元麻布春男の週刊PCホットライン

3世代目を迎えるPCI ExpressとUSB




 45nmプロセスによるプロセッサの話題が中心となったIDFだが、I/O関係でもいくつかの新しい動きがあった。それは、Version 3.0になるI/O規格の発表(正確には規格化の意思表明というところか)である。1つはPCI Express、もう1つはUSBの“3.0”だ。いずれも現在広く普及しているI/O規格の後継を目指すことになる。


●8Gbit/sec帯域のPCI Express 3.0

PCI Express 3.0では、現在の2倍の帯域を確保する
 まずPCI Expressを見てみよう。現在のPCI Expressの状況は、まさにPCI Express 2.0のデビュー前夜というところだ。

 PCI Express 2.0に対応したIntel製のチップセット(X38)が、まもなく登場する見込みだ。PCI Express 2.0は8b/10bエンコーディングにより埋め込まれたクロック信号分も含めて5Gbit/sec、純粋なデータ分のみで1レーン/片方向あたり4Gbit/sec(500MB/sec)、双方向でその倍の1GB/sの帯域を持つ。真っ先に実用化されるであろうグラフィックスカードのように16レーンを利用するアプリケーションであれば、双方向で16GB/sの帯域が提供される(500MB/sec×16×2)。

 IDFの直前にニュース発表があった「PCI Express 3.0」は、さらにその2倍、1レーン/片方向あたり8Gbit/sec(1GB/s)の帯域を提供する。当初は8Gbit/secと10Gbit/secの両方が検討されたようだが、消費電力、生産性、コストの面から8Gbit/secを選択したとしている。いずれにせよPCI Express 3.0では1レーンあたり2GB/s(双方向)、グラフィックス用のx16スロットでは32GB/sの帯域が提供されることになる。

 これを実現するためPCI Express 3.0では、これまで使われてきた8b/10bエンコーディングによる20%のオーバーヘッドを嫌い、8b/10bエンコーディングを止めてスクランブリングのみを用いたデータ転送を行なう。ただし、データ転送に際してはネゴシエーション等を行なうことで、既存のPCI Express 1.xおよび2.0との互換性を維持する。互換性は信号レベルだけでなく、スロットレベル、コネクタレベルで維持される見込みだ。さらにデータのプリフェッチやキャッシュしたデータの再利用といったことが高速化を実現するための技術として検討されている。

 PCI Express 3.0の1レーンあたり2GB/s(双方向)にも及ぶ帯域を何に使うのか。現在、PCI Expressの周辺機器として最も普及しているグラフィックスカードは、当然その恩恵を受けるデバイスとして想定されている。加えて現在、PCI Express 3.0をベースにしたアクセラレータの接続ポイントを設けようという提案が、IBMとIntelによってなされている。Geneseoという開発コード名で知られるこのプロジェクトは、汎用性を重視したPCI Expressのプロトコルをアクセラレータ向けに最適化することで、専用の接続ポイントにしようというものだ。

 現時点でIntelはアクセラレータの接続ポイントの例として、FSBを挙げているが、2008年に登場するNehalemでFSBは消失する。その後継となるQuickPath Interconnect(QPI)は、物理的にはPCI Expressをベースにしながらも、セキュリティ等の観点からIntel独自の規格になることが予想される。仮にQPIを前提としたアクセラレータがあるとしても、それにはIntelのライセンスが必要になる。Geneseoはもっとオープンなアクセラレータ接続ポイントをサードパーティに提供することになる。

 このPCI Express 3.0の構想については、すでに昨年秋のIDFの時点で明らかにされており、ロードマップ通りに進行しているという感が強い。現在の予定では2008年中にドラフトをリリース、2009年に規格化を完了し、2010年に製品投入を目指すことになっている。

●未確定な部分も多いUSB 3.0

USB 3.0のコネクタ。既存のUSBと互換のコネクタの中に光ファイバが見える
 これに対して、「USB 3.0」は唐突に登場してきた印象が否めない。USB 3.0は、現行USB 2.0(480Mbps)の10倍を超える帯域を目指すものとして、Pat Gelsinger副社長のキーノートで紹介されたもの。従来同様の銅線に加え、光ファイバをもサポートする。

 光ファイバをサポートする理由の1つは、省電力性が求められるモバイル用途を意識したものだと思われる。実際、今回のIDFでUSB 3.0に関するテクニカルセッションは、「Technologies for Mobile World」と呼ばれるカテゴリに分類されていた。ただ、事前に用意されたと思われるこのセッションのスライドに、光ファイバに関する記述が全くないことも、唐突な印象を強める。

 そんなUSB 3.0だから、詳細はまだ明らかではない。最大データ転送レートも、USB 2.0の10倍以上とされているものの、明確な数字は出されていない。USB 3.0のSuperSpeed mode(SuperSpeed USB)については、デバイスのポーリングを止め、アクティブ時とアイドル時の消費電力削減を図り、電力効率の最適化を行なうとされているが、それほど具体的な説明があるわけではない。ただ、PCI 3.0を推進するプロモーターグループは、Intelを含め6社と小世帯だから、2008年前半に規格化という目標は達成できるかもしれない。

USB規格と最大データ転送レート
USB 1.xFull Speed mode12Mbps
USB 2.0High-Speed mode480Mbps
USB 3.0SuperSpeed mode5Gbps ?

USBに対応した周辺機器を紹介し、10年前に誕生したUSBの成功を祝うPat Gelsinger副社長 HDムービーをサッと持ち出すには、USB 3.0が不可欠というのだが

 USBを速くして何に使うのか、ということだが、想定されているのは「Fast Sync-N-Go」、要するに大容量のメディアファイルを、モバイル機器にサッと転送して持ちだそう、というのが狙いだ。

 確かに、数十GBになるHD動画を持ち出すのにUSB 2.0では辛い、というのは確かだろうが、HD動画をそのまま持ち出す必要があるのかどうか、など疑問もなくはない。

 奇しくも今回のIDFでは、PCI ExpressとUSBが3度目のバージョンとなり、数Gbps級の帯域を提供するようになることが明らかにされた。現在バージョン2.6がリリースされているSATAも、次の3.0では数Gbps級の帯域(5~6Gbps)を目指すことになるだろう。その次のステップ、10Gbpsオーバーということになると、特にコスト制約の厳しいクライアントPCのようなプラットフォームにおいて、現時点では技術的、コスト的にかなり難しいようだ。

 PCI Express 3.0の次であるPCI Express 4.0について、規格化がスタートするであろう3年後を現時点で予想すれば、12Gbit/secは現実味があるが、16Gbit/secはかなり難しいとのことだった。向こう3年間で何らかの技術革新がないと、PCI Express 4.0でPCI Express 3.0の2倍の帯域を実現するのはできないことになる。その次、2015年に残るオプションは、いよいよ光ということになってしまうのだが、それまでに技術革新があるのかどうか、注目されるところだ。

□関連記事
【9月20日】【本田】従来比10倍速。USB 3.0が狙うアプリケーション
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0920/mobile392.htm
【9月21日】【IDF】NVIDIAがPCI Express Gen2接続ビデオカードをデモ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0921/idf08.htm

バックナンバー

(2007年10月1日)

[Reported by 元麻布春男]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.