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AI=GPUだけじゃない時代へ。全方位ラインナップでAMDが狙う覇権

 日本AMDは、都内でAI関連製品や技術を紹介する「ADVANCING AI 2025 JAPAN」を開催。メディア向けラウンドテーブルや企業向けの基調講演を行ない、各分野におけるAI戦略と最新の事業動向を説明した。また、AMD製品を搭載する各メーカーが出展、デバイスの展示や紹介を行なった。

ビジネスが好調なAMD

メディアブリーフィングで語られたもの

 メディア向けラウンドテーブルでは、AMDのデータセンター向け、クライアント向け、エンベデッド向け各製品について、現状と展望を示した。

日本AMD代表取締役社長ジョン・ロボトム氏

 まずは同社代表取締役のジョン・ロボトム氏が、今回大型のイベントを開催した背景、およびデータセンター分野について説明。AI時代において、ますます信用および信頼性が重視される中、AMDは過去50年間日本でビジネスを継続してきた実績を生かすとともに、すでにさまざまな分野における採用実績を掲げて、さらに認知度を高めていく必要があると語った。

 また、AI需要の急増に伴い、サーバー向けCPUのEPYCおよびAIアクセラレータInstinctシリーズの成長が続いている。スーパーコンピュータ(HPC)の分野では、現在TOP500の上位2つのシステムでAMDの技術が採用されているほか、ハイパースケーラ提供上位10社、ソーシャルサービス提供上位10社ともにAMDのシステムを採用している。このため2025年のAMD全体での収益予想は160億ドル超が見込まれ、2020年からの年平均成長率は52%に達するという。

 一方、これまでAIと言えば「学習」でGPUだけが重宝されてきたが、そのAIの活用のフェーズの「推論」ではCPUも重要な役割を果たすとし、EPYCシリーズの重要性を強調。その次世代製品となる「Venice」では現行機比でスレッド密度1.3倍、パフォーマンスと効率は1.7倍に進化するとアピールした。

 新たな取り組みとして、ラック規模のハイパースケール向けラックシステム「Helios」を紹介した。これは、買収したZT Systemsのデザイン能力を活用し、AMDが持つCPU、GPU、NICなど各製品を統合したラックレベルのソリューションを、リファレンスとしてパートナーシップを通じて提供するものだ。ネットワーク接続には、プロプライエタリな技術ではなく要望の多いUltra Ethernetを採用する。

 また、社外との連携についても触れ、オープンソースのソフトウェアスタックであるROCmによる多発的なイノベーション、OpenAIやORACLEを始めとする世界的企業との戦略的パートナーシップ、日本国内でのKDDIや理化学研究所との連携などを紹介した。

 クライアントPC分野では、代表取締役副社長兼アジアパシフィッククライアントビジネスディレクターの関路子氏が登壇し、「Ryzen AI」を搭載したAI PCの普及について語った。

代表取締役副社長兼アジアパシフィッククライアントビジネスディレクターの関路子氏

 現在、AMD製プロセッサを搭載したAI PCシステムは、1年前の100から250以上に拡大しており、AI PC全体の市場規模は2024年から2029年にかけて4.5倍に成長すると予測しているという。

 そしてローカルで実行可能な小型AIモデルの飛躍的な高性能化や、セキュリティ上のニーズから、クラウドだけでなくローカルデバイスを活用する「ハイブリッドAI」の重要性が増しており、AI PCが今後さらに不可欠になると説明した。また、Ryzen AI、Ryzen AI Max、Radeon AI各製品群によって、求められるAI処理能力に最適な製品を提供可能だとした。

 エンベデッド(組み込み)分野については、APACエンベデッド・セールスジャパンカントリーディレクターの杉山功氏が解説した。

APACエンベデッド・セールスジャパンカントリーディレクター杉山功氏

 AMDでは現在、FPGAやアダプティブSoCを含む製品群を強化し、ロボティクスや自動車などの「フィジカルAI」領域に注力している。ザイリンクス買収による製品への統合、高速コンピューティングIPの活用およびパッケージング技術の統合により、幅広いポートフォリオを提供できるようになり、AIの学習から推論、エッジデバイスでの実装まで多様なワークロードに対応でき、フィジカルAI実現に至る全体をカバーできるという。

