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理研ら、高性能太陽電池などにつながるトポロジカル電流を実証

強誘電半導体の硫化ヨウ化アンチモン(SbSI)におけるトポロジカル光電流発生の概念図

 理化学研究所(理研)、科学技術振興機構(JST)、東京大学らによる研究グループは11日、強誘電体を含む空間反転対称性の破れた物質における光電流がトポロジカル電流としての性質を持つことを実証した。

 物質に電場をかけると、電気抵抗の大きさに反比例して電流が流れるが、電流は物質中の格子欠陥や不純物などにより散乱されて抵抗を受け、エネルギーを失ってしまう(エネルギー散逸)。エネルギー散逸のない電流としては、超伝導体中を流れるものが知られているが、一般的に非常に低温な環境でしか発生しない現象のため、室温動作デバイスへの応用が難しい。

 一方、電子の波動関数がもつ量子力学的な位相因子によって生じるトポロジカル電流の存在が近年明らかになってきており、超伝導電流と異なり、原理的には室温でも観測が可能だとされている。強誘電体を含む空間反転対称性の破れた物質に対して光を照射したさいに、外部電圧なしに発生する光電流がこれに相当するものの1つだと考えられており、シフト電流として理論的な研究が進められてきた。しかし、強誘電体で発生する光電流の起源がシフト電流であることは今まで実証されていなかった。

 研究グループでは、大きな分極をもつ強誘電体で、可視光を強く吸収する性質のある硫化ヨウ化アンチモン(SbSI)を用いて結晶中の格子欠陥が光電流に与える影響を調べた。実験用に欠陥密度の異なるSbSIの単結晶試料を多数用意し、これらに擬似太陽光を照射。発生する光電流を測定した。

強誘電半導体のSbSIにおける光起電力効果。(a)SbSIの結晶構造と分極発生方向、(b)SbSIの分極軸方向での光照射下と照射しない状態での電流電圧特性
散乱の影響を受けないゼロバイアス光電流
光伝導度とシフト電流に対する表面散乱の影響の違い

 その結果、欠陥密度がもっとも高いものと低いものでは、光を照射しない状態での電気伝導度が5桁以上違うにもかかわらず、光を照射したさいに生じるゼロバイアス光電流がどちらもほぼ同じ値となることがわかった。加えて、欠陥密度の異なる6つの試料について、さまざまな温度で電気伝導度とゼロバイアス光電流を測定すると、散乱が大きく変わる一方でゼロバイアス光電流がほぼ一定であることも確認された。

 さらに、分光した光を試料のうちの1つに照射し、電気伝導率とゼロバイアス光電流の作用スペクトルを測定したところ、光伝導度のピークがSbSIの吸収が立ち上がる2.2eV付近にあり、それ以上に高エネルギー側ではスペクトル強度が急激に減少することがわかった。一方で、ゼロバイアス光電流は2.2eV付近で急激に立ち上がり、高エネルギー側でもスペクトル強度が減少しなかった。これらの結果から、観測されたゼロバイアス光電流がシフト電流であることの強い証拠が得られた。

 これらの実験により、強誘電体に光を照射すると発生するゼロバイアス光電流が、散乱によるエネルギー散逸のないトポロジカル電流としての性質を持つことが明らかとなったとしており、研究グループでは、高効率の太陽電池や高感度の光検出器など、エネルギー散逸の少ない光電流の発生機構を利用した機器の開発につながるとしている。