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Meteor Lakeの技術概要を公開。「低電力Eコア」搭載でさらなる省電力化

Intelが発表したMeteor Lakeの概要(出典: Meteor Lake Architecture Overview、Intel)

 Intelは、9月19日(現地時間)よりアメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼ市にあるサンノゼ・コンベンションセンターで、同社の年次イベント「Intel Innovation 23」を開催する。Intelはその開幕に先だって報道発表を行ない、同社が年内に正式発表を予定している次世代クライアントPC向けプロセッサ「Meteor Lake」の概要を明らかにした。

 既に明らかになってきた通り、Meteor Lakeはコンピュートタイル(CPU)、グラフィックスタイル(GPU)、SoCタイル(SoC)、IOタイル(I/O)の4つのチップがベースタイルと呼ばれる基礎チップ上で3D方向に積載される3Dのチップレット技術(Intel Foveros)を採用しており、Intel 4やTSMC N5(5nm)など世代も製造施設も異なるチップが混載されている。

 今回、それぞれのチップの概要も明らかとなり、SoCにはIntelのハイブリッドアーキテクチャCPU(Pコア、Eコア)のうちのEコアがより低消費電力化されて搭載されていることが明らかとなった。それにより、従来x86 CPU共通の弱点だったArm CPUに比較して大きめなアイドル時などの消費電力が低減される。

Intelの次世代クライアントPC向けプロセッサとなるMeteor Lake、4つのタイルの詳細が公開される

昨年(2022年)の夏にIntelが公開したMeteor Lakeの4つのタイルとベースタイル。パッケージと接している下部にベースタイルがあり、その上にコンピュートタイル、グラフィックスタイル、SoCタイル、IOタイルの4つが積層されている(撮影、作成筆者)

 Intelは既に昨年(2022年)の夏に、Meteor Lakeのチップレット構造に関して明らかにしている。

 Meteor Lakeは、IntelがFoverosと呼んでいる3Dパッケージング技術に基づいて設計されており、パッシブ(通電されていない)のベースダイの上に、4つのチップ(IntelではFoverosでのチップをタイルと呼んでいる)が3D方向に積載される形になっている。

 製造時にはベースダイが切り離されていない状態のウェハに、4つの異なるダイが実装されていき、後工程でベースダイのウェハが切り離されていく形で製造が行なわれる。

Foverosが活用されている(出典: Meteor Lake Architecture Overview、Intel)

 パッシブのベースタイル(P1127という内部名称で呼ばれているIntelのプロセスノードで製造される)の上に積層されているのは、コンピュートタイル(CPU、Intel 4で製造)、グラフィックスタイル(GPU、TSMCのN5で製造)、SoCタイル(SoCの主要部分、TSMCのN6で製造)、IOタイル(I/O、TSMCのN6で製造)という4つのタイルで、今回Intelはそれぞれのタイルの詳細を明らかにした。

コンピュートタイルはIntel 4で製造されている(出典: Meteor Lake Architecture Overview、Intel)

コンピュートタイル、グラフィックスタイルのどちらも内部アーキテクチャが更新されて性能強化

コンピュートタイルは新しいPコア、Eコアが採用されている。PコアがRedwood Cove、EコアがCrestomont(出典: Meteor Lake Architecture Overview、Intel)

 コンピュートタイルは「第12世代インテルCoreプロセッサ」(以下第12世代CoreまたはAlder Lake)で導入された「パフォーマンス・ハイブリッド・アーキテクチャ」の仕組みを継続し、発展させている。つまりPコア(Performance Core、高性能コア)、Eコア(Efficiency Core、高効率コア)という2つの種類のCPUコアデザインが搭載される。

 今回のMeteor Lakeでは、その改良版となる第13世代インテルCoreプロセッサ(以下第13世代CoreまたはRaptor Lake)で採用されていたCPUコアから、PコアもEコアも強化されている。具体的にはPコアが「Redwood Cove」、Eコアが「Crestmont」に進化。それぞれIPC(Instruction Per Clock-cycle、1クロックあたりに実行できる命令数)が高められており、従来よりも性能が向上している。

Arcの技術を継承した内蔵GPU(出典: Meteor Lake Architecture Overview、Intel)

 内蔵GPUは第11世代インテルCoreプロセッサ(以下第11世代Core、Tiger Lake)で導入された「Xe-LP」と呼ばれる、第1世代のXeアーキテクチャの内蔵GPUデザインが、第12世代Core、第13世代Coreと3世代に渡って使い回されてきた(より正確に言えば第13世代は第12世代の改良版なので、2.5世代ぐらい)。

