USB Implementers Forum(以下USB-IF)は20日~21日の2日間、USB 3.0(SuperSpeed)に関する開発者向けの会議「SuperSpeed USB Developers Conference」を都内で開催している。
カンファレンスのタイトルからもわかるとおり、基調講演では、次期USBの標準規格である「USB 3.0」に関する技術イノベーションなどを紹介。また技術者向けのセッションでは、USB 3.0に関するさまざまな技術情報を公開している。
なお、プレス向けには記者説明会が開催された、基調講演とショーケースのみ参加可能だった。本稿ではそれらをまとめてお送りする。
●的確に消費者のニーズに応えたUSB 3.0Jeff Ravencraft氏 |
基調講演では、USB-IF President and ChairmanのJeff Ravencraft氏が、USB 3.0に関するハードウェア的な技術概要などについて紹介した。
同氏はまず、USBの現状について言及し、「USBはPCのインターフェイスの中でもっとも成功を収めたインターフェイスである」と指摘。USBのPC搭載率はほぼ100%を達成しているだけでなく、多くの周辺機器にも受け入れられている。
成功を収めた理由として同氏は、「これは単純に消費者がUSBが好きだからである。シンプルで使いやすく、さまざまなデバイスにおいて共通のコネクタを持っているので、ケーブルに惑わされることもない。PCのインターフェイスとしてはEthernetやWi-Fi、Bluetoothなどの技術もあるが、これらをまとめられるのもUSBである」と説明した。
この結果、2006年からの累計で、業界全体では約60億台ものUSB搭載デバイスを出荷した。そして今後も年間25億台以上のペースでUSB搭載機器が出荷されるという。
一方、現在のUSBが抱えている一番大きな問題として、「転送速度が遅い」という点を挙げる。ストレージ容量の増大に従って、HD動画コンテンツ、写真や音楽ファイルなどが肥大化し、結果としてユーザー体験が低下する一因となっていた。
例えば、SD画質で容量6GBのデータを転送する場合、現時点で最も速いUSB 2.0では3.3分かかる。一方、Blu-ray Discに相当する25GBのデータを転送する場合、USB 2.0では13.9分という長い時間を要し、「一般的なユーザーは、処理に時間が1分以上かかると、PCにもたつきを感じるようになってくることから、これはもはや実用的な速度とは言えなくなっている」と指摘した。
USB 3.0ではこれらの問題を解決できる。同様に25GBのデータを転送する場合、(ストレージの速度やCPUの処理速度などを含まなければ)USB 3.0では約70秒で完了し、ユーザーの体験を大幅に向上させられるという。
Jeff氏は、「USB 3.0の仕様が固まったのは2008年11月だった。しかしそれが半年経った現在では既に製品のサンプルが完成している。これだけのペースで製品化に向かっているインターフェイスは過去に類を見ないだろう。それは前述のように、今の市場ニーズからみて、迅速に投入しなければならないと自負しているからだ。製品化の目処も立っているので、スケジュールをやや前倒しにする」と述べた。
USB搭載機器の出荷台数推移(予測含む) | USB規格別のデータ転送にかかる時間 | USB 3.0スケジュールの前倒し |
USB 3.0へのニーズは、速度面だけではない。「互換性の面でも、USB 2.0対応の機器に対しても同じように機能しなければならないというニーズがある。これはUSBへの信頼性に関わってくるものだ。また、昨今パワーマネジメントへのニーズもある。我々はそれに対しても応えていく」とした。
さらに今後10~20年間を見渡すと、NANDフラッシュをベースとしたメモリやSSDによるデータパイプの拡張ニーズがある。そこでUSB 3.0では、それらに対しても将来的に対応の余地を残しているという。「USB 3.0のプロトコルでは既に25Gbpsまで対応できるようになっている。そのときには光ファイバーになるかもしれないが、USB 3.0ではそこまで先を見越した設計をした」とJeff氏は説明した。
USB 3.0がターゲットとするデバイスは、PCを中心に、高速転送を必要とするUSBメモリ、ビデオ/ミュージックプレーヤー、携帯電話、SSDなどに及ぶ。HDDにおいてももちろん恩恵を受けられるが、機械的な速度に上限があるので、受けられるメリットは少ないだろうとした。
