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NVIDIA新GPUを2.7万基導入、国策AI基盤モデル開発「FRONTia」始動

 2026年7月16日、経済産業省は「我が国のフィジカルAI政策に関する対外発信イベント」を開催し、6月30日に発表した「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」について説明した。

 「マルチモーダル基盤モデル」とは、言語に留まらず、音声・画像・動画・センサーデータ等、多様なデータを扱えるAIモデルのことだ。

「FRONTia」始動

 採択事業名は「実世界ネイティブに資するフィジカルAI基盤技術の研究開発」だったが、今回、事業名は「FRONTia」と発表された。「FRONTia」は「Foundation for Real-world Omni-Native Trustworthy Intelligence & Alignment(実世界を自然と理解する、信頼性の高いAI基盤)」の略。

「FRONTia」は「Foundation for Real-world Omni-Native Trustworthy Intelligence & Alignment(実世界を自然と理解する、信頼性の高いAI基盤)」の略

 AIロボット・フィジカルAIの開発基盤となる国産AI基盤モデルを開発し、日本が強みを持つ製造業等の産業競争力強化やGXの実現を目指すとされている。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募を実施し、実施予定先をソフトバンク、ソニーグループ、NEC、ホンダなどの国内大手企業44社が出資して設立したNoetra(ノエトラ、旧名: 日本AI基盤モデル開発)と、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)に決定した。

プロジェクトの全体像

 事業は「開発枠」と「探究枠」の2本柱で推進される。Noetraは「開発枠」担当で、日本のモデル開発・利活用事業者等のニーズを踏まえつつ国際的に競争力のあるマルチモーダル基盤モデルを開発・提供する。

 「探究枠」を担当する産総研は、国内外の研究機関等と連携して先進的な技術開発を実施し、将来を見据えた競争力ある基盤モデルの開発に貢献することを目指すとされている。計上予算は2026年度で3,873億円。事業期間は2026年度から2030年度。2027年度以降の見直し、継続可否については毎年度ステージゲート審査を実施する。

 今回の発表でAIスタートアップのPreferred Networks(PFN)が参画して中心的役割を果たすことが新たに公開された。

 PFNからは代表取締役社長の岡野原大輔氏がNEDO事業の共同研究開発統括責任者としてNoetraでのモデル開発をリードするとともに、産総研が主体となって実施する「探求枠」のテクニカルディレクターの一人として研究開発を行なう。

 さらにPFNが開発している国産基盤モデル「PLaMo」の開発責任者・田中大輔氏を含む複数のエンジニアがNoetraに出向する。社会課題を解決し、2040年に1,000万台のAIロボットを国内導入することを目指す。

内閣総理大臣 高市早苗氏によるビデオメッセージ

 会見ではオープニングムービーが流されたあと、内閣総理大臣の高市早苗氏によるビデオメッセージが紹介された。高市氏は「フィジカルAIは日本に強みがあり日本の勝ち筋となる分野。日本の現場力の強みと叡智を結集し、信頼されるAIを生み出すことが重要。戦略的投資を今後も進めていく。国産モデルの開発基盤が構築されること、大変心強く感じている。日本再起の旗印としていこう」と述べた。

経済産業大臣 赤澤亮正氏

 続いて経済産業大臣の赤澤亮正氏が革ジャンを着て登壇。赤澤氏は「ビッグデータは日本の勝ち筋と繰り返し申し上げてきた。日本には福島第一原発のような過酷な状況や世界一の製造現場がある。こうした社会課題をビッグデータやフィジカルAIを使って解決することが重要。これを地方に広げ、あらゆる人材が関わり、さまざまな分野で活用できるAIを構築し、エコシステムを世界に先駆けて実現することが日本の生命線だ」と挨拶した。

