ニュース

ドコモとUR、5Gとロボットを使って団地内で自動配送実験。横浜市・金沢シーサイドタウンで

 株式会社NTTドコモ独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)は、2021年10月27日(水)と10月28日(木)の2日間、横浜市・金沢シーサイドタウン並木一丁目第二団地で、自動配送/遠隔操作ロボットを活用した配送実証実験を実施すると発表し、27日に報道公開を行なった。

 2020年12月8日にドコモとUR都市機構が締結した「スマート技術の導入と環境整備に係る共同研究協定」のUR賃貸住宅におけるスマート技術の活用に向けたセンシング技術などの検討を進める取り組みの1つ。8月に技術検証を行ない、当初は9月に実証実験を行なう予定だったが、新型コロナ禍の影響で10月末の実施となった。

 実験にはドコモとUR都市機構のほか、ロボットを提供する株式会社テムザックと、集合住宅管理を行なう日本総合住生活株式会社が参加。テムザックが開発している都市部向けのスマートモビリティ「RODEM(ロデム)」をベース車体として、各種センサー類による自律走行機能や遠隔地からの監視機能などを追加することで「自動配送ロボット」として活用し、日用品などの商品を団地入口から住居棟まで配達する。

テムザックのパーソナルモビリティを改造

自動配送ロボット。テムザックの「RODEM」を改造したもの

 配送ロボットのサイズは幅72cm、長さ100cm。速度は自動運転時は時速2km、手動運転時は最高時速6kmで走行可能。完全自律走行のほか、5Gを使った遠隔操作、そして現地でのマニュアル操作が可能。前輪はオムニホイールで小回りが聞く。前述のとおり、もともとは人が乗ることを用途としたパーソナルモビリティだが、今回は座席部分を外し、代わりに顔認証を使ったスマートロッカーを二つ搭載している。ペイロードは15kg程度。

 架台を取り換えることも可能で、これにより商品の配送だけでなく、人の移動、クリーニングの持ち込みや納品、ごみの回収、巡回警備、清掃・消毒など多用途に転用できるとしている。

正面
側面
各種センサー類を追加搭載
全方位カメラも搭載
通信機器の多くはドコモのもの
スマホは顔認証用
前輪はオムニホイール
もともとパーソナルモビリティなので、必要に応じてマニュアル操作も可能
人が乗る座席にも交換可能。解説は株式会社テムザック 代表取締役社長CEO 川久保勇次氏

ドコモ5Gを使って低遅延の遠隔操作も

株式会社NTTドコモ 第一法人営業部 第五担当(モビリティデザイン推進) 主査 市原貴幸氏

 自動運転・遠隔操作を検証するために、実証フィールドには高速・大容量、低遅延といった特徴を持つ第5世代移動通信システム(5G)の通信環境を整備し、あわせて5Gを利用したWi-Fiによる通信環境を団地屋外に構築した。Sub6とLTEを組み合わせることで、より高精細な映像伝送を可能にしている。また、もともとテムザックが使っていたGNSSに加えて、ドコモが提供する「docomo IoT高精度GNSS位置情報サービス」を活用。NTTドコモ 第一法人営業部 第五担当(モビリティデザイン推進) 主査の市原貴幸氏によれば、これにより位置精度1.5cm程度を実現しているという。

 また、ロボットに搭載した360度全方位カメラからの高精細映像を「ドコモオープンイノベーションクラウド」を通じて高速伝送することで、遠隔地からの操作を遅延なく行なうことができるようにした。自律機能だけでは回避が難しい障害物や、自律走行が難しい細い通路においては遠隔操作によって人が介入することで、ロボットの活用範囲を広げることができるとしている。

 ロボットを動かすオペレーションセンターは団地内集会所に設置。オペレーションはロボットの専門家たちではなく、普段は集合住宅管理を行なっている日本総合住生活の担当者が行なう。

団地内に設けられたオペレーションルーム。右側がロボットの位置情報
ロボット搭載の高精細カメラ画像をリアルタイムに見ることができる
ロボットのステイタス画面
必要に応じて遠隔操作も可能

 車両管理用システムはNTTドコモのデマンド型公共交通システム「AI運行バス」のものをそのまま転用した。車両の運行スケジュールのリアルタイム管理も可能で、適切な行き場所をシステムが示すので、係員は特に迷うことはない。

 荷物を受け渡すときの本人確認は、ドコモ画像認識プラットフォームのAI顔認証ソフトウェア「SAFR」による顔認証を用いて、スマートロッカーを遠隔から解錠する。

ロボットの位置情報
AI運行バス用のものを転用しているため「乗車人数」と表示されている

 実験では主に住民のロボットに対する受容性(ニーズ、機能、安全面など)を検証し、今後の導入に向けて検討を行なう。

団地内を走行させて住民の受容性を検証する
猫もロボットを見送っていた

スマート技術で社会課題解決とQoLl向上を狙う

走行中の様子

 会見でUR都市機構 技術・コスト管理部 企画課 スマートシティ推進室 BIM・CIM推進室 主幹の田中克典氏は「昨年12月に共同研究を開始した。URではスマート技術を活用して社会課題解決とQoLl向上をねらっている」と経緯を紹介。ドコモの「ライフスタイル共創ラボ」とも連携して技術検証やサービス実証を行なっていくという。

UR都市機構 技術・コスト管理部 企画課 スマートシティ推進室 BIM・CIM推進室 主幹 田中克典氏

 具体的には高齢者が住まいから離れたところで購入した持ちにくい荷物を運ぶようなニーズを想定している。今回の実験では2台のロボットを併用し、トイレットペーパーやお米、ペットボトルなどを運ぶ。金沢シーサイドタウンにはすぐ近くにスーパーがあり、そこから買い物した商品を運んでもらうようなイメージだという。

今回ロボットが運ぶ日用品

高齢者社会での新たなインフラとなり得るか

団地内を時速2kmとゆっくりした速度で走行する

 今回の実証の場が「金沢シーサイドタウン」になった理由は、エレベーターがない住居であることと、平坦であるためロボット走行に適していたこと。実証実験の参加者は合計7名。7月に説明会イベントを開催して実証に参加してくれる人を募ったところ、高齢者やファミリーなどが応募してくれたという。

 実験では、事前にある程度選択された商品の中から客がスマホを使って選択して注文。係が注文された日用品を積み込んだあと、建物の1階まで届けるという想定で行われた。

ロボットに荷物を積載
団地内を走行

 実証実験に参加した50代の住人は取材に応え、「かなり慎重だと感じた。もう少しラフでもいいかもしれない」と感想を語った。実際に、現在は入院中の80代後半の高齢者と同居しているとのことで「高齢者は助かるのではないか。ただし料金の決済手段などは高齢者にとっては難しいかもしれない。また安全性には課題があるだろうが、階段を登って玄関先まで来てくれると、もっとありがたい」と今後の運用面への期待を述べた。

ロボットに積まれたスマホで顔認証を行なう
顔認証すると扉のロックが解除される
到着した荷物を取り出すところ