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「電源のいらないミリ波帯中継機」、東工大が開発
2022年6月21日 12:46
東京工業大学は14日、無線での電力伝送と通信に同時対応する「ミリ波帯フェーズドアレイ無線機」を開発し、実証実験に成功したと発表した。これにより無線電力伝送および無線通信の長距離化、広角化が可能となるほか、中継機の電力確保にかかる設置コストの低減が図れる見込み。東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の白根篤史准教授と同工学院 電気電子系の岡田健一教授による研究。
5G通信などに使われ、高速な通信が可能な一方で、遮蔽物に弱いミリ波帯電波は、その利用にあたって多くの中継機を設置する必要がある。しかし現行の一般的な中継機は電源の敷設を必要とすることから、中継機の設置場所に制約が生じるほか、設置コストが増大するなどの課題があった。
両氏の研究では「電源のいらないミリ波帯中継機」の開発を進めており、ミリ波帯フェーズドアレイ無線機においては、28GHz帯で通信信号を送受信し、24GHz帯で電力を伝送する。本機は壁など遮蔽物の両側面に貼り付けることで中継機として利用でき、24GHz帯の電波については直流電力に変換することで外部電源を不要としている。
ただしこれまで開発してきた受信機では、広範囲から届く電波に対してビームステアリング(電波を任意の方向に絞って発射、制御する技術)できない、電力効率が低いという問題も抱えていた。今回開発した無線機では、この問題の解決を試みている。
ビームステアリングによって広範囲の電波を受信するにあたっては、新たに「アンテナ一体型移相器」を考案した。これは点対称に設置した2つのアンテナをスイッチで切り替えることによって180度の移相器として動作させ、さらに別の点対称アンテナをもう一組設置しペアで動作させるもの。これによって水平/垂直方向へのビームステアリングが可能になり、無線電力伝送の効率を落とさずに低損失かつ広範囲な電波の送受信が行なえるようになった。
また、受信信号の到来方向と同じ方向に無線通信信号を送信できる「再帰バックスキャッタリング技術」も併せて考案しており、これによって電力消費のないパッシブ動作で所望の方向へビームを形成し、通信を中継できるとしている。
ミリ波帯フェーズドアレイ無線機の試作機は、1チップ当たり16系統のトランシーバを集積した全4チップの無線ICを搭載し、64素子のフェーズドアレイ無線機として構成している。
測定評価の結果、無線電力伝送受信時に0~45度のビームステアリングを行なった際に、従来は数%まで劣化した生成電力を46%まで維持することに成功した。また、同じ水準の生成電力で比較した場合でも、2倍以上の伝送距離を達成している。
本機は通信の送受信がパッシブ動作であることから、消費電力を増大させることなく大規模なフェーズドアレイを構成でき、中継機として必要な機能に応じてそのつど適切なアレイサイズを決めることで、柔軟な無線機開発が可能になるとしている。この技術は将来的に、高速なミリ波帯高速通信エリアの拡大や、充電による利用可能時間が制約されない無線端末の実現にも寄与する可能性がある。