福田昭のセミコン業界最前線

2009年はどんな年だったのか



 2008年秋のリーマン・ショックに代表される世界同時不況のために、半導体を含めたエレクトロニクスの売り上げは急速に落ち込んだ。そして業界は一気に、悲観的な見通しに支配されるようになった。ハイテク市場調査会社のGartnerは2009年2月に、2009年の半導体市場は2008年に比べて24.1%も縮むとの予測を発表した。

 また、IDCも2009年2月に、2009年の半導体市場は2008年に比べて22%も縮小するとの予測を発表している。また半導体メーカーの業界団体であるWSTSは2009年5月に、2009年の半導体市場は21.6%減になるとの予測結果を発表した。

世界半導体市場の年次推移と2009年の予測(2009年3月時点)。Gartnerのまとめによる。この当時の予測値はマイナス24.1%
世界半導体市場の年次推移と2009年の予測(2009年5月時点)。WSTSのまとめによる。この当時の予測値はマイナス21.6%

 それからおよそ1年。2010年に入って2カ月半が経過し、2009年を総括する市場統計が出揃いつつある。2009年は実際には、どんな年だったのか。確認するにはちょうど良いタイミングだろう。

 始めは半導体の需要を大きく左右するアプリケーション、すなわちPCと携帯電話機の出荷台数が、2009年にどのように変化していったかを見ていこう。それから半導体市場の2009年を振り返ることにする。

●PC:2009年後半に急速に回復してプラス成長を維持

 市場統計では、3カ月(四半期)ごとの集計データを比較することが多い。単月のデータももちろん存在するのだが、1カ月ごとでは変動が大き過ぎて市場のトレンドを把握しづらい。そこで変動幅をならしてトレンドをつかみやすくするために、四半期ごとのデータを使う。さらに、季節ごとの変動要因をキャンセルするため、各四半期のデータは前の年の同じ四半期と比較する。こうすると市場規模の変化を把握しやすくなる。

 市場統計の多くは、1年間を第1四半期(1~3月)、第2四半期(4~6月)、第3四半期(7~9月)、第4四半期(10~12月)に区切る。PCの出荷統計や携帯電話機の出荷統計も同様に、四半期ごとのデータが市場調査会社によって公表されている。

 PCの世界市場における出荷台数は、2009年は2008年に比べて2桁減になると当初は予測されていた。Gartnerは2009年3月時点で、2009年のPC出荷台数は11.9%減り、2億5,900万台になるとの予測を発表していた。しかし実際の出荷台数はそれほど悪くなかった。

 具体的に、四半期ごとのPC出荷台数をみていこう。Gartnerのまとめによる2009年の第1四半期(2009年1~3月)のPC出荷台数は前年同期(2008年の第1四半期)に比べて6.5%少ない、6,721万台だった。第2四半期(2009年4~6月)も同様に、5.0%少ない、6,815万台に終わっていた。ところが第3四半期(2009年7~9月)は、前年に比べて0.5%多い8,086万台と急激に回復し始めた。ここで重要なのは出荷台数が8,000万台強と、前の四半期(第2四半期)に比べて1,000万台強、増えたことだ。この結果を受けてGartnerは2009年11月には、PCの出荷台数予測を2.8%の成長とプラスに修正する。

 続く2009年第4四半期(2009年10~12月)のPC出荷台数は、前年同期に比べて22.1%も多い9,003万台となり、前の四半期に比べるとさらに約1,000万台増えた。四半期のPC出荷台数が前年に比べて22%も伸びるのは、7年ぶりのことだ。

 結局、2009年の世界全体におけるPC出荷台数は3億578万台となり、2008年に比べて5.2%増えた。2009年始めの予測に比べると、17.1ポイントも上方に修正されている。当初の悲観的な予測を大きく覆し、急速な回復をみせた。

世界市場におけるPC出荷台数の四半期推移。市場調査会社Gartnerの発表値をまとめたもの。2009年の後半から急速に回復していることが分かる
2009年におけるPCベンダーごとの世界PC市場シェア(台数ベース)

●携帯電話機:2001年以来のマイナス成長

 続いて携帯電話機を見てみよう。IDCは2008年12月時点で、2009年の世界市場における携帯電話出荷台数が2008年に比べて1.9%下がるとの予測を発表していた。その後、2008年第4四半期(2008年10~12月)の出荷台数が前年同期(2007年10~12月)に比べて12.6%も下がったことから、2009年3月には、2009年の予測をマイナス8.3%に下方修正する。PCほどではないものの、かなり厳しい予測である。

 2009年の携帯電話機市場は当初、予測を上回る厳しさで推移する。IDCのまとめによると、第1四半期(1~3月)の出荷台数は2億4,480万台で2008年1~3月に比べて15.8%も下がってしまった。第2四半期(4~6月)は2億6,960万台の前年同期比10.8%減と2ケタ減が続く。

