日本HDD協会2009年4月セミナーレポート
~SSDとHDDを詳細に比べる

セミナー会場に映された、講演前のスライド

4月17日午後 開催


 ハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は4月17日に、「HDD vs. SSD 比較検証~コンピュータアプリケーションにおけるHDDとSSD:価格、容量、性能の面から対比を徹底的に追求する」と題するセミナーを開催した。

 コンピュータシステムの外部記憶装置としてSSD(Solid State Drive)に注目が集まっている。今後は、システムの要求仕様に応じてHDDとSSDを使い分けていくようになるものとみられる。そのためにはHDDとSSDを詳しく対比し、価格や容量、性能などを検証しなければならない。今回のセミナーはこのような趣旨で開催された。

 具体的にはサーバー/エンタープライズ向けとノートPC向け(ミニノートやネットブックを含む)でHDDとSSDを比較した。またセミナーの末尾には講演者全員によるパネルディスカッションの時間が設けられた。当日のプログラムは以下の通りである。

 1.(基調講演)モバイル機器におけるストレージの市場予測:IDC
 2.サーバー/エンタープライズにおけるSSD市場の予測:野村総合研究所
 3.ノートPC市場からみたHDDとSSDの位置付け:東芝 PC&ネットワーク社
 4.SSDとHDDのテスト仕様の違い:Flexstar Technology
 5.HDDとSSDのPCベンチマークテスト:日経BP社日経WinPC編集部
 6.パネルディスカッション

 なお、セミナーの講演内容は報道関係者を含めて撮影と録音が禁止されている。本レポートに掲載した画像は、日本HDD協会および講演者のご厚意によって掲載の許可を得たものである。

●モバイル機器ではフラッシュとHDDが共に増加

 最初の基調講演では市場調査会社IDCでハード・ディスク装置のリサーチディレクターを務めるJohn Rydning氏が、「Where Our Digital Content Will Reside:A Reality Check」と題して講演した。

市場調査会社IDCでハード・ディスク装置のリサーチディレクターを務めるJohn Rydning氏

 Rydning氏は始めに、モバイル機器の市場規模を説明してくれた。ここで定義するモバイル機器とは携帯電話機、ハンドヘルドデバイス、携帯型オーディオプレーヤ、パーソナルナビゲーションデバイス(PND)、ノートPC(ネットブック等を含む)、カムコーダ(ビデオカメラ)、デジタルカメラである。2007年には15億台を超えるモバイル機器が全世界で出荷されたと推定していた。その割合は携帯電話機が最も大きく、全体の66%を占める。そのほかはハンドヘルドデバイスが7%、携帯型オーディオプレーヤーが11%、PNDが2%、ノートPCが6%、ビデオカメラが1%、デジタルカメラが7%である。

 これらの機器が搭載する外部記憶ユニット(データストレージ)の割合は、フラッシュメモリが92%、HDDが7%である。仮に全体を15億台とすると、フラッシュメモリのストレージユニットが13億8,000万台、HDDが1億500万台となる。モバイル機器ではフラッシュメモリがストレージの主役であることが分かる。ただし記憶容量ベースでみると、この状況は逆転する。2007年ではフラッシュメモリが8%、HDDが92%を占める。

 そして2012年には、モバイル機器の出荷台数は25億台を超えると予測する。その内訳は携帯電話機が59%、ハンドヘルドデバイスが13%、携帯型オーディオプレーヤが7%、PNDが3%、ノートPCが11%、ビデオカメラが1%、デジタルカメラが6%である。携帯電話機の割合が減り、ハンドヘルドデバイスとノートPCの割合が増加する。

 これらの機器が搭載するストレージの割合は、フラッシュメモリが91%、HDDが9%である。仮に全体を25億台とすると、フラッシュメモリのストレージユニットが22億7,500万台、HDDが2億2,500万台となり、いずれも台数ベースでは大きく増えることになる。

 それからノートPC(ネットブックを含む)が搭載するストレージに少しふれた。2008年時点でSSD搭載モデルはノートPCの価格が400ドル未満のローエンド領域と、2,400ドルを超えるハイエンド領域に分裂している。これが2012年には、ハイエンド側のSSD搭載モデルの最低価格が1,800ドル程度にまで下がってくる。またノートPCの出荷台数ではローエンド側が大きく伸びる。

 エンタープライズ向けでは、高速な読み書きを要求する用途が例えばSSDに適していると述べていた。そしてエンタープライズ分野でSSDの導入を計画していない顧客に対し、その理由を調べた結果(複数回答)を紹介した。「必要性または付加価値が見出せていない」という回答が49%と最も多い。「価格に問題がある」とした回答が次に多く32%を占めた。