 国内の具体的な採用事例として、スバルの運転支援システム「アイサイト」や、JR九州の線路点検システムでの活用を紹介した。AMDとしては、AIにおいてフィジカルAIは非常に大きな市場になると見込んでおり、幅広いポートフォリオと共通なアーキテクチャで、大きな商機を見出しているとした。

AI活用拡大でAMDに大きなチャンス。一方でアピールにも課題

 基調講演では、冒頭でロボトム氏が挨拶し、AMDの過去の実績の振り返りおよび今後のロードマップ紹介が行なわれた後、IDC、富士通、日立製作所各社の担当者が登壇し、エージェンティックAIの見通しやオープンベースのAI/HPCエコシステム、企業におけるAMD製AI PCの採用などについて述べた。

 まず、IDCのInfrastructure & Devices, Researchリサーチマネージャーの宝出幸久氏は、AI活用に関する今後の見通しについて述べた。

IDC Infrastructure & Devices, Researchリサーチマネージャー宝出幸久氏

 同氏は、これまでおよび現在のAIは、どうしても人間の介入が必要であるため、そのポテンシャルを生かしきれていないと指摘。IDCの調査の中で、AI導入でローンチに至った企業が6割、そのうち成功したのは一桁台程度に留まっているという。本格的なAI活用には、複数のAIエージェントが互いに協力しつつ複雑なタスクを遂行する「エージェンティックAI」が主となり、人間がそれを見ているだけで済む時代へ移行しなければならないだろうとした。

 これに伴い、複数のAI関連技術を組み合わせた「コンポジットAI」や、CPUやGPUを適材適所で使い分ける「ヘテロジニアス・コンピューティング」、機密保持のための「プライベートAIインフラ」が求められる市場が訪れ、それに際してAPIコールの負荷が現在の1,000倍になる予測を立て、そうしたワークロードに最適化していくことが課題であるとした。

 そういった環境の中、セキュリティ、レスポンス、低レイテンシなどを実現できるプライベートAIへの再投資が進むだろうと予測。それに際して、入れ替えなどに対応できるオープンなプラットフォームが必要になるだろうと述べた。

 富士通の先端技術開発本部エグゼディレクター村上陽一氏は、オープンで透明性のあるAI/HPC基盤について述べた。

富士通先端技術開発本部エグゼディレクター村上陽一氏

 開発中の2nmプロセスArmアーキテクチャCPU「FUJITSU-MONAKA」と、AMDのInstinctを組み合わせたAI基盤構想を披露。OSSベースのソフトウェアエコシステムと、処理中も暗号化を維持する「コンフィデンシャルコンピューティング」技術で、ニーズの多様化と外部脅威に対応していくとした。

 日立製作所のUXソリューション部長である高橋幸喜氏は、自社におけるAMD製AI PC導入について述べた。

日立製作所UXソリューション部長高橋幸喜氏

 PC運用を「Device as a Service(DaaS)」へ集約する中で、AMD製CPUの採用率が2025年度中にグループ全体の50%超(約15万台)に達する見込みだと明かした。実証実験でRyzen搭載機が競合製品より「高負荷時の発熱が低く、性能が高い」結果を出したことが採用の決め手となったという。今後もNPU搭載の「AI PC」へ切り替え、省コスト化などを推進する。

【お詫びと訂正】初出時、2025年度中のAMD採用の累計台数見込みを「約20万台」としておりましたが、これは誤りです。お詫びして訂正させていただきます。

 一方で、AMDに対してはブランド認知度の向上を努めてほしいという要望も明かした。同社がRyzen搭載PCを導入する際に、東南アジアのユーザーから「Ryzenは発熱が多い(から導入したくない)」というマイナスイメージがあったが、これを自社内で検証し、数値を示して説得する必要があったという。こうした誤った認知を正すためにも、まずはAMD自身がもっとアピールしてほしいと述べた。

企業出展

 ADVANCING AI 2025 JAPANではAMD製品を採用する各メーカーが出展し、コンシューマ向けPCやラックサーバー、エッジAIなど多様な製品を展示した。

Instinctの実機
AMD製プロセッサのAI性能を利用するBlackmagic Design製ソフトウェア