 そして「FRONTia」の名前についても触れ、「我が国と世界のエンジニアによる新たな挑戦が始まる。エンジニアの皆さんが思う存分力を発揮することを期待している。世界のフロンティアを切り拓く。日本全体のAIトランスフォーメーションを進める。技術で勝って、ビジネスでも勝ち切る」と述べた。

Noetra出資各社社長も登壇してフォトセッション

まずフォトセッションが行なわれた

 まず関係者によるフォトセッションが行なわれた。登壇者は以下の通り。

  • 国立研究開発法人産業技術総合研究所 理事長 斎藤保氏
  • 国立研究開発法人産業技術総合研究所 理事長 兼 最高執行責任者 石村和彦氏
  • ソニーグループ 代表執行役社長CEO 十時裕樹氏
  • ソフトバンク 代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 宮川潤一氏
  • 日本電気 取締役 代表執行役社長 兼 CEO 森田隆之氏
  • 本田技研工業 取締役 代表執行役社長 三部敏宏氏
  • Noetra 代表取締役社長 丹波廣寅氏
  • NVIDIA創業者兼CEO Jensen Huang氏
  • 経済産業大臣 赤澤亮正氏
上段左より、国立研究開発法人産業技術総合研究所 理事長 斎藤保氏、ソニーグループ 代表執行役社長CEO 十時裕樹氏、ソフトバンク 代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 宮川潤一氏、国立研究開発法人産業技術総合研究所 理事長 兼 最高執行責任者 石村和彦氏。下段左より、日本電気 取締役 代表執行役社長 兼 CEO 森田隆之氏、Noetra 代表取締役社長 丹波廣寅氏、経済産業大臣 赤澤亮正氏、NVIDIA創業者兼CEO Jensen Huang氏、本田技研工業 取締役 代表執行役社長 三部敏宏氏
抱き合う赤澤氏とジェンスン・フアン氏

NVIDIA Rubin GPUが約27,500基導入予定

NVIDIA ジェンスン・フアン(Jensen Huang)氏

 この事業ではGPUクラスタとしてNVIDIA Rubin GPUが約27,500基導入される予定だ。事業パートナーであるNVIDIAのジェンスン・フアン氏は、赤澤氏に対して同じ格好でうれしいと述べたあと、「メイドインジャパンは最高の品質、精度によって実現されてきた。日本は知識を失ってはいけない。日本AIを構築しなければならない。AIファクトリーが必要だ。日本が先駆けとなるのは初めてではない。日本はNVIDIAのGPUをスパコンとして活用してきた。NVIDIAはフルスタックAIプラットフォームを提供する。GENIACでは多くの計算資源が使われている。日本AIが全国に貢献することを期待する。日本の専門知識はまさに知的資産だ。日本の産業の専門性はジャパンAIとなる」と語った。

人工知能研究の大物からもメッセージ

人工知能戦略専門調査会座長、東京大学教授 松尾豊氏

 続いて、東京大学教授で人工知能戦略専門調査会座長の松尾豊氏が登壇した。松尾氏は「2022年末に生成AI時代に入った。日本はしっかりその流れについていった。しかし世界の中のフロンティアモデルで戦えているかというと厳しいものがある。まだまだついていけない」と初めに述べた。

 そして「フィジカルAIは労働力が不足している日本において必要性が高い。日本においてはフィジカルAIの技術領域はまさに負けられない戦い。この領域で日本がしっかり戦っていくためには、基盤モデル開発、データ、アプリケーション開発、ハードウェア開発が連携しなければならない。基盤モデルの開発は甘くないので厳しい戦いになるだろう。その中でなんとか世界のトップと伍していくことで、日本のハードウェアが次の時代の競争力を身につけていくことにつながれば大きい。フィジカルAIは、LLM、AIエージェントのようにいますぐ使える技術ではない。まだやることがたくさんある。だからこそ国をあげて取り組む意義がある。産業化の時代が来たときに大きな投資ができるかが大きな分岐点となる。大きな期待をするとともに日本をあげてこのプロジェクトを成功に導いていければ」とメッセージを送った。

