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600℃に耐える高速な不揮発性メモリが開発される

 ペンシルベニア大学の工学/応用学科の研究チームは29日(米国時間)、600℃の高温に耐える不揮発性メモリ技術を開発した。この論文はNature Electronics誌に掲載された。

 従来のシリコンベースのフラッシュドライブは200℃程度で故障するが、研究チームは材料に強誘電性窒化アルミニウムスカンジウム(AlScN)を採用したところ、高い温度環境下かつ外部の電場を取り除いた状態でも、オンとオフの状態、つまり0と1を安定して保持できたという。数値的にいえば、600℃の高温でも100万回の読み取りサイクルを実現しつつ60時間以上維持できたとし、これまでにない安定性と信頼性を示した。

 今回開発されたメモリは、メタル-絶縁体-メタルの構造で、ニッケルとプラチナの電極にAlScNの薄い層(45nm)を挟んだもの。この層は薄すぎると活性化時に材料の劣化が進んでしまうし、厚すぎると強誘電体スイッチングができなくなるため、最適な厚さにするのに研究を重ねたという。

 なお、600℃の環境下に耐える不揮発性メモリ技術としては、千葉工業大学の菅洋志助教らが2016年に発表した「白金ナノギャップ構造」がある。これはナノギャップの空隙に可逆変化する白金ナノピラーを成長させ、その接近と乖離によって、トンネル電流の抵抗値を大きく変化させ、その抵抗値の変化によって0と1を記憶させるというもの。

 今回の研究論文の中でも、これが参考文献として挙げられているため、大きく関連していると思われるが、独自の設計と特性により、電気的状態間の高速な切り替えが可能。また、AlScNフェロダイオードの動作電圧は600℃でも15V未満であったとし、炭化シリコンで設計された半導体と相性がいいという。

 シリコン半導体は高温環境での動作が難しいため、代わりに炭化シリコンが用いられるが、AIといった高度な処理を行なうにはメモリが必須だった。今回開発したメモリを利用すれば、炭化シリコンのプロセッサとより密接に統合可能となるため、コンピューティング速度や複雑さ、効率の向上が期待できる。このため、地球の深部掘削から宇宙探査などで高度なコンピューティングにつなげられる可能性がある。