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パナソニック、住宅街でロボットによる配送実験を公開
2020年12月10日 06:55
パナソニック株式会社は、神奈川県藤沢市の「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(藤沢SST)」で小型低速ロボットを使った住宅街向け配送サービスの実証実験を行なうと12月7日に発表し、9日に実証実験をプレス公開した。年内にかけて公道での走行検証を実施し、2021年2月から実証サービスの提供と検証を行なう。
Eコマースやフードデリバリーなどの増大で宅配員の不足は深刻化し、非接触・非対面などの新たなニーズも生まれている。パナソニックはこれまでの自律走行ロボット技術や自社構内でのライドシェアサービス運用を通して培った技術を用いて人に寄り添うロボットによる新たな配送サービスの提供と、人とモビリティが共存するコミュニティづくりへの貢献を目指す。
住宅街向け配送サービス実証実験は「フェーズ1」と「フェーズ2」に分かれている。2020年11月25日〜12月24日にかけて行なわれる「フェーズ1」は自動走行ロボット公道走行の実証。公道走行時の技術検証と課題抽出を行なう。管制センターとロボットをインターネットで接続し、管制センターのオペレータがロボット周囲の状況を常時監視する。ロボットは障害物を回避しながら自律走行する。自動回避が困難な状況では管制センターからの遠隔操作に切り換えて走行する。
場所は、Fujisawaサスティナブル・スマートタウン内の湘南T-SITEからアクティブパーク南側の住宅街周辺を走行する。遠隔管制センターは湘南T-SITE内に設置する。
「フェーズ2」は自動走行ロボットを用いた配送サービス実証。ロボットを利用した新たな配送サービス体験に対する受容性を検証する。ロボットを使った配送サービスの省人化、スマホアプリを使った非対面での荷物や商品の受け渡し、ロボットと遠隔管制センター間での対話機能によるコミュニケーションなどを検証する。時期は2021年2月〜3月を予定する。
自律配送ロボット
ロボットは長さ115cm、幅65cm、高さ115cm。重量は120kg。積載重量は30kg。6km/hまで出せるが、実証実験での最大速度は4km/hに制限する。運行可能時間は約3時間程度。登坂性能は10度。4cmまでの段差を乗り越えることができる。
3DLiDAR、2DLiDAR、GPS、遠隔操作用のカメラ、バンパーセンサーなどを備える。事前に作成した3DマップとGPSを使って自己位置を決定し、目標地点まで自律走行する。通信帯域推定技術により、低遅延の全周囲映像を見ながら遠隔操縦を行なうことができる。また3重の安全装置を持っている。
ベースは電動車椅子で、その上にロッカーがある構造。法律的には原動機付き自転車第一種ということになっている。今回の実験では警察との道路使用許可の関係で、1台が投入される。早期に複数台運用への移行を目指す。門真では1人が4台を監視する運用もすでに行なっているとおり、法的な扱いについては実証実験はおもに9時から17時にかけて行なう。オペレーションは基本的に16時まで行なう予定。
変革するモビリティへの挑戦
会見でパナソニック株式会社 モビリティソリューションズ担当参与の村瀬恭通氏は今回の実験概要について、日本をはじめて自律配送ロボットが住宅街を走行するものだと紹介。
変化する世のなかでくらしをアップデートすることを目指すパナソニックのビジョンを紹介して、同社モビリティソリューションズの注力領域は家のなかから広げた生活圏から、移動の観点に注目しているとし、限定されたエリアでの移動ソリューションを提供するエリアモビリティ、電気自動車や電池の使いこなしに関連するEフリート、そして車自体が出すデータや道路や駅からのデータを統合してよりよい交通サービスを目指す社会インフラの3つだと述べた。今回の実験はエリアモビリティ領域に属する。
くらしの課題に向き合い、最適なモビリティサービスを導入することを目指している。これまでは門真の自社構内で実験を行なっていた。構内には1万人が働き、立体交差そのほかもある環境だった。昨年(2019年)1年間で約1万kmを走行し、走行データや人の移動データを収集した。
それらのデータから、その場所に適したモビリティサービスをアップデートしてきたという。これからは住宅街・団地、工場構内、テーマパーク・商業施設での運用を目指す。今回の実験を通して街中での現場課題と適したサービスのあり方を探る。
たとえばこれまでの実験のなかで、子供たちが遠巻きに近づいてきたり、犬の散歩をしている人たちが近づいてきたりといったことがあったという。これまでは構内での実験だったので大人しかいなかったが、多様な人たちと対話をしながらモビリティを発展させていく。「わたしたちのモビリティ」が重要だと述べた。都市OSとの連携も視野に入れる。