AMI Labs共同創業者、ニューヨーク大学クーラント数理科学研究所教授 ヤン・ルカン氏

 AMI Labs共同創業者でニューヨーク大学クーラント数理科学研究所教授のヤン・ルカン氏と、「セーフバイデザイン」に取り組む非営利団体LawZero創立者で、ケベックAI研究所Mira創立者・科学アドバイザーのヨシュア・ベンジオ氏からビデオメッセージが送られた。ルカン氏は甘利俊一氏や福島邦彦氏らの業績についても触れたあと、「生成モデルを通じて発展してきたAIは長らく身体を持っていなかった。次のフロンティアはそれを変える。どんな環境でも知覚し、因果や物理的な関係を理解する。大きなチャレンジであり、新しいアーキテクチャが必要。世界の内部表現を構築し、自分の結果を予測できるAIが重要」と述べ、世界モデルの重要性を強調した。そして「日本はユニークな立場にある。次世代の知的システムにとって良いチャレンジの場がある。これらには真の国際協力が必要だ」と語った。

LawZero創立者/Mira創立者・科学アドバイザー ヨシュア・ベンジオ氏

 ベンジオ氏は「AIの進歩があらゆる分野に影響を与えている。だがこれは氷山の一角。いま技術と社会が急速に変化している。指数関数的に技術は発展しており、グローバルレースの中、さらに安全で信頼できるAIを開発する重要性は増している。日本は製造業やロボティクスなど卓越した強みがある。だからこそリードできる。カナダもこの考え方を共有している。日本とカナダ、そしてほかの国とも連携して協力することが利益となる。日本とカナダは第3極となりえる。我々の提案手法を日本でも試してほしい。安全なAIを構築することは1つの機関や国だけでは成し遂げられない。人類最良の知を結集することが重要」と語った。

フィジカルAI政策の全体像

経済産業省 商務情報政策局長 野原 諭氏

 政策説明は、経済産業省 商務情報政策局長の野原 諭氏が行なった。AIの進化は劇的であり、人手不足解決そのほかのためにも活用が必要となる。これを「AI Transformation(AX)」と呼んでいる。モデル改善のためにも社会実装のスピードが重要となる。

AI Transformation(AX)の全体像

 製造現場データをAIで利用できるようにする手法の開発、データ収集・モデルの開発、多様な現場で活用できるロボット基盤モデルの開発、そしてマルチモーダル基盤モデルといった4段階で進める。これらの取り組みを連携させることでモデル活用とデータ循環を促進し、現場実装と性能向上を目指す。

連携し合う4段階で開発を進める

 FRONTiaは、人類のフロンティアを拓く最前線を意味している。日本が培ってきたものづくり文化や現場力を結集し、海外の知見を取り入れながら、信頼されるAIを構築する。Noetraが基盤モデルを作り、産総研が先を見据えた先端的研究開発を行なう。NEDOと経産省はガバニングボード、ステージゲートをもうけて、四半期ごとに見直しを行なう。

 学習データに関する連携も進める。多様なデータを収集する。海外連携も重視する。先端的研究開発を進め、その成果をモデル開発に統合する。今後さらに連携先は拡大する。

学習データに関する連携企業
海外連携

 政府としては2040年に1,000万台のAIロボットを国内導入する目標を掲げる。そのために重要部品の供給力強化など量産体制の構築支援、導入支援を進めることで、AIロボットの社会実装を加速させる。

社会実装への全体構想

事業内容: 「開発枠」と「探究枠」の2本柱

左からNoetra 開発戦略室 室付 Preferred Networks共同創業者 代表取締役社長 岡野原大輔氏、Noetra 代表取締役社長 丹波廣寅氏(中央)、国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センター 副研究センター長 濱崎雅弘氏(右端)

