レビュー

ついにコンシューマも10コア時代に突入。20スレッド動作の「Core i7-6950X」登場

Core i7-6950X Extreme Edition

 Intelは5月31日、Broadwell-Eことハイエンド向け第5世代Intel Coreプロセッサを発表し、同日より販売を開始した。発売に先立ってBroadwell-Eの最上位モデルIntel Core i7-6950X Extreme Editionをテストする機会が得られたので、今回はベンチマークテストを通してIntelの新たなハイエンドCPUをチェックする。

10コア20スレッドCPUが追加されたBroadwell-E

 開発コードネームBroadwell-EことIntel Core i7-6900/6800シリーズは、第4世代Intel CoreプロセッサであるHaswell-Eの後継となるCPUだ。CPUのアーキテクチャをHaswellからBroadwellに刷新。プロセスルールも22nmから14nmへ微細化した。CPUソケットは引き続きLGA2011-v3を採用しており、Broadwell-E対応UEFIが公開・適用されていれば、既存のLGA2011-v3対応マザーボードで動作する。

 今回テストするIntel Core i7-6950X Extreme Edition(以下Core i7-6950X)は、Broadwell-EベースのIntel Core i7-6900/6800シリーズの最上位モデル。10基のCPUコアを備え、Hyper-Threadingテクノロジに対応した10コア20スレッド動作のCPUである。CPUクロックは3GHz、Turbo Boost時の最大CPUクロックは3.5GHzに達する。L3キャッシュは25MB、メモリインターフェイスはDDR4対応の4ch(256bit)で、DDR4-2400をサポート。TDPは140Wだ。

Core i7-6950X Extreme Editionの背面

 シリーズ最上位という位置付けで言えばIntel Core i7-5960X Extreme Edition(以下Core i7-5960X)の後継となるCore i7-6950Xだが、製品ラインナップの上ではCore i7-5960Xより一段上の製品となり、Core i7-5960Xを置き換える製品としては、8コア16スレッドCPUのIntel Core i7-6900Kが用意される。

【表1】Broadwell-Eの主なスペック
Core i7-6950X
Extreme Edition
Core i7-6900KCore i7-6850KCore i7-6800K
製造プロセス14nm
開発コードネームBroadwell-E
コア数10866
スレッド数20161212
CPUクロック(定格時)3.0GHz3.2GHz3.6GHz3.4GHz
CPUクロック
(Turbo Boost時・最大)
3.5GHz3.7GHz3.8GHz3.6GHz
L3キャッシュ25MB20MB15MB15MB
PCI Express 3.040レーン28レーン
メモリコントローラDDR4-2400/4チャンネル
TDP140W
倍率アンロック
対応ソケットLGA2011-v3
【表2】Haswell-Eの主なスペック
Core i7-5960X
Extreme Edition
Core i7-5930KCore i7-5820K
製造プロセス22nm
開発コードネームHaswell-E
コア数86
スレッド数1612
CPUクロック(定格時)3.0GHz3.5GHz3.3GHz
CPUクロック
(Turbo Boost時・最大)
3.5GHz3.7GHz3.6GHz
L3キャッシュ20MB15MB15MB
PCI Express 3.040レーン28レーン
メモリコントローラDDR4-2133/4チャンネル
TDP140W
倍率アンロック
対応ソケットLGA2011-v3

 前述の通り、CPUソケットにHaswell-Eと同じLGA2011-v3を採用するBroadwell-Eだが、CPUが備えるヒートスプレッダ形状は大きく変更された。また、基板も若干薄いものへと変更されており、CPUそのものの外観はHaswell-Eとは大きく異なるものとなっている。なお、冷却に用いるCPUクーラーについてはHaswell-E対応製品をそのまま利用できる。

