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CES 2023はアフターコロナに向け規模倍増で開催

CESの自動車関連の展示が行なわれるLVCC(Las Vegas Convention Center)ウエストホール(CES 2022で撮影)

 IT・テック業界で毎年恒例イベントとなっている「CES 2023」が、2023年も1月5日から8日の4日間にわたって、米国ネバダ州ラスベガス市の会場で開催される。CESでは、PC、スマートフォンなどのIT機器、テレビやオーディオ機器などのコンシューマ向け機器、そして近年はIoT(Internet of Things)などのITと白物家電が融合した機器といった、実に多彩なデバイスが発表される場としても活用されており、多くの機器メーカーがラスベガスに集結する注目のイベントだ。

 2022年に開催されたCES 2022は、コロナ禍という特殊環境、そして開催直前の2021年12月に米国でオミクロン株が大はやりしたことで、直前に出展を取りやめる動きが大企業を中心に出るなど、パンデミックに大きく影響されたイベントとなった。

 しかし、米国ではすでにコロナ禍は過去の話になっており、CES 2023はアフターコロナの経済復興に向けて大きく舵を切っている中での開催となる。展示会場の床面積は50%増し、参加者も2022年の4.5万人から倍以上となる10万人以上が見込まれ、コロナ前の規模に近づいた状態での開催となる。

 そうしたCES 2023について、CESの主催者CTA(Consumer Technology Association、全米民生技術協会)テーマ別研究担当ディレクターのブライアン・コミスキー氏に話を伺ってきたので、その模様を交えつつ2023年のCESについてのプレビューという形でお届けしたい。

CES 2022は直前に発生したオミクロン株で大混乱になったが、最終的に開催

CES 2022のSamsung Electronicsの基調講演で講演するCTA CEO ゲイリー・シャピロ氏

 2022年の1月に行なわれたCES 2022だが、約1,800名のメディア関係者を含む、4万5,000人超の参加者を世界中から集め、開催された。ただし、CES 2022は開催までに「紆余曲折」があり、大波乱の中で行なわれるイベントとなった。

 詳しくは上記の記事をご参照いただきたいが、簡単に言えば、2021年の12月からオミクロン株の急速な感染拡大が米国で発生したことで、特に大手企業が従業員の感染への懸念などから直前になって出展をキャンセルする状況となった。それでも、直前に撤退を決めたのは10%以下で、スタートアップを中心とした企業などは出展を続行した。

 結論から言えば、オミクロン株は初期のCOVID-19より致死率が低いことなどが分かってきて、すでにこの1月上旬の段階で大きな脅威ではないと米国では評価が下されていた。会場では皆がマスクをしていたが、特に混乱などはなく平穏に行なわれ、展示会は元々の予定より1日短くなったものの、無事に会期末を迎えることができた。

2022年のウエストホールの様子。手前の机と椅子が置いてあるスペースはおそらくどこかの自動車メーカーが抑えていたのだと思われるが、直前に撤退したため不自然な空きスペースができていた(CES 2022で撮影)

 ただ、撤退した企業は数こそ10%だったかもしれないが、そのほとんどは大企業で、元々は大きなブースを構える予定だった。このため、CES 2022から新しいホールとして供用が始まったウエストホールは自動車産業向けのブースとして準備されていたのだが、そこには広大な空き地が残るなどの状況になっていた。企業が撤退を決めた段階ではオミクロン株にどんな特性があるのか完全には判明しておらず、大企業であればあるほど保守的にならざるを得ないことを考えれば、致し方ないところだろう。

 それでも世界中から4万5,000人を超える参加者を集めたのだから、状況を考えれば主催者にとってはまずまず成功したイベントだったと言ってよいのではないだろうか。

CES 2023はコロナ禍前に近い参加者体験に

CTA テーマ別研究担当ディレクター ブライアン・コミスキー氏

 そうしたCESだが、2023年の1月には次のCES 2023がラスベガスで開催される。CTAテーマ別研究担当ディレクター ブライアン・コミスキー氏によれば「私がCTAに加入して最初に開催しCESが、2020年1月のCES 2020(筆者注:パンデミック直前のノーマル状態のCES)だった。2022年は4万5,000人程度の参加者を集めたが、2023年は10万人超を見込んでいる。2022年もコロナ禍になってから、ようやく対面での展示会を開催し、ブースで出展社と参加者が実際に会って話すことができたということで、出展社と参加者双方に好評を博した。そうした勢いは2023年も継続し、2020年の時と同じような体験を参加者の皆さまにしていただけると考えている」と述べる。

 CTAの発表によれば、CES 2023は10万人を超える参加者(うち3分の1は米国外から)、1,000社近い新たな出展社を加えた2,400社を超える出展社に加え、展示会場の床面積は200万平方フィート(約18万5,806平方m)と前回に比べて50%増床しているという。

LVCCのウエストホール、60万平方フィート(約5万5,742平方m)の巨大ホールで、ほぼ自動車産業向けとして使用される(CES 2022で撮影)
ウエストホールの自動車メーカーブース(CES 2022で撮影)

