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AI活用など柔軟なエッジ開発にメリットをもたらすSOM+FPGA
~富士ソフトが組込みセミナーを開催
2019年6月13日 12:55
富士ソフト株式会社は2019年6月12日、組込開発者向けの自社イベント「KUMICO Meetup 2019 エッジの悩みを解決するたった一つのポイント~ロボット・セキュリティ・AIの最適解~」を開催した。
テーマは組込み機器に活用される「System on Module(SOM)」。プロセッサ部をモジュールとして切り出した「SOM」を活用することで、プロセッサの性能向上が求められた場合にも、ペリフェラル部(各種センサーと接続するインターフェイスやネットワークのインターフェイス)を変更することなく性能向上が容易にでき、開発工数を短縮できる。同時に、CPU性能の異なる機種やアプリケーションの多様化にも応えられる。
とくにAI技術のように発展過渡期にある技術の活用が求められる今日では、有効なソリューションとなっている。セミナーではドローンやコミュニケーションロボットを組込機器の事例としてSOMのメリットが紹介されたほか、SOMベンダーからプレゼンが行なわれた。今後のエッジ開発の潮流の1つを見るものとしてレポートしておきたい。
ブルーイノベーションの複数ドローンを統合管理するプラットフォーム
まずはじめにブルーイノベーション株式会社常務取締役 ソリューションサービス担当役員の那須隆志氏が「ドローン活用の最前線とソリューション開発における課題」と題してドローン活用の現状と、ドローン活用ソリューション開発におけるソフトウェア、制御、ハード、センサーなどの領域の課題を紹介した。
ブルーイノベーションはもともとは海岸のモニタリング調査を行なっていた会社。そこにドローンによる空撮を持ち込んだことから、ドローン活用に挑むことになり、今ではドローンソリューションを提供する会社となった。なお同社のCTOの熊田雅之氏は元は富士ソフトの社員だった。
将来的にはドローンとロボットを連携させて世界に貢献するグローバルカンパニーになることを目指している。そのためにドローンの管制制御技術を発展させて複数機を統合管理する「lue Earth Platform」を開発している。那須氏は、ブルーイノベーションはドローンの機体ではなく、システム開発に注力していると強調した。具体的アプリケーションとしては、屋内警備ドローンのほか送電線点検、下水管点検、物流ドローン用のポートなどの開発を手がけている。
ドローンは農業、測量、インフラ点検などで活用されはじめており、市場が拡大しつつある。那須氏はインフラ点検、画像解析を活用したビル壁点検などの事例を紹介した。
送電線点検は微妙にたわんでいる電線に沿って飛行する必要があり、GPSである程度までは誘導できるが、その後は送電線を見て飛ぶことになる。また、GPS信号が届かない地下の下水管点検ではなるべく真ん中を飛行する必要がある。那須氏は「最終的には自動飛行が理想。しかし現実的には人による操縦のほうがサービスインは早い。ビジネスでは割り切りも必要となる」と述べた。
最近は在庫管理にもドローンを活用しようという動きがあり、ブルーイノベーションでも開発を行なっている。ドローンで在庫の棚を撮影し、画像解析を行なって、在庫を管理する。画像だけではなく、RFIDを使った在庫管理も行なわれはじめているという。
物流ドローンのポート「BIポート」については長野県伊那市で実証実験を行なっており、画像処理を使って着陸精度10cm以内を実現する技術や、携帯電話の電波を使ったドローン管制技術、遠隔監視技術などを開発している。機体とポート、ポートとサーバ間などは相互に通信を行なっている。当初は国土交通省からの委託で開発を始めたが、いまは民間ベースで進められているという。同社はIHI運搬機械株式会社と共同開発している。
ドローンでできることは「センサーを運ぶこと」であり、センサーが取得した情報の解析は別途開発する必要がある。そのための要求定義は各技術要素ごとに行なわなければならない。センサーはそれぞれ異なるが、データ取得後の処理の共通化による開発高速化も重要なポイントとなると語った。また、ベンチャーならではの大変だった点は、プロトタイプをプロダクトにしていくための資金確保や量産体制の構築だったという。