 2009年の第3四半期(7~9月)は2億8,710万台の前年同期比6.0%減だった。1~3月に比べると出荷台数そのものは少しずつ増えており、弱いながらも回復の兆しがうかがえた。続く第4四半期(10~12月)は3億2,530万台とさらに回復する。2008年の第4四半期(10~12月)に比べると11.3%の拡大である。

 IDCのまとめによる2009年全体の出荷台数は、11億2,780万台で前年比5.2%減である(2010年1月28日の発表値)。2009年3月時点の予測値である8.3%減から3.1ポイントほど上方修正されたものの、2001年以来のマイナス成長となった。

世界市場における携帯電話機出荷台数の四半期推移。市場調査会社IDCの発表値をまとめたもの。2009年第4四半期に急激な回復をみせた
2009年における携帯電話機ベンダー別の世界市場シェア(台数ベース)。上位5社が市場全体の4分の3以上を占めている

 なお携帯電話機でもハイエンド機、いわゆるスマートフォンは当初から2009年も出荷台数が増えると予測されていた。IDCが2008年12月時点で発表したスマートフォンの出荷台数は2009年全体で前年比8.9%増である。2008年の同26.9%増に比べると成長率は鈍るものの、プラス成長を確保すると予測していた。

 だが、IDCが2010年2月に発表した実績では、スマートフォンの出荷台数は当初予測を大きく上回る伸びをみせた。2008年に比べて15.1%も多い、1億7,420万台となった。

2009年におけるスマートフォンベンダー別の世界市場シェア(台数ベース)

●半導体:2009年は約10%減、2010年は一転して20%強の成長へ

 半導体市場をアプリケーション別にみていくと、金額ベースでPC向けがおよそ2割、携帯電話機向けがおよそ2割と言われている。このことは、Gartnerが2010年1月に公表した半導体ユーザー企業ランキングをみると、より明確になる。

 半導体ユーザー企業のトップスリーはHewlett-Packard(HP)、Samsung、Nokiaだ。この3社はそれぞれ、2009年の1年間で1兆円を超える半導体を購入したと推定されている。HPはPCのトップベンダーであり、Samsungは携帯電話機のシェア2位企業であるとともにデジタル家電の大手メーカーである。Nokiaは携帯電話機のトップベンダーだ。3社合計の半導体需要は367億ドル。全半導体需要の16.2%を占める。

半導体ユーザー企業のランキング。Gartnerが2010年1月に公表した速報値

 世界の半導体市場は、PCと携帯電話機の動向にリンクするように2009年は推移した。2009年の第1四半期に底を打ったあとは、年末に向けて急速に回復していった。ただし、2009年当初の予測値である20%もの減少となることは避けられたものの、2008年を上回ることはできなかった。米国の業界団体である半導体工業会(SIA)の発表(2010年2月1日、WSTSと同じデータ)によると、2009年の半導体市場規模(販売額)は2,263億ドルで2008年に比べると9.0%減少した。Gartnerの発表(2010年2月24日)では、2009年の市場規模は2,310億ドルで2008年に比べると9.6%減少した。

世界半導体市場の年次推移と2009年の実績。WSTSのまとめによる。2009年は2008年に比べて9.0%のマイナス成長に終わった
世界半導体販売額の推移。数値は過去3カ月の移動平均(例えば2009年3月だと、1~3月の平均)。SIAのまとめによる

 そして市場調査会社は相次いで、2010年の半導体市場が2009年に比べて大幅に拡大するとの予測を発表している。2010年2月24日にGartnerが成長率19.9%の予測を発表したのを皮切りに、3月5日にiSuppliが成長率21.5%の予測を、3月8日にIC Insightsが成長率27%の予測を発表した。

 GartnerとIC InsightsはDRAMの価格が比較的高い値で安定的に推移し、その結果としてDRAM市場が急激に伸びることを成長の牽引役として指摘する。2010年のDRAM市場の成長率は、Gartnerの予測が55%以上、IC Insightsに至っては74%以上と相当に強気の予測である。

 ただし半導体市場は2008年~2009年と2年連続でマイナス成長となったため、2010年に20%成長を実現しても、中期的にはそれほど大きな伸びにはならない。2010年の半導体市場規模は、2007年とほぼ同じ水準にとどまる。最悪期は脱したものの、2010年は20%成長してようやく、2007年の水準に戻れる。それが半導体市場の実態だ。

世界半導体市場の年次推移と2009年の実績値および2010年の予測値。Gartnerのまとめによる

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(2010年 3月 17日)

[Text by 福田 昭]