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AMD、AI PCを実現する「Ryzen 8040」シリーズ発表

AMDが発表したHawk PointことRyzen 8040シリーズ

 AMDは「AMD Advancing AI」と題した発表会を、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼ市において12月6日(米国時間、日本時間12月7日)に開催している。12月6日午前中(米国時間、日本時間12月7日未明)には、同社 CEO リサ・スー氏など同社幹部が登壇して行なわれた基調講演が行なわれ、同社の生成AI向け新半導体製品や、AI PC向けの新しいSoCなどが発表された。

 この中でAMDは同社が「Hawk Point」の開発コードネームで開発をしてきた新しいAI PC向けのSoCを「Ryzen 8040シリーズ・プロセッサ」(以下Ryzen 8040)として発表した。

Phoenixのリフレッシュ版となるHawk PointがRyzen 8040シリーズとして発表される

Ryzen 8040シリーズは、Ryzen 7040と同じCPU、GPU、NPUを採用しているが、クロック周波数は引き上げられている

 今回AMDが発表したRyzen 8040は、開発コードネームでHawk Pointと呼ばれるダイがベースになっている。このHawk Pointは、これまで「Ryzen 7040シリーズ・プロセッサ」(以下Ryzen 7040)に利用されてきた、開発コードネームPhoenixで知られるダイのリフレッシュ版となる。

 内蔵されているCPU(Zen 4コア)、GPU(RDNA 3)、NPU(XDNA)はいずれも同等で、製造に利用されるプロセスノードもTSMC 4nmと同じになる。しかし、ダイとしてのリビジョンアップはされており、Hawk PointはCPU、GPU、NPUなどがそれぞれRyzen 7040よりも高クロックで動作させることができる。それにより性能が向上していることがRyzen 8040の大きな特徴となる。

 Ryzen 7040シリーズがそうだったように、Ryzen 8040シリーズにもTDPの違いでモデルナンバーの末尾アルファベットが違う2種類が用意されており、TDPが35~54Wないしは20~30Wに設定されているHS、15~30Wに設定されているUの2つが用意されている。AMDが発表したSKU構成は以下のようになっている。

Ryzen 8040シリーズのSKU構成
【表1】Ryzen 8040シリーズのSKU(AMDの資料より筆者作成)
CPU/スレッド数ターボ時最大ベース周波数キャッシュTDPcTDPGPUNPU
Ryzen 9 8945HS8/165.2GHz4GHz24MB45W35~54WRadeon 780M
Ryzen 7 8845HS8/165.1GHz3.8GHz24MB45W35~54WRadeon 780M
Ryzen 7 8840HS8/165.1GHz3.3GHz24MB28W20~30WRadeon 780M
Ryzen 7 8840U8/165.1GHz3.3GHz24MB28W15~30WRadeon 780M
Ryzen 5 8645HS6/125GHz4.3GHz22MB45W35~54WRadeon 760M
Ryzen 5 8640HS6/124.9GHz3.5GHz22MB28W20~30WRadeon 760M
Ryzen 5 8640U6/124.9GHz3.5GHz22MB28W15~30WRadeon 760M
Ryzen 5 8540U6/124.9GHz3.2GHz22MB28W15~30WRadeon 740M
Ryzen 3 8440U4/84.7GHz3GHz12MB28W15~30WRadeon 740M

 CPU、GPU、NPUなどが向上していることもあり、AI推論時の性能が強化。Ryzen 7040と比較してLlama 2で約1.4倍の性能を実現するほか、Core i9-13900Hと比較して、マルチスレッド(Cinebench R23)で最大1.1倍、各種ゲーム(F1 2022、Far Cry、League of Legendsなど)で最大1.8倍、コンテンツクリエーション(Blender、POVRay、Photoshopなど)で最大1.4倍の性能を発揮すると説明している。

