日本HDD協会2010年4月セミナーレポート
~SSD普及へのシナリオと課題が明確に

2010年4月セミナーの告知ロゴ

4月16日午後 開催

会場:発明会館(東京都港区)



 ハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は4月16日に、「HDD vs. SSD 市場環境の変化、ユーザーの選択は?」と題するセミナーを開催した。

 PCを含めたコンピュータの外部記憶装置としてSSD(Solid State Drive)に注目が集まっている。SSDを採用したPCやエンタープライズシステムが、最近では珍しくなくなってきた。そこで16日のセミナーでは、SSDの採用割合や将来市場、普及を左右する要因などが論じられた。本レポートでは、PC用SSDを中心に講演概要をご紹介しよう。

 なお、セミナーの講演内容は報道関係者を含めて撮影と録音が禁止されている。本レポートの図版は講演や過去の公表資料などを元に独自に作成した。

●HDDとNANDフラッシュが競合する容量は継続的に上昇

 始めにエレクトロニクス業界とPC業界の動向をおさらいしておこう。以前にコラムで述べたように、エレクトロニクス業界の2010年は世界的にみて非常に好調な年になりそうだ。PCや液晶TV、スマートフォンなどが大きく成長すると期待されている。

 PCの出荷台数は2010年に世界全体で10%~15%くらい伸びるというのが業界の共通認識となっている。ここで問題となるのが、HDDの供給不足が懸念されること。HDDの供給がPC出荷のボトルネックとなり、出荷台数の伸長を鈍化させる可能性がある。

 PC用の主記憶メモリであるDRAMの市場は、2009年に2.1兆円程度に達したと推定されている。SSDやモバイル機器などに使われているNANDフラッシュメモリは、2009年に1.5兆円前後の市場規模になった。2008年にマイナス15%の落ち込みを記録した後、2009年は販売単価の上昇などによって22%と高い成長を達成した。

 NANDフラッシュメモリの価格は2007年~2008年に急激に下落したが、2009年に入るとほぼ一定の価格を保つように変化した。16Gbit品(MLCタイプ)のスポット価格は2010年4月始めの時点で4.2ドルであり、不況期の最低価格に比べると2倍強の値になっている。

 このように2009年初頭以降はNANDフラッシュメモリの販売価格が安定に推移したため、SSDの販売価格が下がらず、このことがSSDの普及を阻んでいる。ノートPCの海外における平均単価は65,000円。HDDの平均単価は50ドル~60ドル(1ドル100円で換算すると5,000円~6,000円)であるのに対し、SSDの平均単価は200ドル近くもする。製造原価の10%~15%くらいがストレージに割り当てられるコストなので、SSDではコストが高すぎて搭載しづらい。

 このため、低い記憶容量のストレージはNANDフラッシュメモリ(あるいはSSD)が担い、高い記憶容量のストレージはHDDが担うという図式は変わらないまま推移している。HDDの平均単価は過去に年率9%くらいで下がってきており、2008年は61ドルだった。これが2010年には51ドル、2012年には42ドル、2014年には35ドルと低下していく。HDDの平均単価よりも低い価格の領域では、NANDフラッシュメモリとSSDが強みを発揮する。現在は下げ止まっているものの、中期的にはNANDフラッシュメモリの平均単価(記憶容量当たり)は年率30%程度で下がっていくと期待される。

 NANDフラッシュメモリの記憶容量当たりの単価がHDDの1倍~2倍の領域で両者が競合すると仮定すると、2012年には30GB~55GBの容量で両者が競合する。そして2015年には、競合領域が70GB~140GBへと上昇する。競合する容量は毎年、大容量側へとシフトしていくことになる。

●SSDのGB当たりのコストは2011年に1ドルを期待

 今回のセミナーでは、米国のSanDiskによる講演が目新しかった。SanDiskはNANDフラッシュメモリ応用製品の大手ベンダーであり、東芝と共同で大容量のNANDフラッシュメモリを大量に生産している。

 SanDiskでSSD製品プロダクトマーケティング部門のディレクターをつとめるDoreet Oren氏は、「Mobile PC "This is in"」と題して講演した。講演内容は、NANDフラッシュメモリとSSDの優位性を強調するとともに、いかに普及させていくかのシナリオを説明するものだった。

 NANDフラッシュメモリの優位性では特に、モバイル機器を薄くできることを強調していた。例えば携帯オーディオプレーヤーのiPod ClassicではHDDを搭載しており、0.41インチ(10.4mm)の厚みがあった。これがNANDフラッシュメモリを搭載したiPod Nanoでは、0.24インチ(6.1mm)と大幅に薄くなった。ただし記憶容量当たり(GB当たり)の単価はHDDが1.5ドルだったのに対し、NANDフラッシュメモリでは11.00ドルと大幅に上昇した。

 前に述べたようにストレージの記憶容量が非常に大きいとHDDが有利になり、記憶容量が限定的な場合は、時間の経過とともにNANDフラッシュメモリが有利になっていく。そこでOren氏が提示したシナリオは、現実に使われている容量が限定的であることを具体的に示すものとなっていた。

 まずビジネスPCである。例えばSanDiskの従業員がPCのストレージで実際に利用している記憶容量は、60GB未満が従業員の70%を占めた。残りは60GB以上120GB未満が28%、120GB以上250GB未満が2%である。すなわち120GBの容量があれば、従業員の98%に要求は満たせることになる。

 SSDのGB当たりの単価は、SanDiskの予測では2008年の4.5ドルから2009年は約2.5ドル、2010年は約1.3~1.4ドルと急速に下がっていく。2011年にはGB当たり約1ドルに達する。