データ収集のプローブとしての活用も視野に
同マニュファクチャリングイノベーション本部 本部長の小原英夫氏はサービスイメージと技術を紹介。社会課題と生活様式の変化、価値観が変化していることについてふれた。コロナ禍によって潜在的なニーズも顕在化してきたと見ているという。
ロボットやシステムを提供するだけではなく、ソリューション・サービスでの価値提供を目指していると述べた。そしてこれまでの、屋内向けの多目的移動ロボット「HOSPI」、空港や駅など公共の場で用いる追従型電動車椅子「PiiMo」、自動運転ライドシェアなどの事例を紹介し、とくに安全技術と効率運用の進化に取り組んできたと語った。
今回の実験は人との協調走行による安全性、高品質な通信技術による安定した映像・音声伝送、車載向け学習型セキュリティ監視といった技術を組み合わせたもの。動画でサービスイメージを紹介した。
子育て世代の人がスマホアプリを使って複数の近隣ショップに注文を出し、ロボットがその注文を受信して、複数の店を買い回りする、そして自宅まで指定時間に届けるというものだ。具体的な詳細については、まだ検討中とのこと。街の人たちとともに理解しあいながら共創させて発展させていくことが重要だと語った。
また、このロボットを起点に、モノを運ぶだけではないサービスも展開していく予定だという。たとえば警備などの用途も視野に入れる。単純にモノを運ぶだけではビジネスが成立するとは考えにくいため、センサーデータを複数のサービス提供者でシェアして活用することを検討する。
応援したくなるようなロボットを目指す
実験の詳細は、同マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括の安藤健氏が解説した。安藤氏は今回のロボットを「街の日常風景のなかで地域の人々にお役立ちをし、時に応援したくなるような頼りがいと愛らしさをあわせもつ存在」がコンセプトだと紹介した。すべてのことを自律でできるわけではなく、人に助けてもらうことも重要になるので、愛着を持ちやすいデザインを重視したという。
「フェイズ1」実験では、公道走行の技術検証と課題抽出を、基本的に自律走行で行なう。管制センターから遠隔で見守り・操作する。横断歩道時や自律移動で回避が難しい場合は遠隔操作に切り換える。遠隔操作は複数のロボットを同時に監視することができる。
「フェイズ2」実験ではロボットによる配送サービスの需要性を検証し、サービスに本当に価値を感じてもらえるのかを検証する。来年(2021年)度には有償サービスに進めることを目指す。そのためには、まずは公道で走る技術の検証とサービス効果の検証が必須だと考え、このタイミングとなったという。技術の成熟とコロナ禍によるニーズ顕在化に応えたいと考えたと安藤氏は述べた。
SDGsの実践としてのロボット
会見には神奈川県知事の黒岩祐治氏、藤沢市長の鈴木恒夫氏も登壇。それぞれ挨拶した。神奈川県知事の黒岩氏は「藤沢SSTに新しい歴史が加わった。東日本大震災のあとすぐに立ち上がったのが、ソーラーパネルでできあがったこの街。神奈川県の『さがみロボット産業特区』では新しいロボットを開発して実証している。特区を使って無人タクシーや『ロボネコヤマト』も実現している。今度はこの新しいロボットが新しい配送システムを作り上げていく。コロナ後は非接触、非対面が大きな課題になっている。最先端の技術を発表できることは大きな意義がある。SDGsの実践そのものだ」と語った。
Fujisawaサスティナブル・スマートタウン
実証実験の場となる「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」とは、神奈川県藤沢市のパナソニック工場跡地で、パナソニックら18団体・藤沢市が参画するまちづくりプロジェクト。2014年に街びらきを行なった。敷地面積は約19ha、居住者は2,000名。昼間人口は約3,000名。30代から40代の子育て世代が多いという。持続可能なまちづくり、企業・自治体・住民などの共創、新しいサービスの創出を通じて、社会や地域の課題解決を目指している。
なお今回の実験は、国の成長戦略実行計画(令和2年7月)における低速・小型の自動走行ロボットの社会実装に向けて遠隔監視・操作型の公道走行実証を実施するとの方針を踏まえて実施するもの。パナソニックも経済産業省主催の「自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」へ参画しており、この研究開発の一部は、NEDO「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス 実現に向けた技術開発事業」の補助を受けて実施している。