●SSDのコストメリットが高まる分野

 続いて市場調査会社の野村総合研究所で経営戦略コンサルティング部のコンサルタントを務める加藤貴一氏が、「Server/RAIDにおけるSSD市場」と題して講演した。RAIDディスクを使ったエンタープライズシステムにおけるSSD市場の可能性を調査した結果である。

野村総合研究所で経営戦略コンサルティング部のコンサルタントを務める加藤貴一氏

 始めに、SSDを導入するときに着目すべき点は大きく3つあると述べた。1つ目は性能(パフォーマンス)である。SSDはHDDに比べると単位時間当たりの入出力速度(IOPS:Input Output Per Second)が高い。2つ目は製品のコストである。SSDの記憶容量当たりのコストはHDDに比べると高く、SSDのコストは低減しているものの、HDDもコスト低減を続けているため、SSDのコストがHDD並みに下がる可能性は低い。ただし、SSDの記憶媒体であるNANDフラッシュメモリのメモリセルは1bit/セル記憶の場合は寿命がHDDよりも長く、ストレージの交換頻度を考慮するとトータルの製品コストは減少すると述べていた。言い換えると、複数bitを1個のセルに記憶するMLC方式では寿命が短いためにSSDの交換頻度が上がり、製品コストが上昇するのでサーバー/RAIDには向かないと指摘した。3つ目は運転コストである。SSDの消費電力はHDDよりも低く、電力料金が少なくて済む。したがってSSDでは運転コストが下がる。


SSDとHDDのパフォーマンス比較。出典:野村総合研究所

 そしてサーバー/RAIDシステムのストレージ市場を4種類に分類し、それぞれについてSSDが既存のストレージに置き換わる可能性を検証した。まず性能(パフォーマンス)を重視する市場と記憶容量を重視する市場に大別し、重視の程度によってさらに2つに区分けした。性能を重視する度合いが高い市場から、「A市場(パフォーマンスのみを追求)」、「B市場(パフォーマンス重視)」、「C市場(記憶容量重視)」、「D市場(記憶容量の拡大をひたすら追求)」と名付けた。サーバー/RAIDシステムのストレージ市場に占める各市場の割合は、A市場が約5%、B市場が約25%、C市場が約45%、D市場が約25%と推定した。

サーバー/RAIDシステムのストレージ市場を4種類に分類。出典:野村総合研究所

 それから各市場について総合コスト(TCO:total cost of ownership)の観点から、SSD市場の可能性を2008年~2015年にかけて分析した。

 A市場は、パフォーマンスをひたすら追求する市場で、現在はDRAMをストレージとしている。極端に言えば、コストをいくらでもかけられる市場なので、TCOには着目しないとした。SSDの記憶容量当たりのコストが下がるにつれ、2012年からごく一部にSSD(NANDフラッシュメモリはSLCタイプ)が搭載されると予測した。具体的なサーバーの例には、アクセス頻度の高い装置、プロキシサーバー、仮想化ストレージ(高IOPS部分)を挙げていた。

 B市場はSAS(Serial Attached SCSI)インターフェイスのHDDを主力のストレージとする市場である。記憶容量の需要は2008年に80GBで始まり、年率15%で増大すると仮定した。TCOの推移を予測すると2012年頃にSSD(SLCタイプ)のTCOがHDDに比べて低くなる。すなわち2012年頃を境にSSDが大きく普及していくと予測した。具体的なサーバーの例には、Webサーバーのリバースプロキシ、データベースのスレーブサーバー、動画サイト用サーバーなどを挙げていた。

B市場における需要予測。出典:野村総合研究所

 C市場もSASインターフェイスのHDDを主力のストレージとする市場である。記憶容量の需要は2008年時点で320GBと大きい。これが年率15%で増大すると仮定した。TCOの推移を予測すると、差は縮まるものの2015年になってもSSDのTCOがHDDよりも高い。このためSSD(SLC)タイプの普及はわずかにとどまる。

C市場における需要予測。出典:野村総合研究所

 D市場はSATA(SerialATA)インターフェイスのHDDを主力のストレージとする市場である。記憶容量の需要は無限にある。SSDのTCOがHDDのTCOを下回ることはない。このためSSDが入り込む余地はないと予測した。


●ノートPCとミニノートのSSD搭載は頭打ち

 続いて、東芝 PC&ネットワーク社PC商品企画部で第一担当グループ長を務める高畠由彰氏が、「ノートブックパソコンから見たSSD/HDDの位置付けと今後の期待」と題して講演した。