次に同氏は、初めてUSB 3.0による相互互換性を持ったデバイス間データ転送のデモを公開した。今回のデモで使われたものはまだ初期プロトタイプのシリコン/ドライバによるものだが、スクリーンには200MB/sec前後の速度が表示された。「実際製品化された頃には、この値よりずっと高い速度が実現されるだろう」とJeff氏は付け加えた。
また、NECエレクトロニクスとFRESCO LOGICが試作したUSB 3.0対応カードを見せ、着実に製品化に向けて進んでいることをアピール。さらに、USB-IFに賛同している企業を紹介し、業界が一同となってUSB 3.0の普及に向けて前進していることを強調した。
NECのμPD720200を搭載したExpressCard/34型カード | FRESCO LOGICのPCI Express対応USB 3.0カード | 初というUSB 3.0の転送速度のデモ |
相互互換性の維持についても強調し、USB-IFではPIL Labを設け、そこで相互互換性のテストが行なえることを紹介。「もしUSB対応デバイスを作ったら、いち早くLabに持ってきていただいて、相互互換のテストをしていただきたい。互換性がある製品についてはUSB-IF公式のロゴを与えているので、消費者にも訴求しやすくなるはずだ」と説明した。
USB 3.0に賛同している企業 |
●MicrosoftもUSB 3.0をサポート
MicrosoftのFred Bhesania氏 |
前述のLabにはWindows 7の開発途上版も用意され、OSを含めたテスト環境が整えられているという。
MicrosoftのPrincipal Program Manager, Windows Device and Storage TechnologiesのFred Bhesania氏は、「USBを初めて正式サポートしたWindows 98以来、ドライバを標準で提供し、現在では15種類のデバイスドライバが標準搭載されている。これによってユーザーはドライバをインストールすることなくUSBデバイスを利用できるという素晴らしい環境を提供できた」と述べる。
Windows Vistaのレポートによると、ユーザーに利用されているUSBデバイスのうち94%は、ユーザーが手動でドライバのインストールをすることなく利用できているという。一方USB 3.0のサポートについては、当初はメーカー提供によるドライバのインストールが必要になる見込みだが、今後はWindows Updateやインボックスドライバで提供していきたいとした。
ドライバに関しては、Windows Vistaと7で利用できるWindows Driver Foundationで対応していく。「過去にユーザー側で問題が発生すると、ブルースクリーンになって、それをMicrosoftにレポートして、それをもとにメーカーと協力問題解決に向けて努力していたが、開発の途中で“これは最初からもっと良くできていたはずだ”と思う場面がいくつもあった。当時はドライバの開発がとっても大変だったからだ。今回我々はWindows Driver Foundationで対応していきたい。実際、私も4時間という短い時間でデバイスドライバを書き上げることができた」と話した。
また、Windows 7ではデバイスステージが導入されることにより、ユーザーはUSB機器をより容易に管理できるようになることをアピールした。
さらに、USB 3.0のパワーマネジメント機能、信頼性、仮想化への対応の取り組みも強化し、USB 3.0の早期普及に向けたUSB-IFへの協力をコミットし、Jeff氏にバトンを渡した。
OSの推移とUSBのサポート | Windows 7におけるUSB 3.0のデバイスドライバ開発のサポート |
デバイスセンターの搭載によりユーザー体験も向上する | SSDなどのストレージやHDビデオなどによってUSB 3.0が推進される |
最後にJeff氏は、「今は景気が悪く、開発者にとって厳しいだろう。しかし砂の中に頭を埋めている場合ではない。景気が悪い今だからこそ、素晴らしいUSB機器を作ってもらい、世の中の景気活性化に役立ってもらいたい」と話し、基調講演を締めくくった。
●USB 3.0に搭載されている技術記者会見は、基調講演と一部重なる内容もあるので、以降は記者会見で説明されたUSB 3.0に関する技術内容を紹介する。
USB 3.0は速度に関しては既知の通り、最大転送速度5Gbpsを実現している。なお、これはあくまでも理論値であり、実際にはプロトコルのオーバーヘッドが加わるため、200MB/sec~300MB/sec程度の速度となる。