そして同日に発表されたインドアフライト・プラットフォーム「AMY(エイミー)」を紹介した。施設にマーカーを貼るだけで簡単にセッティングが可能であり、自己位置推定技術±1cmの精度で屋内で安定して飛ばせるドローンだ。約3年間かけて開発してきた技術だという。警備・点検などの用途に展開していく予定だ。
コミュニケーションロボット「PALRO」のSOM活用
富士ソフト株式会社 プロダクト事業本部 PALRO事業部 AI開発室室長の石田卓也氏は「コミュニケーションロボットPALROの概要とテクノロジー」という演題で、富士ソフトのコミュニケーションロボット「PALRO(パルロ)」の概要と技術を紹介した。
「PALRO」は2010年に主に教育研究用として出荷されたあと、2012年にビジネス向けが出て、現在は主に高齢者福祉施設で活用されている。24カ月レンタル契約の場合は月3万円からで、全国1,300以上の高齢者向け施設で活用されている。
高齢者福祉施設では「高齢者の明るく楽しい健康で豊かな生活を応援する」ことを目的としており、なかには人とはにこやかに対応しない人がPALRO相手だと笑顔になるといった、開発者たちも予想しえなかった事例もあるという。できることは日常会話、20分ほどの介護予防のレクリエーションでの活用、健康体操など。これらの機能を活用することで、高齢者のQoL向上のほか、ロボットが高齢者の相手をすることで、その間は多忙なスタッフの手を空けることによる負担の軽減を担っている。
PALROは基板設計からソフトウェア開発まで全て富士ソフトが行なっている。PALROには、頭部の4つのマイクを使った音方向検知、カメラを使った顔認識、音声認識処理などの各種エッジ技術が搭載されている。コミュニケーションロボットにおいてとくに重要なのはレスポンスで、たとえば挨拶に対しては0.6秒以内で返すことができる。このような高速応答はクラウド処理ではできないし「ここまで実現しているロボットはほかにはない」と石田氏は自信を見せた。
PALROの基板は4枚構成。SOMを搭載したドーターボード、腹部側に配置されサーボIFを搭載するサブボード、両者のジョイントボード、そして測距センサーやタッチセンサー、マイクIFなどを搭載した頭部制御用ヘッドボードからなる。
現在のボードはCONGATEC製。わざわざこのような構成になっている理由は、PALROは二足歩行も行なえるロボットであることを売りにしているため。バッテリ類ほどではないが、基板にもそこそこの重さがある。歩行のためには基板を含めた重心バランスも考慮して設計する必要がある。移動ロボットの設計においては、このような点も重要になる。
開発当初はCPU・ペリフェラル込みの1ボードだった。しかし当初は開発側もPALROをどう使うかさえもわかっていなかったため要求スペックの変動が予想されたことと、一方で開発期間が限られていることから、SOMの採用に至った。SOM採用によって、CPUリソース要求の増大、PALRO内部の監視系プログラムの増加、量産コスト低減などの要求にこたえることができたという。
最後に石田氏は「ロボットは幅広い用途が期待されることが多いし、開発者側もそれを期待している。用途が広がると機能・仕様の頻繁な変更が必要となる。また技術革新も早い。高応答性を実現するにはエッジ側での処理が重要であり、そのためには少しでも良いCPUを使う必要がある。それらを満たすのがSOMだ」と述べた。
なお「PALRO」には岡村製作所「ROBOTALK」、DMM.com「Palmi」、講談社「ATOM」など、兄弟機がある。「富士ソフトではODMでのロボット開発にも対応できるので、ロボット開発を手がけたい会社は声をかけてもらいたい」と述べた。
SECOはARMならQsevenがオススメ
イタリアのSOMのベンダーであるSECO S.p.Aセコジャパン日本代表の安池聡氏はSECO社の取り組みについて紹介した。SECOはイタリア・フィレンツェから車で1時間ほどのアレッツォに本社を置く小型ボードの企業。SOMは2008年から出荷している。
SECOのSOMはARMアーキテクチャとx86アーキテクチャの両方で、標準フォームファクタに対応している。安池氏は「SOMは開発期間短縮・リスク低減に寄与できる。中・小数量ではベストコストソリューションだ」と述べた。SOMだけを変えて異なるCPUを使った機種を販売することもできるからだ。また上位機種のCPUが出てきてもキャリアボードはそのまま使えるので、最新CPUを試すことも可能だ。