Core i7-5960X(写真右側)との比較
Core i7-6950XはCore i7-5960X(写真右側)より薄い基板を採用している

テスト環境

 今回、Core i7-6950Xをテストするにあたり、比較対象としてHaswell-E最上位モデルのCore i7-5960X、メインストリーム向けプラットフォームLGA1151におけるSkylake-Sの最上位モデルIntel Core i7-6700K(以下Core i7-6700K)を用意した。

【表3】テスト環境
CPUCore i7-6950XCore i7-5960XCore i7-6700K
マザーボードMSI X99A GODLIKE GAMING CARBONASUS Z170-A
メモリDDR4-2400 16GB×8
(17-17-17-39、1.20V)
DDR4-2133 16GB×8
(15-15-15-36、1.20V)
DDR4-2133 8GB×2
(15-15-15-36、1.20V)
ストレージIntel SSD 510 (120GB/SSD)
ビデオカードMSI GTX 980 TI GAMING 6G
グラフィックスドライバGeForce Driver 365.19
電源Antec HCP-1200(1,200W 80PLUS GOLD)
OSWindows 10 Pro 64bit
Broadwell-Eの検証には、センチュリーマイクロ製16GB DDR4-2400メモリモジュールを8枚(合計128GB)利用した。DDR4-2400ネイティブ対応のメモリチップと、高品質な国産8層基板を採用しており、8枚でのDDR4-2400 4chでも安定した動作が得られた
使用したマザーボードは、Intel X99 チップセット搭載のMSI X99A GODLIKE GAMING CARBON。黒とカーボン柄を基調としたカラーを特徴とし、拡張スロットやメモリに強化仕様のスロットを採用したハイエンドゲーミングマザーボードだ
ビデオカードにはGeForce GTX 980 Ti搭載のMSI GTX 980 TI GAMING 6Gを使用した。セミファンレス機能を備えたGPUクーラー「TWIN FROZR V」を備え、GPUクロックを1,000MHz(ブースト1,075MHz)から1,178MHz(ブースト1,279)、メモリクロックを7.0GHzから7.1GHzへオーバークロックしている

ベンチマーク結果

 まず、CPU系のベンチマークテスト結果から紹介していく。実行したテストは、SiSoftware Sandra 2016 22.20(グラフ1~3、8~11)、CINEBENCH R15(グラフ4)、x264 FHD Benchmark 1.01(グラフ5)、TMPGEnc Video Mastering Works 6(グラフ6)、Super PI(グラフ7)、PCMark 8(グラフ12)、PCMark 7(グラフ13)。

 CPUの演算性能を測定するSandraのProcessor Arithmeticにおいて、Core i7-6950XはCore i7-5960Xに整数演算(Dhrystone)で約27~28%、浮動小数点演算(Whetstone)で37~47%上回る性能を記録。マルチメディア性能を測るProcessor Multi-Mediaでも17~30%の差を付けており、10コア20スレッドCPUのマルチスレッド性能の高さが伺える。

【グラフ1】Sandra 2016 22.20(Processor Arithmetic)
【グラフ2】Sandra 2016 22.20(Processor Multi-Media)
【グラフ3】Sandra 2016 22.20(Cryptography)

 3DCGレンダリングの性能を図るCINEBENCH R15では、全CPUコアを利用してレンダリングをした場合、Core i7-5960Xに約1.34倍、Core i7-6700Kには約2倍のスコアを記録。1コア辺りの性能ではCore i7-6700Kの8割程度に留まっているが、マルチコアへの最適化が進んでいる処理では、10コア20スレッドCPUであるCore i7-6950Xのコア数が効くことが分かる。

 動画のエンコードテストであるx264 FHD Benchmark 1.01でもCore i7-6950Xのコア数の多さが効果を発揮しており、Core i7-5960Xに1.2倍、Core i7-6700Kに1.6倍の差を付けている。 TMPGEnc Video Mastering Works 6を使ったH.265形式への動画エンコードでも、Core i7-6950Xが変換処理に要した時間はCore i7-5960Xの約8割、Core i7-6700Kの約7割となっている。