USB 3.0コネクタの規格 |
下位互換性については、NECのホストコントローラの記事で一度触れているが、基本的に「ホスト/ゲストコントローラがともにUSB 3.0に対応し、USB 3.0ケーブルを用いた時にのみ、5Gbpsの転送速度を実現できる」。それ以外の組み合わせでは480Mbpsでの転送になる。
そのケーブルは、従来の送信、受信、グランド、5V電源という4本の線に加え、USB 3.0専用の送信線が2本、受信線が2本、グランド線が1本追加されている。ここで注意したいのは、USB 3.0の信号線だけの構成では電源が供給できないない上、規格上でも許されていないこと。このことはコネクタにでも共通で、USB 3.0の信号線だけで構成されたコネクタは規格外となる。つまり5Gbpsの転送速度を利用するためにはフルセットが必要になり、どれも欠けてはならない。
なお、現時点では一部のデジタルカメラでAV出力を兼ね備えたUSB端子があるが、Jeff氏はこれに対して「これは我々の規格外のものであり、我々の認証ロゴを取っていないものである。ただしメーカーが独自にやられることに対しては特に制限していない」という見解を述べた。
ホスト側のコネクタは基本的に1種類で、「Standard-A」と呼ばれる。USB 2.0以前と形状的に互換性があり、新たに5ピンが付け加えられているだけである。USB 2.0/3.0のケーブルが完全互換で利用できるようになっている。
ゲスト側は、一般的なものとして「Standard-B」が用意されている。これは現在のUSB 2.0のBコネクタの台形の上部に新たに5ピン追加したものである。このため、コネクタ側には完全互換性はあるが、ケーブルに下位互換性はない。
Micro-Bコネクタの実物 |
また、携帯機器向けには、「Micro-B」が策定された。これは携帯電話の標準化団体に強く働きかけられてこの形状になったという。従来のUSB 2.0のMicro-Bコネクタの横に、新たにUSB 3.0の信号線が追加された。このためStandard-Bと同様、コネクタの完全互換性は保たれているが、ケーブルの下位互換性はない。
Micro-Bについては、「現時点では携帯電話のコネクタの規格がバラバラで、携帯を買い換えるごとに、ケーブルがゴミの山に積まれるという状態になっているが、USB 3.0ではそれが解消される」とJeff氏がそのメリットを語る。
一方で、ケーブルに下位互換性が無く、USB 3.0の速度を完全に享受できる環境が限られているところが、従来と大きく異なる点。「USB 1.0から2.0になったときはケーブルを変更せずにそのまま利用できたが、USB 3.0ではケーブルを変更する必要がある」と注意を促した。
ポーリングの廃止とユニキャスト通信の採用 |
省電力への取り組みとしては、常時ポーリングを廃したことと、ユニキャスト通信方式を採用したことを挙げた。
従来は、ホストはデバイスに対して常にポーリング(送信または処理の要求がないかの確認)を行なっていたが、USB 3.0ではこれを接続時のみとし、以降はデバイスが待機状態であるというコマンドが発行されれば、ホストはポーリングをしない仕組みになっている。
また、従来はすべてのデバイスに対して同一のリクエストを送信するブロードキャスト方式を採用していたが、USB 3.0ではこれを完全に廃し、一対一のユニキャスト通信方式を採用した。
上記の手法により、「電力効率が極めてよくなった」(Jeff氏)という。具体的な数値に関してはまだ製品がないためわからないが、「今のUSBはポーリングとブロードキャストによって、消費電力の大半を費やしているので、これを廃しただけでもかなりの省電力化が図られるだろう」とした。
●ショーケースではNECエレによるデモも
カンファレンス会場ではショーケースも置かれ、NECエレクトロニクスやTexas Instrumentsなどが展示を行なった。
残念ながら今回のNECエレの展示は、18日に発表されたμPD720200のサンプル品を利用したデモではなく、FPGAを用いたデモだったが、「FPGAにすべての回路が入りきらなかった、PCI Express x1も2.0ではなく1.0」という制限付きながらも、160MB/secに近い転送速度を実現するなど、製品化へ着々と進んでいることが伺えた。
(2009年 5月 20日)
[Reported by 劉 尭]