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2030年代のライフスタイル。「空飛ぶクルマ」のある暮らしをVR体験で先取り
2022年3月1日 09:28
デロイト トーマツ グループ、有志団体 Dream On、三菱地所株式会社、Tokyo Marunouchi Innovation Platform(TMIP)の4社は、「空飛ぶクルマ」と呼ばれる「eVTOL(electrical Vertical Take Off and Landing 、電動垂直離着陸機)」の認知度を上げるために製作されたVRコンテンツを体験できる一般向け実証実験を、2月28日、3月1日の2日間、丸の内エリアで実施すると発表し、3月1日に会見を行なった。
実証場所は「3×3 Lab Future」(東京都千代田区大手町 1-1-2 大手町タワー・ENEOS ビル 1F)。対象は一般社団法人 大丸有環境共生型まちづくり推進協会が運営する組織である「TMIP」の会員企業、丸の内エリア(大手町・丸の内・有楽町)のワーカー。体験人数は36名を予定する。体験者にはアンケートを取り、社会受容性や今後の活用・展開可能性などを検証する。VRコンテンツは地方交通での活用を想定している。
体験者はVRゴーグルをつけて、一人乗りの電動カートを使った「空飛ぶクルマ」のモックアップに乗り込んで体験する。カートが映像に合わせて前後したり、搭乗者へ風を送ったりすることで、搭乗体験者は五感を通じて「空飛ぶクルマ」の乗車体験がどんなものなのかを体験できる。
「空飛ぶクルマ」は社会変革の新たなインフラ基盤となる
デロイト トーマツ グループ ディレクターの海野浩三氏は、デロイト トーマツ社は、より良い未来を創るために2018年から専門チームを作って「空飛ぶクルマ」の調査・研究、エコシステム形成を推進していると紹介。「空飛ぶクルマは単なる移動手段ではなく、生活や働きかたを一変させる社会変革のイネーブラーだ」と捉えているという。
そのポテンシャルやイメージをバッググラウンドの異なる業界関係者で共有して、エコシステムを形成するためには「共通の目線」が必要だと考えて、五感で体験できるVRを4社の関係者と協力して開発したと紹介した。デロイトは主に地方での利活用をテーマにした企画・ストーリー作りを担当した。
VRで「空飛ぶクルマ」のある未来の生活を仮想体験
「空飛ぶクルマ」の開発を目指して活動して来た有志団体「CARTIVATOR」が、2021年に改称して誕生した「Dream On」。代表の中村翼氏は、「Dream On」について、「未来の生活を仮想体験できる仕組みづくりを行う」という意味で「未来へのタイムマシン」実現を目指すボランティアが集まった有志団体だと紹介した。
前身の「CARTIVATOR」は2014年から活動を開始。2020年には有人デモフライトを実現した。現在、機体開発はメンバーが創業した株式会社SkyDriveが行ない、有志団体は「Dream On」へと改称。「未来へのタイムマシン」というテーマで活動を行なっている。
中村氏は「空飛ぶクルマは人によってイメージや前提知識が違っていて議論が進まない。未来を五感で体験して共通の体験を持てればということでVRに着目した」と語った。これまでに東京上空の飛行体験などのコンテンツをCGで製作してきたが、今回は実写を交えた地方上空を飛ぶ体験に加えて、乗る前の体験も含めてVR化した。今後は、地上交通との連接や、地上から見上げたときにどんな体験になるのか、多数機体をいっぱい飛ばせたときにどんな体験になるのかなどのコンテンツ制作も進める。
街のありかた、過ごし方を変える乗り物