SOMにはETX、COM Express、Qseven、SMARCの4規格がある。ETXは古くなりつつあり、主流はCOM Express。SECOでは、CPUがCoreiシリーズならCOM Express、ATOMならば低コスト低消費電力を実現したQsevenを推している。SMARCはARM向け規格だったが、x86対応も可能になっている。
Qsevenはドローン、医療機器関連レコーダー、工場制御、セキュリティカメラなどに用いられているという。たとえば医療機器向けレコーダ機器開発の場合、従来はシングルボードだったものをSOM+キャリアボードとすることで、キャリアボードだけに開発範囲を狭め、消費電力を下げ、小型化、CPU性能の適正化ができ、システムの効率化を図りつつ、コストを維持することができたという。顧客側は独自性の向上に注力できるようになる。顧客からはボード設計や製造に関するドキュメントの充実を評価されたと述べた。
Arborは産業用にもSOMを押す
台湾のSOMベンダー、Arbor Technology Sales Department DirectorのIvan Huang氏は「SOMが組み込み開発にもたらす大きなメリット」として、産業用・IoT向けのソリューションを紹介した。
Arborはスマートヘルスケアや小売などのハードウェアに注力しようとしているという。Arborは「NODE Watch」というクラウドソリューションを展開しており、顧客に提供した端末の管理を行なっている。希望顧客に対してはソフトウェアアップデートなどを遠隔で行なうことができる。生産工場は台湾と深センにある。Huang氏は幅広い温度耐性や防塵防滴、振動への耐性をアピールした。
SOM活用については、インターフェイス等のペリフェラルはそのまま、新しいプロセッサが搭載されたSOMを差し替えるだけで最新ハードウェアに置き換えることができるようになり、組込機器設計の労力を低減し開発期間を短縮できることを改めて強調した。同社は、とくにストリーミング機器の開発や、医療関係機器に必要な認証に強みを持っている。またカジノゲーム機にも同社のSOMが用いられている。カスタマイズやアップグレードが容易な点が評価されているとのことだった。
SOM+FPGAの構成が柔軟性をもたらす
最後に、富士ソフト株式会社 プロダクト事業本部 エンベデッドプロダクト事業推進部 ディストリビューションビジネス室 室長の姫野呂裕氏が「AI、ロボット、セキュリティの製品開発に最適なハードウェア選定」と題して講演した。
富士ソフトの売上のうち組み込みは3割程度。組み込みではソフトウェアだけでなくハードウェアの開発まで手がけている。28社600製品を扱っている。組み込み開発実績は2,000社以上。
エッジコンピューティングとは、クラウドやサーバーで行なっていた処理を、よりユーザーに近い組込機器側で処理を行なうことで負荷を分散、低遅延で処理を行なう概念だ。IoT市場の成長とともに、通信帯域や上位層のリソース負荷分散の必要が出てきて注目されるようになっている。とくに、AI、ロボット、セキュリティ分野が盛り上がっている領域だと言われている。エッジ側でリアルタイム要求の高い処理を行い、クラウドの帯域やリソースの負荷を下げる。また、クラウドとエッジの中間に「フォグ」を入れて負荷を下げるといった概念もある。
この分野は進歩が早い。製品リニューアルも早くなっている。差別化も図らなければならない。そこで出てきている解の1つが仮想化だ。
プラットフォーム化も進められつつある。ハイパーバイザー上で複数のGuestOSを実行するハードウェア仮想化、コンテナやDockerを使ったソフトウェアの仮想化も進められている。だがハードウェアのスペックが足りない状況に陥る場合は少なくない。そこで、物理的にもフレキシブル性を持たせるのがSOM+キャリアボードの組み合わせだ。さらにキャリアボードにFPGAを載せると、より仮想化を進めることができるようになる。
姫野氏は、SOMとGPUボードを組み合わせた例を示した。それをFPGAに置き換えたところ、過剰スペックを抑えて最適化することができたという。FPGA、GPU、CPUそれぞれの組み合わせが重要だ。
GPUは処理速度は速いが発熱量・消費電力が高く、使い勝手が悪い点がある。そこでGPUはクラウド側で用いて、CPUとFPGAをエッジ側で使うのが重要なのではないかと述べ、「SOM+FPGAは最高の柔軟性を持つ」と強調した。FPGAの回路設計も、自動化設計手法の「高位合成」を用いることで参入障壁が下がっていることから「ソフトウェアエンジニアはぜひ活用すべきだ」と述べた。