Ryzen 7040との性能比較
Core i9-13900Hと性能比較

 AMDによれば、Ryzen 8040は既に大量出荷が開始されており、Acer、ASUS、Dell、HP、Lenovo、RazerなどのOEMメーカーから搭載されたノートPCが2024年の第1四半期に登場する見通しだという。

AIのための開発キット「Ryzen AI Software」提供。2024年には第2世代NPUも

Ryzen AI Software バージョン1.0の大規模提供が開始

 今回AMDはこのRyzen 8040を、AI PC向けのSoCと位置づけており、内蔵されているNPUの性能を強化している。Ryzen 7040のNPU(AMDが買収したXilinx由来のSoCに搭載されているNPUで、XDNAと呼ばれている)からクロック周波数が引き上げられており、NPU単体の性能で16TOPS、CPUとGPUを合わせると39TOPSの性能を実現しており、従来のNPU単体で10TOPS、CPUとGPUを合わせて33TOPSというスペックから性能が引き上げられている。

各種のAIフレームワークをサポート

 また、AMDは5月にMicrosoftが開催したBuildで発表された、Ryzenに内蔵されているNPUなどを活用してデバイス上でAI推論を行なうソフトウェア開発キット「Ryzen AI Software」のバージョン1.0を正式にリリースした。

 競合となるIntelは、こうしたローカルでのCPU/GPU/NPUを利用したAI推論を行なうソフトウェアとして「OpenVINO」を既に提供しており、ローカルでAI推論を行なうソフトウェアの開発環境を既に構築している。AMDはNPUというハードウェアは提供していたが、その開発キットとなる「Ryzen AI Software」の提供は限られたISV(独立系ソフトウェアベンダ)に配布するのにとどまっていた。今回Ryzen AI Software バージョン1.0の提供が開始されたことにより、キャッチアップすることになる。

Ryzen AI Softwareを利用すると、Windows上でONNX Runtimeを利用してAMDのCPU/GPU/NPUを利用して動作するAI推論アプリケーションが容易に構築できる

 Ryzen AI Softwareは、PyTorch、TensorFlow、ONNXなどのAIフレームワークやONNX Runtimeに標準で対応しており、そうしたAIフレームワークを利用してAI推論アプリケーションを構築しているISVにとって、AMDのCPU、GPU、NPUに最適化したAI推論アプリケーションをこれまでよりも容易に構築できるようになる。

 既にAdobeやBlack MagicなどのISVがRyzen AI Softwareを利用したAI推論アプリケーションの開発を行なっており、AMDのCPUやGPUへの最適化が進んでいる。今後Ryzen AI Softwareがより大規模に提供されることになることで、XDNAなどのNPUを利用したAI推論アプリケーションなどの開発が進むことが期待される。

AMDのモバイル向けSoCのロードマップ、次世代のStrix PointではNPUがXDNA 2へと強化される
XDNA 2の性能は3倍になる見通し

 また、AMDはRyzen 7040/8040に内蔵されているNPU「XDNA」のロードマップに関しても明らかにした。既に述べたとおりRyzen 8040では性能が1.6倍になっているが、2024年に投入が予定されている後継製品の「Strix Point」では、NPU自体が第2世代の「XDNA 2」へと強化される。XDNAと比較して3倍を超える性能を実現する見通しで、大きな性能向上が実現されることになる。

 Windows PC向けのNPUに関しては、Arm版Windows向けにQualcommが2024年の半ばに投入する「Snapdragon X Elite」のNPUが45TOPSであることを明らかになっている。また、NPUの性能こそ明らかになっていないが、Intelも12月14日にMeteor LakeことCore UltraにNPUを内蔵することを既に明らかにしている。AMDのXDNA2が、Ryzen 7040に対して3倍であれば30TOPS、Ryzen 8040に対して3倍であれば48TOPSという計算になる。その意味ではNPU単体の性能でQualcommに近づくか、追い越す可能性があると言え、PC向けSoCでのNPUを巡る競争も激しくなっていきそうだ。