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東北大、電動乾燥防止機能つきのコンタクトレンズを開発
~バイオ電池で駆動し外部電源不要
2019年11月29日 15:15
東北大学大学院工学研究科の研究グループは、電気浸透流とバイオ電池を利用し単体で乾燥を防ぐ「自己保湿型コンタクトレンズ」を開発した。
コンタクトレンズは、視力の矯正器具としてだけでなく、ファッションアイテムとしても利用されている。加えて近年では、センサーや表示素子などを組み込んだスマートコンタクトレンズの開発が進められている。
一方で、ソフトコンタクトレンズを使用すると、本来目の表面にある油膜が失われることで涙の蒸発を促進してしまう問題があり、ドライアイの誘発や症状の深刻化を引き起こす。ドライアイは、不快感だけでなく視覚障害の原因にもなりうるため、コンタクトレンズにおける保湿技術の開発が求められてきた。
今回研究グループでは「電気浸透流」を利用したコンタクトレンズの保湿を目指し、実験と開発を進めた。電気浸透流とは、固定電荷などによって正イオンと負イオンの移動度に大きな差が生じたさいに、通電によって液体の流れが発生するもの。
動作の仕組みとしては、下まぶた裏にある涙液メニスカスと呼ばれる場所から、電気浸透流を使って涙をポンプのように汲み上げ、コンタクトレンズと目の間を潤すといったかたち。電気浸透流のコンタクトレンズへの転用例は今まで存在しなかったという。
実験ではまず、市販のコンタクトレンズにも使用されている「メタクリル酸」、「2-ヒドロキシエチルメタクリレート」、「メチルメタクリレート」の3種類のモノマーを共重合させ、固定電荷密度の異なるハイドロゲルのサンプルを5つ作成し、電気浸透流(EOF)の効率の変化を計測した。その結果、メタクリル酸の割合によってEOFの発生効率を調整可能なことと、ハイドロゲルが強度が変化することが分かった。以降の実験では、厚さ0.2mmが十分に維持できる組成のもの(Sample 4)が使用されている。
続いて、ハイドロゲルの乾燥防止について実験を進めた。7.5×14×0.2mm(幅×高さ×厚さ)のハイドロゲルシートを用意し、下端3mmをマッキルベイン緩衝水溶液に浸した状態で、最初の30分間は自然乾燥させ、次の30分間は上向きのEOFを、その後下向きのEOFを発生させ、イオン伝導度の低下(乾燥の度合い)を計測した。
すると、上向きのEOFでは乾燥の度合いが実験開始前と同等まで戻り、下向きでは逆に乾燥を促進することが判明した。加えて、20μA/平方mm程度の比較的小さな電流密度でも乾燥速度の低下が確認でき、50μA/平方mm程度であればほとんど乾燥しないことも分かった。
さらに、眼球をモデルとした球面上のアクリル樹脂に、先ほどのハイドロゲルと同じ素材で作成したコンタクトレンズを装着。隙間に注入した水分を蛍光ビーズの動きで直接観察したところ、EOFがない場合は60分後にビーズが動かなくなり乾燥が認められたが、EOFがある場合は60分後もビーズが動いており、水分が保たれていることが確認できた。これらの結果により、EOFがコンタクトレンズと眼球の間の水分保持に効果を発揮するものと考えられる。
最後に、このコンタクトレンズが自立して動作するための電源について検討した。研究グループでは、生体と適合性のある「Mg/O2電池」と「フルクトース/O2バイオ電池」を用意し、実験を行なった。
電池の出力電流と時間経過の変化ついて見ると、ともに電流が低下しているが、どちらの電池も12時間以上の耐久性をもつことがすでに分かっているため、コンタクトレンズの乾燥で抵抗値が上昇したことが原因だと考えられる。次に、イオン伝導度と時間経過の変化について見ると、自然乾燥の場合と比べて乾燥速度が低下していることが両者明らかで、保湿効果が認められた。
なお、各実験は湿度40%の比較的乾燥した環境下で行なわれており、実際に眼球に装着した場合はより高い乾燥防止効果があるという。
眼孔内の水流制御技術は、外部からの給電が不要な自己保湿型コンタクトレンズだけでなく、目薬の放出制御や房水排出の誘起による眼圧制御などへの応用が可能で、点眼器や注射器のような目に関わる新たな機器の開発につながるとしている。