三菱地所 エリアマネジメント企画部オープンイノベーション推進室長 兼 TMIP 代表の佐野洋志氏は、「空飛ぶクルマはSF的、少し近未来的だが、目前の近未来だと考えており、それが実現する世界観を想像すると、当社の事業にとって非常に重要な交通インフラとなると捉えている。機体に乗ること自体わくわくするし、効率も上がる。移動時間が圧倒的に縮まることで今まで行けなかったところにも行けるようになるし、ビジネスと観光がハイブリッドしてくる。アフター・コンベンションもありえる。街のありかた、過ごし方を変える乗り物になると考えてこういった企画を提案している」と語った。
なお三菱地所は、次世代エアモビリティを活用した新しいまちづくり、新事業への取組みもスタートしている。具体的には、三菱地所とサイモン株式会社が所有運営する『御殿場プレミアム・アウトレット』にヘリポートを設置。周辺観光スポットを遊覧するヘリコプタークルージングサービスを2022 年1月29日から始めている。また、丸の内やみなとみらい等の保有資産も含む、離発着場の設置・運営等を通じて、まちづくりの進化を検討しているという。
EVと技術的共通点が多い「空飛ぶクルマ」産業の広がりへの期待
今回のVR体験事業の詳細については改めてデロイト トーマツの海野氏が紹介した。通称「空飛ぶクルマ」こと「eVTOL」は、電動、自律自動、垂直離発着等の特徴を持つことから、新たな産業創造・事業創造の可能性が期待されている。「空飛ぶクルマ」には大きくわけると「回転翼型」と「固定翼型」の2種類があり、それぞれ近距離、中距離がイメージされている。日本では小型回転翼タイプが多く、米国では固定翼型が多い。
空飛ぶクルマは電気自動車の技術要素と共通点が多いという。バッテリ、フレーム、センサーなど、今後、自動車産業の次に来るものとして期待されている。
国も「デジタル田園都市国家構想」を体現するモビリティとして必要な制度整備に意欲を示しており、ロードマップでは2025年の大阪万博でお披露目し、そのあとに徐々に展開されるということになっている。今回のVRも地方での活用はどういうものになるのかということに焦点が当てられたものになっている。
関係者が多いことも特徴だ。注目を集めやすい機体メーカーだけでなく、オペレーションする会社、それらを繋げるサービサー、ポート運営、各種設備メーカー、管制者、各種保険やリースなどの金融、各部品メーカーも必要となる。このため多くの関係者が関わることになり、産業としての広がりの面からも注目されている。
だが各プレイヤー、一般消費者によって想像しているイメージは異なる。それらをある程度揃えて共通化するためにVRを作ったという。今回のVRでは、チケット手配、保安検査、フライト、乗ったあとなど、一連のカスタマージャーニーが機体とVRを使って体験できる。具体的には地方空港に到着した後、移動手段に「空飛ぶクルマ」を選択して、宿泊予定ホテルまで飛行するというもの。なお今回のコンテンツの映像は三重県津市から英虞湾周辺の飛行をイメージして制作されていた。
実際には2つのコンテンツからなる。1つは画像と音声によるVRを使ったチケット手配そのほか。もう1つは機体に乗り込んだあとの体験で、こちらは車体と映像が連動する。上から遊覧観光しながら景色を見ることでその場で訪問地域での観光プランを立てたり、チケットを申し込んだりといった体験が行われる。体験者に対して風も送られることで五感で体験できると語った。
大きな課題は社会受容性
「空飛ぶクルマ」については国内での有人試験飛行の実施等、技術的な課題解決に向けた検討が進みつつある一方で、実用性や安全性を含めた一般的な認知/理解などの社会受容性が重要な課題となっている。今後の課題を問われた海野氏は「実際に空を飛んでもいいのかといった社会受容性について実際のルートで進めていくことが重要。またポートをどこに立てるのか、物理的な場所を持っている人を交えて、どこからどこまで、『何丁目何番地のここからここ』というかたちで決めていかないといけない」と語った。
技術的な課題としてはDream On代表の中村氏は、バッテリの問題を挙げた。技術開発はまだ追いついていないという。また今回のVR体験は回転翼型を想定しているが、中村氏自身は本命は固定翼型だと考えているとのことだった。