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ワープロ感覚で動画編集できる「文字起こしベースの編集」がPremiere Proに実装
2023年4月13日 22:00
Adobeは4月13日に報道発表を行ない、4月15日~4月19日に米国ネバダ州ラスベガス市で開催される映像関連の展示会「2023 NAB Show」で発表されるPremiere Pro、After Effects、Frame.ioといった同社の動画製品に関するアップデートを公開した。
動画編集ツールのPremiere Proでは、同社が昨年実装したAI文字起こしを活用したキャプションの自動付与をさらに発展させ、その文字起こしのテキストを活用して、動画の編集を可能にする画期的な新機能「文字起こしベースの編集」を実装した。それにより、テキスト検索機能を利用して動画の該当部分を探して切り出したり、テキストをカット&ペーストすることで、動画の位置を変更したりというまるでワープロソフトで編集しているような感覚で動画を編集できる。5月のアップデートで製品版が提供開始予定。
また、After Effectsでは、PhotoshopやIllustratorと共通デザインのプロパティパネルが追加されるほか、Frame.ioのクラウド編集機能では、動画に加えてPDFも扱えるようになり、富士フイルムのカメラなどを活用してクラウドにカメラから直接アップロードして、複数のユーザーが共同編集するなどが可能になる。
ワープロソフトを操作するように文字起こしされたテキストをカット&ペーストで動画も編集可能
AdobeのPremiere Proは、動画編集ツールとしてPCの世界ではおなじみの存在で、YouTubeのような動画サイトに投稿する動画の多くはPremiere Proで編集され、アップロードされているという動画編集ツールのデファクトスタンダードと言ってよい存在だ。
今やPremiere ProはそうしたPCやスマートフォン向けの動画を編集するだけでなく、映画のような長編動画の編集にも使われるようになっており、多くの映画の制作などで活用されている。以前の記事でも紹介したとおり、たとえばアニメ『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の編集にはPremiere Proが利用されており、Adobeも米国のスタジオなどを支援する組織を作り後援していることは以前の記事でも紹介したとおりだ。
そうしたPremiere Proは、Adobeのサブスクリプション型のクリエイターツール「Creative Cloud」の一部として提供されているため、日々バージョンアップが行なわれており、機能向上が図られている。Creative Cloudのメジャーアップデートのタイミングは、基本的には10月~11月にAdobeが行なっているAdobe MAXで公開されるのが一般的だが、動画関連のツールに関しては映像関連の展示会となるNAB Showあわせになることが多く、今回もそれを踏襲した形となる。
昨年(2023年)Adobeは、Premiere Proに同社が提供するAIサービス(Adobe Sensei)を活用した、キャプションのAI文字起こし機能を追加した。Adobe Senseiが音声トラックを文字起こしし、動画に(ほぼ)自動でキャプションをつけるという機能だ。
それまで文字起こしと言えば、いちいち動画を見ながら、人間が手で打っていたため、膨大な時間がかかる「時間泥棒」的な作業だったが、AI文字起こし機能が実装されたことで、わずかな手直し程度で、自動でキャプションを入れることが可能になるため、大幅な時間短縮、つまりクリエイターにとっては生産性の向上を実現していた。
今回Adobeが発表したのは、そのAI文字起こしの機能をさらに進化させ、文字起こしした文字を利用して動画を編集してしまうという「文字起こしベースの編集」という画期的な新機能だ。簡単に言えば、文字起こしをしたテキスト(文字起こしがされた段階で動画の該当箇所と同期している)から該当箇所を探し、テキストを選択すると、その該当部分の動画が選択され、タイムラインに追加したりできる。
また、テキストの該当箇所を削除すると、タイムラインから動画の該当箇所が削除され、テキストの該当箇所をカット&ペーストするだけで動画の位置を簡単に移動できる。まさにワープロソフトを操作しているような感覚で動画の編集を行なえる。
こうした機能が実装されることで、これまで動画の編集があまり得意ではなかったようなビジネスパーソンであっても、ワープロソフトと同じような感覚で動画を編集することが可能になる。
近年はデジタルマーケティングのコンテンツとして動画が活用されることが多く、ビジネスパーソンであっても動画の編集を行なうことは珍しくなくなっている。しかし、動画の編集はどうも苦手というビジネスパーソンも少なくないと思うが、今回の文字起こしベースの編集を利用することで、慣れ親しんだ感覚で動画を編集し、仕上げるといった使い方が可能になる。
それにより、たとえば自社で開催したカンファレンス講演の映像のダイジェストを、Premiere Proの文字起こしベースの編集を利用してすぐに作成して、SNSでシェアする……そうした使い方が想定されるだろう。