Xeから2倍の性能を実現したXe-LPGへと進化(出典: Meteor Lake Architecture Overview、Intel)
XeSSのようなモダンな技術が利用可能に(出典: Meteor Lake Architecture Overview、Intel)

 今回のMeteor Lakeのグラフィックスタイルでは、単体GPUとしてリリースされたArc Aシリーズ(開発コードネーム:Alchemist、Xe-HPG)の機能を踏襲した新内蔵GPUのデザインとなる「Xe-LPG」に強化。具体的にはXe-LP時代には内蔵エンジン(EU)と呼ばれていた演算器(Xe-LPGではVEと呼ばれる)が96基から128基と1.33倍に増やされている。

 強化により、第11世代/第12世代/第13世代Coreに採用されていたXe-LPと比較して総合的にGPUの性能が2倍になり、XeSSのようなモダンなグラフィックス技術を活用できるとIntelは説明している。

IOタイルの概要(出典: SOC & IODEEP DIVE、Intel)

 IOタイルもMeteor Lakeの特徴で、PCI Express Gen 5のコントローラとThunderbolt 4/USB4のコントローラを搭載しており、Meteor Lakeの対応するPCI Expressのレーン数を増やしたり、減らしたりする役目を担う。

 たとえば、上位SKUにはより多くのPCI Express Gen 5のコントローラを搭載したIOタイルを採用し、dGPUを接続するためのPCI Express x16レーンを搭載し、下位SKUにはレーン数を減らしたIOタイルを採用することで、機能を省略して製造コストを抑えるなどが可能になる。

Meteor Lakeのご本尊はSoCタイル、低電力Eコアを内蔵してSoCタイルだけで動かせるためアイドル時低消費電力を実現

SoCの概要、コンピュートタイル、グラフィックスタイル、IOタイルなどとTile-2-Tileと呼ばれる高速なインターコネクトで接続されている(出典: SOC & IODEEP DIVE、Intel)

 Meteor Lakeをもっとも特徴付けているのが、SoCタイルになる。よりハイレベルに俯瞰すれば、Meteor Lakeの中核タイルなのは、コンピュートタイルでもグラフィックスタイルでもなく、このSoCタイルになる。というのも、SoCタイル以外のすべてのタイルはこのSoCタイルに接続されているからだ。

 SoCタイルとほかのタイルは、Intelが「Tile-2-Tile」と呼んでいる、タイル専用のインターコネクトで接続されている。広帯域で低レイテンシなデータ用のバスと、省電力管理、クロック供給などの管理用のラインとがこのTile-2-Tileの中を通っている。

 SoCタイルの内部にはNOC(Network On Chip)ファブリックと呼ばれる内部バスが通っており、従来のCPUでいえばリングバスのようなチップ内部でデータを高速に伝導する役割を担っている。コンピュートタイルも、グラフィックスタイルもこのNOCファブリックに直接接続されているし、メモリコントローラもこのNOCファブリックに接続されている。

従来世代のIntel SoCは、CPUとPCHという2チップをパッケージ上で一つのチップにしていたが、Meteor Lakeではその切り分けを変えている(出典: SOC & IODEEP DIVE、Intel)

 SoCタイルの内部にも演算器が用意されている。従来であれば、GPU、つまりグラフィックスタイルに入っていたメディアエンジンは、SoCタイルに接続されている。ほかにも今回の世代から搭載されているNPU(Neural Processing Unit)、ISP(Image Signal Processor)、ディスプレイ出力エンジンなどはいずれもこのNOCファブリックに接続されている形になっている。

Meteor Lakeではコンピュートタイルだけでなく、SoCタイルにも、デュアルコアのEコアが搭載されており、コンピュートタイルをオフにして動作できる。このため、低消費電力動作が可能になっている(出典: SOC & IODEEP DIVE、Intel)

 Meteor LakeのSoCタイルの最も特徴的なことは、このSoCタイルのNOCファブリックに接続される形で、2コアのEコアCPUが搭載されていることだ。このCPUは、コンピュートタイルに搭載されているEコアのCrestmontそのものだが、デュアルコアになっている点が大きな違いになっている(コンピュートタイル側のEコアは変わらず4コア×2構成)。

 IntelはこのEコアを「低電力Eコア」(LP E-Core)と呼んでおり、コンピュートタイル側にあるEコアに比べて低消費電力になっていることが大きな特徴だ。つまり、Meteor Lakeでは、高性能なPコア、高効率なEコア、低消費電力な低電力Eコアという3段階でCPUが用意されることになる。