東芝 PC&ネットワーク社PC商品企画部で第一担当グループ長を務める高畠由彰氏

 高畠氏は始めにノートPCの世界市場(出荷台数ベース)を展望した。2008会計年度に前年比22.4%増と大きく成長したノートPC市場だが、世界同時不況の影響によって2009会計年度の出荷台数は前年比6.8%増にとどまる。その後は2010会計年度に同16.0%増、2011会計年度に同20.2%増と回復する。

 続いて2007年~2008年のノートPC販売実績(東芝だけではなく市場全体、台数ベース)を詳しく分析した結果を説明してくれた。価格帯別の販売実績をみると、欧米市場では売行きの最も良い価格帯(ボリュームプライスバンド)が継続的に低下してきた。2008年第4四半期におけるボリュームプライスバンドは欧州市場が400~499ユーロ、米国市場が500~599ドルである。日本市場でも平均販売価格が2008年を通じて低下しており、2009年2月時点では前年同月比で23%下がっている。2008年末には平均販売価格が約10万円になった。

 それからSSDモデルのノートPCおよびミニノートの販売状況(東芝だけではなく、市場全体)を示した。欧州のリセールチャンネル販売(主に法人向け販売)ではノートPC販売の3%程度、ミニノートの3%程度がSSD搭載モデルである。SSD搭載モデルの割合は非常に小さい。欧州でもリテールチャンネル販売(主に個人向け販売)になると、SSDモデル搭載機の割合が増える。ノートPCでは4%未満だが、ミニノートでは45%程度をSSDモデルが占める。米国のディストリビューションチャンネル販売ではノートPC販売にSSDモデルが占める割合は7%程度である。ミニノート販売にSSDモデルが占める割合は55%とかなり多い。米国のリテールチャンネル販売ではノートPCにSSDモデルが占める割合は非常に少なく、2%程度にとどまる。一方、ミニノート販売にSSDモデルが占める割合は45%程度とかなりある。

 日本国内の量販店販売では、2008年にミニノートに搭載するSSDとHDDの比率が大きく変化した。2008年第1四半期にはSSD搭載モデルが販売の91.3%を占めていたのに対し、2008年第4四半期にはSSD搭載モデルの比率が27.3%に減少した。ただし台数ベースではSSDモデル、HDDモデルとも増加している。第1四半期には1万台弱だったミニノートの販売台数が、第4四半期には8万台強へと伸びたからである。

 さらに、東芝でSSDモデルとHDDモデルを比較検証した結果を述べていた。同じノートPCに64GB SSDあるいは160GB HDDを搭載して性能を比較した結果である。データ入出力性能、記憶容量、消費電力、外形寸法(大きさ)、重さ、データ信頼性(Durability)、静音性、単体コストの各項目で比較した。SSDはデータ入出力性能(PCMark05ベンチマーク)で大きく優れており、HDDの5倍のスコアを出した。消費電力、外形寸法、重さ、データ信頼性、静音性でもSSDが優位にある。一方、HDDは記憶容量と単体コストで大きく優れる。最も肝心なコストでHDDは優位にあるため、SSDモデルはほとんど売れていないのが現状だとした。

 また製品企画のアイデアとしてハイブリッド構成のストレージにふれていた。HDDスロットを2つ備えるノートPCで、1スロットをSSDとし、1スロットをHDDとする構成である。アプリケーションソフトウエアやOSなどの読み出し速度を重視するデータはSSDに格納し、動画や音声などのストリーミングデータはHDDに格納する。こうすると処理性能が上がり、ノートPCの使い勝手が良くなる。64GBのSSDと160GB~500GBのHDDといった組み合わせが考えられるという。

●テスト条件が不明確なSSD

 休憩を挟んで後半の始めには、ストレージ用テストシステムのベンダーであるFlexstar Technologyでバイスプレジデントを務めるMark D. Meyer氏が「A Paradigm Change? Testing of the SSD vs. HDD」と題して講演した。テストシステムの観点から、SSDとHDDの違いを論じた。

Flexstar Technologyでバイスプレジデントを務めるMark D. Meyer氏

 標準規格のインターフェイスを介してサーバーやPCなどに接続された外部記憶装置(ストレージ)という意味では、SSDとHDDは同じである。しかし細かくみていくと、いくつもの違いがある。「SSDとHDDで同じところ、SSDとHDDで違うところ」との視点で両者の差異を説明した。

