筆者も最初Broadwell-EPを手にした時、底面の基板がやたらと薄く、なにやらその上に別基板が載って嵩上げしているに見える……と思ってはいたのだが、殻割りによってその見解は正しかったことが証明された。

 理由として2つほど考えられる。1つ目は、Broadwell-E世代からSkylakeと共通の薄い基板を使うことで製造コストを下げようとしたが、Broadwell-EはこれまでのHaswell-Eとプラットフォームを共通化している関係上、薄い基板にそのままダイを載せるとパッケージ全体が薄くなってしまい、きちんとCPUソケットがロックされなくなる。そこで、互換性を保つためにもう1枚の基板で嵩上げをしているわけだ(ヒートスプレッダを嵩上げすることも可能だが、そうすると排熱に問題が出てくる可能性がある)。

 2つ目は、Broadwell-Eは小さなパッケージを用意しようとしている可能性だ。例えばXeon-Dのようにマザーボード直付けパッケージにするならば、この上の部分だけを取れば実現できるわけで、LGA2011-v3向けの余分なパッケージを製造するコストを抑えられる。

 上はあくまでも筆者の予想だが、いずれにしてもBroadwell-Eは最初からLGA2011-v3向けに設計された製品ではないことは明白である。

 最後にBroadwell-Eのオーバークロックに関する情報アップデートを2つほどしておきたい。1つ目は、速報の記事でBroadwell-Eはコールドバグなしと書いたのだが、どうやら筆者の聞き間違いのようで、Hartung氏によれば-190℃ではなく-100~-90℃の間ということだったらしい。耐性の良い個体でも-110℃が限界だということで、お詫びして訂正したい。

 もう1つは、Haswell-Eの時代では有効だった、隠しピンを利用して本来制御できない部分の電圧を制御できるようにする、いわゆる「OCソケット」が、Broadwell-Eで完全に無効にされたということだ。Broadwell-Eでも隠しピンのパターンはあるのだが、ダイに接続されておらず制御できない、とのことだ。

 Intelがなぜそこまでオーバークロッカー封じをする必要があったのか定かではないが、少なくとも市場に出回っているX99マザーボードの多くが、Broadwell-Eのオーバークロックに関しては同じラインに立たされたと言える。

Broadwell-Eのウェハ