また、既にPremiere Proに慣れ親しんでいるような動画のクリエイターでも、生産性の向上に寄与する。たとえばイベントの動画のダイジェストを作る時に、これまでは全編を見て文字起こしのようなシナリオを作ってから、印刷したシナリオにマーカーをつけて、そこの部分を抜き出していくという非常に時間がかかる作業を行なっていた。
しかし、今回の文字起こしベースの編集を利用すると、必要な箇所をテキスト検索ですぐに見つけられるため、そうした時間泥棒的な作業をしなくてもすぐに編集に取りかかることができる。
5月公開のPremiere Proは「史上最速かつ最も信頼性の高いバージョン」に。自動トーンマッピング機能も
Premiere Proの文字起こしベースの編集は、5月に予定されているアップデートで製品版が一般提供開始(GA、General Availability)される計画だが、同時にAdobeはPremiere Proのコア部分の設計を見直し、パフォーマンスと安定性を強化する。
具体的には自動保存機能がバックグラウンドで行なわれるようになり、起動時のリセットオプションが数クリックで表示される。また、問題があるプラグインエフェクトを簡単にオフできるようになるほか、GPUの高速化も実装され、Adobeいわく「Premiere Pro史上最速かつ最も信頼性の高いバージョン」となっているとのことだ(サブスクリプションなのだから常にそうではないのか? というツッコミは置いておくとして……)。
ほかにもマルチユーザーによる編集、サポートされる映像フォーマットの拡張などのアップデートが同時に行なわれる予定だ。
また、「自動トーンマッピング」の実装も大きな機能強化となる(すでに2月にパブリックベータ版へ搭載済み)。現代のカメラはスマートフォンも含めて高画質化しており、さまざまな機器でSDRだけでなくHDRの動画を撮影することが可能になっている。
さらに、カメラもメーカーによって色の味付けが異なっており、複数のカメラで撮影した動画を1つの動画として編集する場合、トーンマッピングと呼ばれる色合いの調整が必要になる。これまでは、トーンマッピングは動画の編集者がマニュアルで行なうもので、LUT(Look Up Table)と呼ばれるカメラメーカーなどが提供するデータを利用してマッチングしていた。
しかし、今回Premiere Proに実装された自動トーンマッピングでは、そうした作業を自動化。たとえばSDRの動画を作成している時に、iPhoneで撮影したHDR動画を差し込むと色がおかしくなったりするが、そうした調整はPremiere Pro側で行なわれる。同時にソニーやパナソニック、キヤノンといった異なるメーカーのカメラで撮影した動画の差もPremiere Pro側で自動で調整される。現時点ではiPhone HDR、Rec.2100 HLG/PQ、Sony S-Log、Panasonic V-Log、Canon C-Logに対応している。
なお、従来のLUTベースの編集をそのまま使いたい場合には、自動トーンマッピングを設定をオフにもできる。
なお、いずれの機能もすでに昨日から公開されているパブリックベータ版(バージョン23.4)に実装されており、Creative Cloudのユーザーであれば「Premiere Pro(Beta)」(バージョン23.4)をインストールすることで利用できる。
After Effectsにプロパティパネル実装、Frame.ioはクラウド編集機能を拡張し生産性向上
Adobeは同時にAfter Effects、Frame.ioの機能強化に関しても発表している。After Effectsに関しては新機能として「プロパティパネル」の実装が挙げられる。
PhotoshopやIllustratorではおなじみの機能であるプロパティパネルは、編集時に選択した内容に応じて操作できるパネルが変わるもので、ユーザーがすぐに利用したい機能を探すのに、メニュー階層をたどっていかなくても表示される便利な機能だ。今回After Effectsにもこのプロパティパネルが実装され、より直感的に編集が可能になる。このほかにもOpenColorIOに対応し、ACESカラースペースにおける作業が簡素化されるなどの新機能が追加される。
Frame.ioはクラウドベースの動画編集ツールで、Adobeが2021年に買収することを発表したサービス。撮影した動画をクラウドにアップロードしていくことで、複数のユーザーで共同編集し、納品まで一貫して行なえるサービスとなっている。今回のアップデートでは、フォレンジックウォーターマーキング(目に見えない電子透かし)コードの作成が可能になるなどセキュリティ関連が強化されている。
また、昨年のAdobe MAXで発表された富士フイルムのX-H2S(その後X-H2でのサポートも追加された)などを利用した、クラウドに直接動画をアップロードする機能(Camera to Cloud)のアップデートとして、動画だけでなく静止画(RAW、JPEG、TIFF、HEIF)に関してもアップロードが可能になる。さらに、Frame.ioのクラウドでも従来の動画に加えて、静止画やPDFも扱えるようになり、それらをFrame.io上で編集して、編集前と比較したりなどの機能が実装される。
Frame.ioと現像ソフトのCapture Oneの連携機能も用意される。Capture OneからFrame.ioに画像を出力したり、その逆にCapture OneをFrame.ioに接続して静止画を読み込んだりという使い方が可能になる。AdobeはこうしたFrame.ioの機能拡張を行なうことで、クリエイターの生産性向上を今後も実現していくと強調している。