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Adobe MAXでライカの改ざん防止技術搭載デジタルカメラが展示
2023年10月13日 14:58
Adobeは10月10日(米国時間)から、Creative Cloudを中心とした製品のイベントになる「Adobe MAX 2023」を、カリフォルニア州ロサンゼルス市で開催した。
その展示会場では、Adobeが推進している写真や動画が改ざんされていないかなどを検証できるコンテンツ検証制度となるCAI(Content Authenticity Initiative)に関する展示が行なわれており、現在開発中の製品も含めていくつかの新しいソリューションが展示されていた。その中でLEICA(ライカ)はまもなく発売が予定されているCAIに対応したデジタルカメラの展示を行なった。
著作権者や改変履歴を含むコンテンツクレデンシャルの仕組みを提供するCAI
CAIは画像や動画に対して、その著作権者の情報や改編履歴(コンテンツクレデンシャル)を紐付ける仕組みで、ファイルにメタデータとして添付する、クラウドにアップロードする、ブロックチェーンとしてインターネット上に保存するという3つの方式で、コンテンツの著作権情報や改変履歴を、エンドユーザーが検証可能にする仕組みだ。
現時点では、CAIの検証用のWebサイトで、検証できるようになっている。
ちなみに、どのように検証されるかを試してみたい場合には、以下の記事に利用されている写真は、筆者がクラウドにコンテンツクレデンシャルを保存しているので、前述のサイトで確認すると見つけられる。ファイルに添付されているメタデータは、Webサイトに掲載される段階で消えているが、「一般候補を検索」というところを押すと写真のマッチング機能を利用すれば、筆者が撮影し、その後Lightroomを利用して加工した写真であることが確認できる。
このようにJPEGファイルが持つメタデータが消えてしまっていても、クラウド上に保存したデータは残っているので、写真のマッチング機能を利用して筆者の写真であることが可能になっている。
なお、このCAIは既に生成AIにも対応しており、生成AIが作成した画像であれば、生成AIが生成したという履歴が残ることになるため、最終的に情報の受け手となる読者の皆さま一人一人が、それを確認できる。それがCAIの優れていることだ。
コンテンツを作る側としても、その写真の最初の作成者(つまり著作権者が)が自分だと証明できるし、仮にメタデータが消えていてもクラウドに記録が残るので、筆者がこの記事に使った写真を自分の写真であると主張する際に、客観的な証拠としてCAIの情報を活用できるため、著作権の保護の観点でも意味がある。
たとえば、誰かが筆者の記事の写真を盗用した場合でも、これまでは筆者がオリジナルの著作権者であるというのは、自分のPCを裁判所に提出し、しかもそれが改ざんされていないことを証明する必要があったが、今後は第三者であり筆者が改ざんすることが不可能なCAIのクラウドにその情報が格納されているので、盗用した相手を訴えて裁判で勝つのもより容易になるだろう。
ドイツのLEICAがコンテンツクレデンシャルに対応したデジタルカメラをまもなく発売
そうしたCAIのコンテンツクレデンシャルだが、現状ではカメラ側の対応が済んでおらず、カメラからPCやスマートフォンなどに取り込んで、レタッチする時などにコンテンツクレデンシャルをメタデータとして付与するか、クラウドに保存する必要がある。
Adobeの写真編集ツールでは、PhotoshopとLightroom(クラウドベース)の2つがテクノロジープレビューとして対応しており、CAIに対応したコンテンツクレデンシャルを付与できる。筆者が利用しているLightroomでは、メタデータとクラウドのどちらか、あるいは両方にコンテンツクレデンシャルを付与することが可能で、基本的にLightroomで編集した写真にはその情報を付与している。
その意味では、将来的には自分のカメラで撮影した段階で、コンテンツクレデンシャルが付与される仕組みになっている方がいい、というのは言うまでもないだろう。その意味では、プロ用のデジタル一眼レフやデジタルミラーレスカメラなどに、コンテンツクレデンシャルの機能があると便利だし、最近ではスマートフォンも報道の現場でよく利用されているので、スマートフォンのカメラもコンテンツクレデンシャルに対応するのがベストだ。
今回のAdobe MAXのAdobeブースにおいてAdobeはドイツのLEICAがまもなく発売を開始するというコンテンツクレデンシャルに対応したカメラを公開した。「Digital Camera Type No:2416」と描かれた製品がそれで、確かにメニューを見ると、コンテンツクレデンシャルを付与するというメニューが追加されていることが確認できた。それをオンにすることで、撮影時にコンテンツクレデンシャルの情報がメタデータに書き込まれる。
なお、こうしたコンテンツクレデンシャルに対応したカメラは、既に日本のニコンも昨年(2022年)のAdobe MAXで開発意向表明(いつ製品化するかは分からないが、開発は開始しているという表明のこと)を行なっており、引き続き研究を進めているという。
気になるのはスマートフォンのカメラアプリがいつこのCAIに対応するかだが、Adobe コンテンツ認証イニシアチブ担当シニアディレクター アンディ・パーソンズ氏は「現在ほとんど全てのスマートフォンメーカーと話をしており、機能が採用されるのか、されないかではなく、それがいつなのかが焦点になっている。残念ながら本日の時点ではいつとは言えないが」と述べ、それは時間の問題だと述べている。
なお、Googleは同社がOSやプラットフォームを提供しているAndroidデバイス向けに、デジタル透かし(画像に人間の目には見えない透かしを入れる)を導入することを、8月末にサンフランシスコで開催したGoogle Cloud Next'23で明らかにしており、将来全てのAndroidデバイスで利用できるようにすると明らかにしている。
もちろんそれは強制ということではないと思うが、OSに標準搭載してスマートフォンメーカーがその実装を選択する形になる可能性が高い。このデジタル透かしと、CAIが競合するのではないかと問われると、パーソンズ氏は「確かにGoogleのデジタル透かしも選択肢の1つだ。ただ、現状Googleのデジタル透かしは仕様が公開されていないので、論評のしようがない。我々としては、オープンな仕様こそが重要だと考えており、CAIを推進しているのもそれが理由だ」と述べ、Googleなクローズな仕組みに対して、どのプラットフォームに対しても公開されていることがCAIの強みだと強調した。
オープンソースのCAI対応動画プレーヤーやブラウザ拡張なども展示される
今回Adobeはコンテンツクレデンシャルに対応したオープンソースの動画プレーヤーと、Webブラウザに拡張として組み込めるコンテンツクレンシャルの検証ツールを公開した。
Dashが作成した動画プレーヤーでは、動画を再生しながらその動画の著作権者や改変履歴などを確認できるようになっている。元の動画にはなかったフェイク部分などがあれば、赤く注意が表示されるようになっており、ディープフェイクを見破るのが従来よりも容易になっている。
また、ブラウザの拡張機能は画像のコンテンツクレデンシャルなどを確認するためのツールで、有効にすると普通にWebブラウザーでWebサイトを閲覧していると、コンテンツクレデンシャルの情報を専用のサイトに写真をコピーしなくても行なえる。
Adobeの演習ツールだけでなく、カメラ、より充実した検証ツールソリューションが出そろうことで今後CAIを利用する環境はより便利になっていき、コンテンツを作成する側にとっても、フェイク画像にだまされることを避けたい読者にとってもメリットが出てくるので、今後とも動向には要注目だ。