 そうしたCES 2023がどのような展示会になるかに関してコミスキー氏は「引き続き自動車はCESの大きなテーマだ。来年のCESは“世界最大級の自動車ショー”になると考えている。2022年はLVCCのウエストホールを自動車産業用としたが、引き続きCES 2023でも継続される。今も自動車産業の変革は続いており、EVの普及はめざましいものがある。そうした電動化の波は自動車だけでなく、空や海でも続いており、V/STOLなども注目されているし、マリン技術には関連ブースを用意している。また、ステランティスやBMWは新しいコンセプトカーを発表する予定だ」と、ここ数年の傾向と言える自動車関連の展示は2020年以前にも増して拡大するだろうと説明した。

日本のShiftall社がCES 0222で展示したVR HMD「MeganeX」(CES 2022で撮影)
音漏れ防止装置「mutalk」(CES 2022で撮影)

 そして、コミスキー氏は2つ目の大きなトレンドとしてデジタルツイン、そしてメタバースも大きなトレンドになると説明した。

 「たとえば2023年は歓迎すべき事に、Microsoftが展示会場に戻ってきてメタバース関連の展示を行なう。これは10年ぶりのことだと理解している(筆者注:Microsoftは2012年を最後に展示会場から撤退している)。たとえば、Nemo's Gardenはデジタルツインとメタバースの技術を利用して水中での養殖技術を体験するアプリケーションをデモできるようにする計画だし、嗅覚機能を備えたVRヘッドセットをデビューさせる会社もあると聞いている」(同氏)。

CES 2022の基調講演でサステナビリティについて語るSamsung Electronics 副会長 兼 CEO 兼 DX部門責任者 ジョン・ヒー・ハン氏(CES 2022で撮影)

 そして3つ目の大きなトレンドとしてはサステナビリティ技術があるとコミスキー氏は説明する。

 「エネルギー危機や環境保護は、グローバルで重要なテーマになりつつある。過去のデジタルCESの基調講演ではMicrosoftが海底に沈めるデータセンターを発表している。データセンターには非常に大きな床面積が必要になり、冷やすための技術なども必要になる。そのように、水、クリーンな電力、そしてバッテリなどの技術革新が今後求められることになる。ご存じの通りEVの電力はバッテリにためられるし、そうした展示がVenetian Expoで多数展示されるだろう」(同氏)。

23年型ノートPCも多数デビューか

CES 2022は4万5,000人と例年に比べて3分の1だったが、来年は10万人超の参加者が見込まれている(CES 2022で撮影)

 CES 2023は、CES 2022のような難しい状況に追い込まれる心配はないだろうか。「第8波」と言われている感染拡大が日々伝えられている日本にいると「大丈夫か?」と思われるのも無理はないと思う。

 しかし、すでに米国ではコロナ禍という言葉は過去のものになりつつある。実際、筆者は8月の末から11月の末にかけて7つの米国の記者会見やカンファレンスなどに参加してきたが、いずれも通常通り、予定通り開催されており、縮小されたり直前に中止になったものは1つもなかった。

 もちろん、CESの直前になって未知の変異株が登場して、という可能性を否定することはできないが、それはコロナ禍になる前も同じだったと考えれば、通常通り開催されると考えてよいのではないだろうか。

 コミスキー氏は「引き続きCESでは通常の感染症対策を行なっていく計画だ。換気、ろ過システムなどは前回同様に増やしているし、消毒ステーションなども引き続き提供し、状況を常に監視していく」と、参加者の安全に配慮しながら開催することを説明した。

 なお、展示会場だが、コミスキー氏が述べたように、CES 2022から新しいウエストホールが開設され、そこが自動車産業用のブースになり、多くの自動車関連のメーカーが従来自動車産業に割り当てられていたノースホールから移ってきた。CES 2022では、直前に大企業の撤退が相次いだことで大手自動車メーカーはステランティスぐらいだったが、今年は多くの自動車メーカーがここに戻ってくることになるだろう。コミスキー氏によればウエストホールのブースは「完売」だということだ。

 また、2022年は閉鎖されていたサウスホールだが、コミスキー氏によれば「現在改装中」とのことで、引き続き閉鎖で使われないことになりそうだ。

Vegas LoopはLVCC Loopとなる(CES 2022で撮影)

 2022年に専用トンネルをTeslaで移動するサービスとして話題になったVegas Loopだが、LVCCのセントラルホールとサウスホール、ウエストホールを結ぶ専用のラインは「LVCC Loop」となり、Vegas Loopはウエストホールと2021年に開業した新しいカジノホテル「Resorts World Las Vegas」間を結ぶラインに変更されている。2022年のCESに参加しておらず、2023年のCESに参加する方は、Vegas LoopないしはLVCC Loopに乗るのもお忘れなく。

AMD CEO リサ・スー氏(11月にサンフランシスコで行なわれたAMDのEPYC記者会見で撮影)

 CES 2023の開幕基調講演(開幕日前日の夕方に開催)には、AMD CEO リサ・スー氏が登壇する。AMDはCESの講演や記者会見のタイミングで、その年のノートPC向けCPUやGPUなどを発表することが多い。近年AMDは年々ノートPC市場でのシェアを伸ばしており、PC Watchの読者的には要注目といえる。スーCEOの基調講演は、1月4日18時30分(日本時間1月5日午前11時30分)からの予定になっている。

 また、例年IntelがノートPC向けの新製品を発表する場にもなっており、CES 2022でも第12世代CoreのノートPC版が発表された。そのほかPCメーカー各社がその年の目玉製品を発表する場としてCESを活用しており、Dell、HP、Lenovoといった主要なPCメーカーからノートPCが発表される可能性が高い。その意味でも、要注目のイベントになりそうだ。