 例えばストレージとしては同じだが、性能には違いがある。IOPSはSSDが高く、レイテンシはSSDが短く、MTBFはSSDが長く、耐衝撃性はSSDが高い。

 ストレージはサブシステムであるので、サブシステムのユーザーはHDDとSSDに同程度の信頼性を期待する。HDDは例えば、試験サンプルは1,000台、試験時間は1,000時間(6週間)、ヘッドの始動/停止サイクル試験は5万回以上、高温環境、高湿度環境、低温環境、低湿度(乾燥)環境、などの数多くのテストをくぐり抜ける必要がある。しかしSSDではテストの共通規格が定まっておらず、ユーザーは書き換え寿命に懸念を表明している。エンタープライズ用途とコンシューマ用途では要求仕様が違うので、それぞれの用途に合致したテスト条件を定める必要があるとした。

HDDおよびSSDのテストシステム

 なおFlexstar Technologyの国内総代理店であるメディア研究所が、HDDおよびSSDのテストシステムをセミナー後の懇親会会場に展示していた。実際にSSDを読み書きしてレイテンシがHDDに比べると非常に短いことを示していた。


●PC向けSSDの読み書き性能はHDDを上回る

 話題を講演に戻そう。続いて日経BP社の「日経WinPC」で記者をつとめる坂口裕一氏が、「HDDとSSDのベンチマークテスト」と題して講演した。主に、ノートPC向けのHDDとSSDをベンチマークで比較した。

日経BP社の日経WinPC編集で記者をつとめる坂口裕一氏

 坂口氏はまず、ノートPC向けSSDがこれまで進化してきた様子を説明した。便宜上、第1世代~第3世代に分けている。第1世代は2008年秋頃に市場に登場したSSDで、例えば読み出し速度が順次/ランダムとも約140MB/秒、ランダム書き込み速度が約10MB/秒といった製品である。コントローラLSIにはJMicron Technologyの「JMF602」を搭載していることが多い。

 第2世代は2008年末に市場に登場したSSDで、例えば読み出し速度(順次/ランダムとも)が約220MB/秒、ランダム書き込み速度が約43MB/秒に高められた製品がある。「JMF602」を2個とRAIDコントローラLSIを搭載し、RAID0(ストライピング)を構成して速度を高めている。

 第3世代は2009年3月に登場したSSDで、例えば順次読み出し速度が約240MB/秒、ランダム書き込み速度が155MB/秒とさらに高められている。IndilinxのコントローラLSIを搭載しするとともに、64MBのキャッシュを内蔵した。

 そして「Sandra 2009」の「File System」でベンチマークテストを実施した結果を述べた。比較したHDDはSeagate Technologyの「Barracuda 7200.12」であり、ベンチマークによってはWestern Digitalの「WD VelociRaptor」などを追加した。比較した性能は順次読み出し速度、ランダム読み出し速度、順次書き込み速度、ランダム書き込み速度である。

 SSDのベンチマークはHDDに比べるとかなり優れており、第1世代のSSDでも順次読み出し速度とランダム読み出し速度はHDDを上回っていた。第2世代になると、読み出し速度はHDDの2倍近い値に高まった。ただし、書き込み速度は第2世代でもHDDよりも遅かった。そして第3世代では、順次書き込み速度とランダム書き込み速度もHDDを上回るようになった。

●デスクトップPCのシステムディスクにSSDを使う

 この後、これまでの講演者全員にインフォメーションテクノロジー総合研究所の久保川昇氏を加えて「コンピュータシステムにおけるHDD/SSDの選択基準」と題するパネルディスカッションが実施された。

パネルディスカッションの様子

 パネルディスカッションではノートPCへのSSD搭載比率が話題になった。前年4月に開催された日本HDD協会のセミナーでは、東芝 セミコンダクター社の齋藤昇三氏が「ノートPCのSSD搭載比率は2010年に10%、2011年に25%に伸びる」との予測を披露していた。しかし、この予測の実現は困難になっている。パネルディスカッションの参加者による共通の認識は、2011年の時点で10%未満というところだった。

 SSDの普及を阻む主因は高コストにあるとの認識は変化していない。エンタープライズ向けでは記憶容量当たりの単価でHDDの2倍~3倍に下がることが導入候補となる分岐点だとしていた。TCOではSSDが低くなる可能性があり、担当者が上司に具申しやすいレベルであり、試験的な導入によって評価しやすくなるという。

 SSDの性能は、相当な勢いで改良されている。読み書きの性能ではHDDを超えた。それでもコストの壁は、まだまだ厚い。2008年後半からの急激な景気後退により、コストに対する意識は非常に厳しくなってしまった。早くとも2009年末までは、SSDが急速に普及することはなさそうだ。

(2009年 4月 30日)

[Reported by 福田 昭]