 一方、シングルスレッドで円周率を計算するSuper PIでは、Core i7-6950XはCore i7-5960Xとほぼ同タイムとなっており、もっとも高速なCore i7-6700Kは両CPUの8~9割程度の時間で計算を終えている。シングルスレッド性能では、最新アーキテクチャSkylakeを採用し、4~4.2GHzで動作するCore i7-6700Kに軍配が上がるようだ。

【グラフ4】CINEBENCH R15
【グラフ5】x264 FHD Benchmark 1.01
【グラフ6】TMPGEnc Video Mastering Works 6 (6.1.4.25)
【グラフ7】Super PI

 メモリ帯域幅を測定するSandraのMemory Bandwidthでは、DDR4-2400の4chに対応したCore i7-6950Xが50.50~50.63GB/secを記録。DDR4-2133の4chまでのサポートに留まる49.48~49.80GB/secのCore i7-5960Xを1GB/sec程度上回った。チャンネル数が2ch、メモリクロックがDDR4-2133までのサポートとなるCore i7-6700Kは25.58~25.74GB/secという結果であり、メモリ帯域幅では4chをサポートするLGA2011-v3プラットフォームが大きくリードしている。

 SandraのCache Bandwidthではキャッシュの帯域幅を測定するテストだ。このテストではコア数の多い方がキャッシュへのアクセス速度で有利となっており、同じアーキテクチャのCPUであればコア数と転送帯域はほぼ相関する。Core i7-6950Xのキャッシュ転送帯域はCore i7-5960Xとのコア数差である1.25倍よりもやや高速という結果になっており、Haswell-Eより若干転送帯域が向上していることが伺える。

【グラフ8】Sandra 2016 22.20(Memory Bandwidth)
【グラフ9】Sandra 2016 22.20(Cache Bandwidth)
【グラフ10】Sandra 2016 22.20(Cache/Memory Latency - Clock)
【グラフ11】Sandra 2016 22.20(Cache/Memory Latency - nsec)

 PCMarkは実用環境での性能を数値化することを目的としたベンチマークであり、このテストで高いスコアを記録する環境は、Webブラウジングやオフィススイートなど、日常的にPCで使用するソフトなどでの快適性が高いということになる。

 最新バージョンであるPCMark 8では、HOME、WORK、CREATIVEの3プリセット全てでCore i7-6950XがCore i7-5960Xを若干上回る結果を記録する一方、トップスコアを記録したのはCore i7-6700Kとなった。PCMark 7でもCore i7-6950XとCore i7-5960Xが同程度のスコアを記録する一方でCore i7-6700Kがトップスコアを記録している。

 CPUのマルチスレッド性能においてCore i7-6700Kを圧倒しているCore i7-6950Xだが、日常的にPCで行なう処理では、シングルコア性能が高いCore i7-6700Kの方が優位な場面が多いという結果だ。

【グラフ12】PCMark 8
【グラフ13】PCMark 7

 続いて、3D系ベンチマークの結果を紹介する。実行したテストは、3DMark(グラフ14~17)、ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク(グラフ18)、MHFベンチマーク【大討伐】(グラフ19)。

 3DMarkの4テストのうち、Fire Strike、Sky Diver、Cloud Gateの3つで、総合スコアのトップを獲得したのはCore i7-6950Xだった。これらのテストではCPU性能を測るPhysics ScoreでCore i7-6950Xが他を大きく引き離しており、その結果が総合スコアでのトップ獲得に影響しているようだ。

 一方、GPU性能を測定するGraphics ScoreではCore i7-6700Kがトップスコアを獲得しており、Core i7-6950Xが総合スコアトップを逃したIce Storm Extremeでは、Graphics Scoreで10万点以上の差を付けて圧倒している。Ice Storm Extremeは4つのテストの中でもっとも軽量なテストであり、このようなテストでは極めて高いフレームレートでテストが実行される。そのような条件では、シングルコア性能が高いCore i7-6700KがよりGPUの性能を引き出せるということだろう。