SanDiskのビジネス・ノートPC用SSD「G3 SSD」。記憶容量は最大120GB

 すると2011年には、120GBのSSDが120ドルで入手できることになる。ビジネス用ノートPCの価格を800ドルとすると、120ドルは15%のプレミアムに相当する。10%~20%のプレミアムであれば、PCユーザーは許容できるとしていた。

 続いてコンシューマPCである。Oren氏は始めに、コンシューマPCの使われ方の推移を説明した。(1)インターネット利用、(2)ユーティリティ、(3)オフィス用アプリケーション、(4)カジュアルゲームおよびエンターテインメント、(5)電子メールクライアントの5種類に分けている。2005年にはインターネット利用が全体の40%を占めていたが、2009年にはインターネット利用が全体の70%に拡大した。

SanDiskの薄型軽量ノートPC用SSD「pSSD」。記憶容量は最大64GB

 インターネット利用では、ストレージ容量が32GB~64GBあれば十分だとした。コンシューマ用ノートPCの価格を300ドルとすると、15%のプレミアムは45ドル。GB当たりの単価が1ドルに達する2011年には、インターネット利用には十分な容量である45GBのSSDが入手できるようになる。

 GB当たりの単価が減少することにより、SSD(およびNANDフラッシュメモリ)はこれまでのモバイル分野から、コンピューティング分野へも普及していく。コンピューティング分野への普及は2011年から本格的に加速される、というのがSanDiskが描く将来展望である。

●SSDモデルの実績があぶり出した普及への課題

 PC開発企業のNECパーソナルプロダクツによる講演も興味深かった。同社で資材部(キーパーツ技術・品質)グループマネージャーをつとめる安田秀彦氏が「NECのHDD、SSD搭載PCの戦略」と題して講演した。

 NECパーソナルプロダクツはSSD搭載モデルに関し、コンシューマPCとビジネスPCでは異なる製品戦略を構築している。コンシューマPCではHDDとSSDの両方を内蔵したハイブリッドモデルをノートPCのオプションで用意し、インターネット販売で提供した。OSやアプリケーションソフトウェアなどをSSDに格納することで、起動時間を短縮したモデルである。

 ビジネスPCでは、SSDモデルのデスクトップPCとノートPCをオプションで用意し、最軽量モデルにはSSD専用機「VersaPro UltraLite タイプVS」を開発・発売した。SSDがHDDよりも衝撃に強いことや消費電力が低いこと、薄さと軽さを徹底して追求できることなどを活かした。

SSD専用機「VersaPro UltraLite タイプVS」の外観「VersaPro UltraLite タイプVS」の内部

 これらのSSDモデルを販売してきた経験から、いくつかの課題が明確になったという。

 まずSSDの認知度が不足していること。特にコンシューマPCのビギナー層へのアプローチが足りないとする。SSDの特長を表現する言葉がテクニカルな用語、すなわち「軽量、低消費、耐衝撃性、低騒音」といったものに傾斜していることが原因の1つだと分析していた。

 そしてSSDのメリットをユーザーに伝える方法が明確になっていないとする。高い信頼性といっても、どのように伝えたら良いのか。HDDとの比較はHDDに対するネガティブな印象を与えかねないだけに、上手い方法とは言えない。SSDのメリットである消費電力の低さも、アピール不足だと評価する。

 興味深かったのは、SSD搭載を意味するロゴマークの必要性を指摘していたことだ。ロゴマークの貼り付けによってSSDモデル所有の優越感を喚起するとともに、分かりやすさを訴求できる。SSDモデルをプレミアムモデルと位置付けるためには、一考に値するアイデアだと感じた。

 またコンシューマPCでは、256GBのSSDを適切な価格で早期に供給することが、SSDモデルの普及を促すと述べていた。特に価格は重要で、例えば64GB SSDのハイブリッドモデルをプラス1万円で選択できるキャンペーンを期間限定で実施したところ、注文数の55%がハイブリッドモデルになったという。

●標準化と共同マーケティングの重要性が浮き彫りに

 かつてNANDフラッシュメモリを使ったカードタイプのストレージが販売され始めたときには、「SDカード」、「コンパクトフラッシュ(CompactFlash)」、「メモリースティック(MemoryStick)」の3種類の共通規格が誕生し、市場で競争を繰り広げた。これらのメモリカードはノートPCに限らず、デジタルカメラや携帯電話機、ビデオレコーダなどの民生機器に搭載されていった。さまざまな企業が共通規格ごとに連合を組み、マーケティング活動に力を入れていた。

 ところがSSDでは、個々のベンダーが個別にマーケティング活動と販売活動をしており、SSDベンダー全体で商品名を作ったり、販促キャンペーンをしたりといった活動はあまり見られない。SSDベンダーが対象とする機器もノートPCとサーバーが主体である。民生機器への広がりはほとんど見えない。

 価格が高いこともSSDの普及を阻んでいる大きな理由には違いない。しかしSSDのベンダーや関連企業などが共同で商品名を決めたり、SSDの存在意義をアピールしたり、共同でマーケティング活動を実施したりといった、「競争を超えた協調による普及活動」がまだ必要な時期にみえる。SSDベンダー同士が市場で競争するには、時期尚早ではなかろうか。

 SSDの存在そのものの認知度を高め、例えばHDDレコーダやHDDカーナビといったPC以外の機器へもアプローチする。民生機器を取り込むことで数量ベースの規模を拡大し、スケールメリットによる値下げを容易にする。今後はこういった努力がSSDベンダーに求められるだろう。

(2010年 4月 22日)

[Reported by 福田 昭]