 事業内容紹介は、Noetra 代表取締役社長の丹波廣寅氏、Noetra 開発戦略室 室付で、Preferred Networks共同創業者 代表取締役社長の岡野原大輔氏、国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センター 副研究センター長の濱崎雅弘氏の3人が行なった。

Noetra 代表取締役社長 丹波廣寅氏

 丹波氏はソフトバンク傘下のSB Intuitionsで国産LLMの開発を牽引してきた。「これは非常に大きなチャレンジ。トップエンジニアに入ってもらい、そこに世界の研究者を集める産総研が参加してもらう」と述べた。そして「これからのAIはAIが作る。NoetraはすべてのAIの中核になるベースとなるAIを構築する」と語った。

「現場力を生かせるAI」を目指す

 NoetraではフィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデルを構築し、活用されることを目指す。目指す世界は現場力を生かせるAIだという。実世界をリアルタイムに理解し、ロボットを自律的に制御でき、既存工場・設備を生かすことで人と協調できる基盤モデルだ。

目標は実世界をリアルタイムに理解し、ロボットを自律的に制御でき、既存工場・設備を生かすことで人と協調できる基盤モデルの実現

 事業は「開発枠」と「探究枠」の2本柱で推進される。Noetraがマルチモーダル基盤モデル開発を行ない、それと連携して産総研が戦略的研究開発を行なう。Noetraは探究枠の研究成果を取り込み、NVIDIA Rubin GPU 約27,500基から構成される国内最大規模の大規模計算基盤を活用して公開基盤モデルを開発する。一足飛びのモデル構築を目指すのではなく、2030年度まで毎年度、公開モデルを継続提供していく計画だ。ユーザーの選択肢を増やす。

Noetraが担当する「開発枠」と、産総研が担当する「探究枠」の2本柱

 開発枠については岡野原氏が解説した。プロジェクトでは推論基盤モデルと、生成基盤モデルの2種類のモデルを構築する。最終的には教え込まなくても現場作業をやり遂げるAI開発を目指す。開発にはデータ整備、学習、評価のステップが必要になる。そのフィードバックサイクルを回すことでモデルの性能を向上させる。

継続的なモデル開発を行なって性能を向上させる

 探究枠については産総研の濱崎氏が解説した。研究開発は「原理解明・効率化」「視覚・3D」「音声・音響」「ロボット・デジタルツイン」「エージェント」の5つの研究領域から構成される。「原理解明・効率化」領域では次世代AIに向けた理論的基盤の構築、「視覚・3D」領域は言語概念と画像映像との統合、「音声・音響」領域では公平でインテリジェントな音響・マルチモーダルAI、「ロボット・デジタルツイン」領域では人・ロボット共同作業のための協働VLA、「エージェント」領域ではフィジカル時代のAIエージェント開発を目指す。

実世界を理解するAIモデルを目指す

 丹波氏は「これから存在しない第3極、世界の産業の変革を導き出して、これが新しい日本の勝ち筋になるというところを作り上げたい。皆さんに参画してほしい。現場の力を生かしてフィードバックを返す。現場とともにこのモデルを作り上げたい」と語った。

毎年進化するAI
5つの研究領域

日本が挑戦する「機は熟した」

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 理事長 斎藤保氏

 最後に、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 理事長の斎藤保氏が閉会挨拶を述べた。「戦略的官民投資を加速させる重要分野としてフィジカルAIが掲げられている。さまざまな意思表明があった。領域ごとに多くの開発を進めている。日本の状況は米中に大きな遅れをとっている。計算資源も足りなかった。だがこの2年間で環境は整備され、人材も養成され、社会実装も進みつつある。機は熟した。その代表例がこのFRONTiaだ。まさに我が国の全体のプレイヤーのつながりが目標達成の大きな鍵となる。NEDOは扇の要。NEDOは未来を見据えた価値創出、未来への柔軟な対応、多彩なプレイヤーとの連携、挑戦する風土を重視している。NEDOとしても引き続き、プロジェクト目標達成、連携を推進していく」と語った。