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文科省ら、プログラミング教育の自宅学習向けコンテンツを公開

 未来の学びコンソーシアムは、小学生が自宅において、プログラミングの基本的な操作などを学習することのできるコンテンツを作成し、「小学校を中心としたプログラミング教育ポータル」で公開する。また、一般社団法人情報処理学会では、高校におけるプログラミング学習を円滑に実施するために、教員研修や授業などで活用することができる教材を制作し、無償で公開することを発表。同様に、同ポータルで情報を提供する。

 未来の学びコンソーシアムは、文部科学省、総務省、経済産業省と全国の教育委員会、学校、民間企業や団体などが参画して、2017年3月に設立。官民一体となって、未来を担う子供たちへのプログラミング教育の普及、促進を通じて、世界に誇れるプログラミング教育の実現を目指しており、多様かつ現場のニーズに応じたデジタル教材の開発や学校における指導に向けたサポート体制構築を推進している。

未来の学びコンソーシアムの運営団体

 政府では、2020年度から小学校でプログラミング教育を必須化し、文字入力などの基本的な操作を習得し、新たにプログラミング的思考を育成。2021年度からは中学校において、技術・家庭科において、プログラミングに関する内容を充実。2022年度からは、高校の情報科において新設される「情報I」において、プログラミングのほか、ネットワークやデータベースの基礎などについて学習することになっており、情報活用能力を言語能力と同様に、「学習の基盤となる資質、能力」に位置づけている。

 今回、公開する「児童が自宅等でプログラミングの基本的な操作等を学習することのできるコンテンツ」は、2020年度から、小学校でのプログラミング教育が必須化されたものの、新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの学校で臨時休業や分散登校などが実施されたことを踏まえて、学校の実態などに合わせた学習活動が、円滑に実施できるよう支援するために作成したものだという。

 「家庭学習を含む自宅などにおいて、プログラミングの基本的な操作などの学習に取り組みやすいコンテンツとして作成した」(文部科学省初等中等教育局 プログラミング教育戦略マネージャーの中川哲氏)という。

文部科学省初等中等教育局 プログラミング教育戦略マネージャーの中川哲氏

 たとえば、小学5年生では、2学期に、「図形(1)正多角形」のなかで、学習指導要領に例示されている単元としてプログラミング学習が行なわれる。そのほかにも、学習指導要領に示される各教科などの内容を指導するなかで、プログラミング教育が実施されることになっている。

 これらを実施するにあたって、本来ならば、1学期において、教育課程内において各教科などと別に実施する学習活動のなかで、ゲームの要素などを取り込んだプログラミング学習を実施することで、2学期の学習効果を高めるといった「カリキュラムマネジメント」が、現場で行なわれることが想定されていた。

 だが、プログラム教育導入の初年度である2020年度の1学期が、新型コロナウイルスの影響によって、臨時休業や分散登校を実施したことで学習時間が減少。こうした準備を行なわないまま、プログラミング学習を開始するケースが多くなると見込まれている。

 「指導現場からは、新たな学習を行なうための準備の時間を捻出できないという声がある」という。

 教育現場におけるカリキュラムマネジメントが、宿題を含めた家庭学習も含まれていることから、2学期に向けた準備として、夏休み期間中に自習できる小学4年生以上の児童を対象にしたコンテンツを新たに作成した。

 「未来の学びコンソーシアムにおいては、これまでは、教員向けコンテンツを提供してきたが、今回、子供たちが利用するコンテンツを用意した。各教科におけるプログラミングに関する学習活動の実施に先立って、プログラミング言語やプログラミング技能の基礎について学習に取り組み、プログラミング言語に慣れ親しむという指導計画を立てることも考えられる。現在の学校の実態などにあわせて、ブログラミング教育の学習活動が円滑に実施できるように支援するものであり、2学期がはじまる段階で児童がプログラミングを体験しているという状況を作りたい」としている。

 児童が自宅でプログラミングの基本的な操作などを学習できるコンテンツとして、簡単なチュートリアル機能も提供。具体的には、「お家で学ぶはじめてのプログラミング~スクラッチのはじめ方」、「スクラッチで、ねこから逃げるプログラムを作ってみよう」を提供。さらに、企業などが提供する子供向け無料コンテンツも、小学校を中心としたプログラミング教育ポータルで公開する。

学習可能なコンテンツ

 一方、情報処理学会(IPSJ)が作成した教材は、2022年度から実施される新高等学校学習指導要領において、共通必履修科目「情報I」を新設。そのなかで、すべての生徒がプログラミングなどを学習することを踏まえて、教員研修や授業などで活用することができる教材として制作したものだ。

 IPSJ MOOC(Massive Open Online Course)プロジェクトサイトで無料公開し、未来の学びコンソーシアムが後援し、同コンソーシアムの「小学校を中心としたプログラミング教育ポータル」でも情報を提供する。

IPSJ MOOC教材

 情報処理学会 教育理事の高橋尚子氏は、「教員が自信を持って、学習を進めてもらうための教材づくりを目指した。文部科学省が提供している研修教材に沿ったもので、実際にプログラミングの実習ができ、それをオンラインで提供できるようにしている」としている。

 提供する研修教材は、情報Iおよび情報IIの教員研修教材に即した解説動画と実習教材を一体利用できるもので、解説動画はYouTubeのIPSJチャンネルにリンクし、一般の人でも見ることができる。また、実習教材はGoogle Collaboratoryのプログラミング教材として提供する。

解説動画

 さらに、企業によるプログラム開発や利用状況を紹介した短時間の動画も用意する予定だ。

 文部科学省の研修教材は4章構成になっているが、そのなかでも、第3章の「コンピュータプログラミング」、第4章の「情報通信ネットワークとデータ活用」が、教員にとってもハードルが高いと見られる。

 解説動画では、第3章と第4章に焦点を当て、第3章では、「プログラミング入門」、「アルゴリズム」、「モデル化シミュレーション」の3本を用意。第4章では、「情報システム」、「情報セキュリティ」、「データベース」、「データサイエンスの基礎」、「データ分析」の5本を用意する。

 「第3章はすでに撮影済みであり、プログラミング入門は7月29日から公開し、そのほかは8月中旬に公開する。第4章は10月以降の公開を目指して、制作準備中である」という。

 「高校での授業での利用だけでなく、大学生の学び直し、企業の新入社員教育、リカレント教育などにも利用できるものになる」としている。

 なお、教材制作においては、Google、トランスコスモス、情報サービス産業協会、教育情報化推進機構が協賛、協力を行なっている。

 情報処理学会では、1970年代後半から大学の情報教育についての研究活動を開始。組織内に情報処理教育委員会を設置して、情報処理教育カリキュラムをはじめ、教育のための指針、方法、評価などを研究。9つの専門委員会と2つのワーキンググループを設置して、シンポジウムやセミナー、提言活動を実施。調査研究活動や初等中等教育への総合的支援活動などを行なっている。高校向けには、教員免許更新講習を実施しているという。

 文部科学省の中川氏は、「新たな教育科目が作られたり、アップデートされたりした場合に、文部科学省から教員向けの学習コンテンツを提供することはなかった。その点でもめずらしい取り組みになる。新型コロナウイルスの影響で、教員が集まった研修の開催も難しくなっている。今回、情報処理学会が用意したコンテンツを、そうした課題も解決できる」とした。