【グラフ14】3DMark - Fire Strike
【グラフ15】3DMark - Sky Diver
【グラフ16】3DMark - Cloud Gate
【グラフ17】3DMark - Ice Storm Extreme

 ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマークでは、画面解像度1,920×1,080ドットではCore i7-6700Kがトップスコアを記録し、Core i7-6950XはCore i7-5960Xと同程度のスコアに留まっている。画面解像度を4Kと呼ばれる3,840×2,160ドットまで引き上げると、CPU毎のスコア差はほぼなくなり、3つのCPUが横並びのスコアとなった。3DMarkのIce Storm Extremeと同様に、GPU負荷が低く高いフレームレートで動作する状況ではCore i7-6700Kが有利となる一方、描画負荷が高くフレームレートが落ち着いてくる条件ではCore i7-6700Kの優位が失われるという結果だ。

 MHFベンチマークでは画面解像度1,920×1,080ドットと3,840×2,160ドットのどちらもCore i7-6950Xがトップスコアを獲得した。MHFベンチマークはマルチコアCPUが有利な結果となりやすいベンチマークテストであり、マルチスレッドへの最適化が十分に進んだゲームタイトルであれば、Core i7-6950Xが有利になる場合もあるという可能性を示している。

【グラフ18】ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク
【グラフ19】MHFベンチマーク【大討伐】[フルスクリーン]

 最後に、消費電力の測定結果を紹介する。測定した消費電力をは、サンワサプライのワットチェッカーで、電源ユニットが消費する電力を測定したものだ。

 アイドル時の消費電力については、Core i7-6950XとCore i7-5960Xが69Wで横並びとなり、Core i7-6700Kが55Wでもっとも低い数値だった。ただし、同じマザーボードを使用しているCore i7-6950XとCore i7-5960Xに対し、Core i7-6700Kはマザーボードもプラットフォームも異なっている点は考慮すべきだ。注目すべきは、Core i7-6950XとCore i7-5960Xのアイドル時消費電力がほぼ同程度であるという点である。

 各テスト実行中の消費電力の最大値を見てみると、CINEBENCH R15の全コア使用時やx264 FHD Benchmarkなど、CPU使用率が100%付近になるテストにおいて、Core i7-6950XはCore i7-5960Xより10W程度低い電力を記録している。CPUの消費電力には個体差も存在するためCore i7-6950Xの方が低消費電力であると言い切れる結果ではないが、Core i7-6950XがCore i7-5960Xと同程度の消費電力でより高いマルチスレッド性能を実現していることは確かだ。

【グラフ20】システム全体の消費電力

10コア20スレッドの強力なマルチスレッド性能がポイントとなる新Extreme Edition

 以上の通り、従来のExtreme Editionよりも2コア4スレッド多い10コア20スレッドを備えるCore i7-6950Xは、非常に高いマルチスレッド性能を持ったCPUだ。ベンチマークテストで高い性能を記録した3DCGレンダリングや動画のエンコード処理など、マルチスレッドへの最適化が進み、なおかつ速度向上の余地が大きな用途では、優れた性能が期待できる。

 Core i7-6950Xは、999ドルという価格帯に存在していたCore i7-5960Xの一段上に位置する製品となる。優れたマルチスレッド性能は大きな魅力だが、その性能と価格はまさに「Extreme」であり、この製品がベストな選択となるユーザーはごく限られるだろう。

 下位モデルとなる8コア16スレッドCPUや6コア12スレッドCPUについても、Haswell-E世代の製品より動作クロックの面で有利になっている。マルチスレッド性能を求める場合であっても、最上位だけにこだわらず、Broadwell-Eのラインナップ全体から費用に見合う製品を探すと良いだろう。

(三門 修太)