Meteor LakeのCPUは、低電力Eコア、Eコア、Pコアの3段階になっている、低電力Eコアだけで動作させると低消費電力で動かすことが可能に(出典: Meteor Lake Architecture Overview、Intel)
NOCファブリックがCPU、GPUなどのタイルやSoCタイル内部の低電力EコアやNPUなどを接続している(出典: SOC & IODEEP DIVE、Intel)

 SoCタイルにこの低電力Eコアが入っているメリットは、シンプルに消費電力の削減だ。といってもピーク時の消費電力が減るわけではない。今回IntelはTDPのような仕様は公開していないが、基本的にその枠は従来の製品とさほど変わらないと見られている。つまり性能をフルに発揮している時の消費電力は従来の製品と大きな差はない。

 しかし、今回のような低電力EコアがSoCにあると、低負荷時の消費電力が大きく改善される。

 たとえば、動画再生を内蔵のメディアエンジンを利用して行なう時には、コンピュートタイルも、グラフィックスタイルもアイドル状態へ移行させ、SoCタイルだけで動画の再生が可能になる。既に述べた通りディスプレイタイルもSoCタイルに入っているからだ。

 また、CPUやGPUがフルに動いているとメモリコントローラへのアクセスが頻繁に発生し、SoCのNOCファブリックに大きな負荷がかかり消費電力が増えてしまう。しかし、SoCタイルの中で完結すればそれも必要最低限で済むので、その点でも消費電力を下げることが可能になる。

 同じことはOSのアイドル時にも言える。OSがアイドルになっている時でも、OSのバックグラウンドで動いているタスクがある。たとえば通知をクラウドから受け取るなどのOS側の機能がそれで、人によっては常時電子メールクライアントが動き続けているなど、Windows OSがプログラマブルである以上、そうしたバックグラウンドタスクがアイドルであっても動くことが避けられない。

 しかし、Meteor Lakeでは、低消費電力な低電力EコアがSoCタイルにあるので、アイドル時にはその低電力Eコアにだけ動作を割り当てて、コンピュートタイルには“お休みいただく”ことが可能になる。その結果、OSは低消費電力で動き続けることが可能で、従来よりもアイドル時の消費電力が削減されることになる。

 アイドル時の消費電力が、Arm CPUなどに比べて高いことはx86 CPUの弱点の1つとされてきたが、今回この仕組みを採用したことで、その弱点は解消の方向に向かうと考えられる。特にバッテリ駆動時にはほとんどの時間がアイドルになっているので、その結果はバッテリ駆動時間が長くなるという効果につながっていくだろう。

Meteor Lakeは年内に正式発表予定、搭載ノートPCの多くはCES合わせになる可能性が高いが、年内にも登場の可能性も

SoCタイル上のI/O関連部分、従来のPCH関連の機能が実装されている(出典: SOC & IODEEP DIVE、Intel)

 ほかにも、SoCタイルには、PCI Express Gen 5、USBコントローラ、Wi-Fi、Ethernetなどの従来のIntel SoCではPCHに入っていた機能が統合されている。特にWi-Fiに関しては、Wi-Fi 7に対応しているMACが統合されており、Wi-Fi 7に対応したPHYを基板上に用意するだけで、Wi-Fi 7の機能を実装することが可能だ。

Intel Silicon Security Engineに対応

 また、セキュリティ機能に関しては新しいハードウェアベースのセキュリティ機能として、従来のAMTの延長線上にあるCSMEの機能に加えて新しく「Intel Silicon Security Engine」が導入される。その詳細をIntelは明らかにしていないが、少なくともMicrosoft Plutonには準拠していないことは明らかにされている。既にAMDはMicrosoft Plutonに対応したセキュリティエンジンを内蔵していることを考えると、やや不可解な選択だ。

 今回IntelはMeteor Lakeの概要をさらに明らかにしたが、正式発表ではないことも同時に明らかにしている。最初のMeteor Lake製品はモバイル向けの製品になることを今回明らかにしたが、その正式な発表時期は依然として「年内」と変わっていない。また、具体的なSKU構成、コンピュートタイルのCPUコアの数など、SKUに関することは今回明らかにされていない。それらは正式発表時に明らかにする計画だとIntelは明らかにしている。

 いずれにせよ、年内にはMeteor Lakeが、「Core Ultra」のブランドで発表される計画なのは既に明らかになっている通りだ。多くのOEMメーカーは、(翌年の)1月のCESに新製品を発表するのが通例であるため、大部分はおそらくCESで発表され展示されることになるだろう。しかし、通常はCESに合わせて発表されるノートPC向けの新プロセッサが年内に発表されるため、早ければ年内には、Meteor Lakeを搭載したノートPCなどが発表、発売される可能性はないわけではなく、今後の動向には要注目だ。