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「ポータブックはビジネスの未来は変えられないが、明日の出張は変えられるPC」

~成熟したPC市場の隙間を狙うキングジムの戦略

「ポータブック XMC10」

 株式会社キングジムは8日、12型相当の変形式キーボードを搭載する8型のクラムシェルノートPC「ポータブック XMC10」の発表会を開催。同社社長や開発担当者が、この製品の開発経緯や、狙いなどを説明した。

 製品の詳細は別記事に譲るが、ポータブックは左右に分離したキーボードが内側に90度回転することで、12型相当である横ピッチ18mmのキーボードを実現したノートPC。USBやSDカードスロットもフルサイズのものを用意し、ミニD-Sub15ピンも備えるなど、外出や出張の多いビジネスマンに必要な機能性と携帯性を兼ね備えた製品となる。

 最初に登壇した同社代表取締役社長の宮本彰氏はポータブックについて「当社がこれまで扱ってきた製品で、もっとも開発コストが高く、技術的難易度も高かったもの。ファイル専業メーカーだった当社は、1988年に初めての電子機器となるテプラを投入したが、ポータブックはそれ以来の大型の新製品」だと紹介し、商品化の決断には勇気が必要だったことを明かした。しかし、その一方で、この製品を持って、同社がこれまで培ってきたものづくりに対するこだわりをもとに、日本のみならず世界のPCメーカーをも相手に、挑戦していきたいとの意気込みを示した。

社長の宮本彰氏

 また、同社取締役開発本部長の亀田登信氏は、「PCはビジネスにおける中心的なツールだが、市場は成熟、商品はコモディティ化しており、各社の製品の違いが少なくなってきている。そこで、ターゲットと使用シーンを絞り込み、方向性を携帯性と使いやすさの両立に特化させることで、勝機を見いだせると判断した。これは、ポメラの時と同じ開発手法である。ポータブックの用途は、ビジネスマンが外出先で簡単な資料作成や、メールのチェック、プレゼンの実行といったもので、敢えてスペック至上主義にはしていない。そういう意味で、本製品は、ビジネスの未来は変えられないかもしれないが、明日の出張は変えられるPC」だと話した。

開発本部長の亀田登信氏
PC市場の成熟化が逆に商品化の背景となった
目標は携帯性と使いやすさの両立
ビジネスの未来は変えられないが、明日の出張は変えられるPC

 製品の開発経緯については、同社商品開発部の冨田正浩氏が説明した。冨田氏自身、製品開発担当として、外出や出張を多くこなす中、飛行機や新幹線のテーブルの上で、13型前後の一般的なモバイルノートは、フットプリントが大きすぎて使いにくいとしばしば感じていたという。また、昨今の薄型ノートは、ミニD-Sub15ピンを省略しているため、プレゼンに使うプロジェクターに繋げられず苦労したことも少なくないという。

 一方、タブレットを使えば、携帯性は問題ないが、端子類がMicro型になっており、USBメモリを使ってデータを移す際などに一苦労。タブレットとノートPCの2スタイルで使える2in1もあるが、機構的に小さなテーブルや膝の上などでは使いにくいものが多い。

 そこで、ビジネスマンが必要とする携帯性と、フルサイズノートPCの使い勝手を両立させられないかと考えた末、ポータブックのような変形式キーボードのクラムシェルノートという着想を得たという。ポータブックは、同社にとって初のPCであり、かつ市場の縮小という実態もあり、当初の企画会議では反対の声も上がったが、これまでにないPCを作るのだと、会社を説得したという。

 8型というサイズは、ビジネスマンが最も多く使う手帳のサイズがA5だったことから、それに併せて採用した。スライドしながら円弧を描きながら開く「スライドアークキーボード」にはそれだけで1年の期間をかけて開発を行なった。当初は、スライド機構が外から見えたり、レールがむき出しになっていたりと、耐久性や見栄えの面で問題があったが、改善を繰り返し、現在の、外からはレールが見えない機構を実現した。開閉耐久性は2万回で、1日10回行なって、5年半持つ計算となる。

 また、見栄えという面では、配列は日本語だが、かなの刻印を排除。加えて、キートップを丸くへこませることで指のフィット感を高めたほか、周囲を1.2mm厚のアルミで覆うことで、打鍵時のたわみを抑え、打鍵感を向上させた。

 CPUをAtomとしたのは、外出先で行なう仕事は軽めのものがほとんどということで、それに見合うものにしたというのもあるが、ファンレスで静音化させることや、USB充電を可能にするという点からも、CoreシリーズではなくAtomを選択したという。充電については、付属の10Wの小型ACアダプタだけでなく、スマートフォン用モバイルバッテリでも行なえる。そういった理由で敢えてUSB 3.0ではなく、USB 2.0を採用した。

 冨田氏は、自ら本製品の開発・製造を台湾の大手ODMであるPegatronに委託していることを明らかにした。PegatronはASUSから分離した製造企業で、PCなどのほか、iPhoneの製造も請け負っている大手。キングジムは、PC開発のノウハウを持ち合わせていないが、PegatronにPCのコア部分の開発を一任することで、品質についても自信を持ってお勧めできるとした。

ポータブックとA5の手帳を比べる商品開発部の冨田正浩氏
主な仕様
インターフェイス
バッテリは5時間駆動で、モバイルバッテリでも充電可能
12型ノートと比べると天板のサイズは半分近いが、キーボードは広げると同等のサイズ
最初期のモックアップサンプル。中央にレールや機構が見えている
こちらのサンプルもまだ回転機構が外から見える
この段階で機構は外からは見えなくなったが、まだレールが見える
最終的に機構もレールも見えない、この構造になった

(若杉 紀彦)