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中央大学、フラッシュメモリの寿命を予測するAIを開発
2019年6月10日 07:30
中央大学 理工学部の竹内健教授らのグループは、ニューラルネットワークを用いて、データを保持できる時間や読み出し可能な回数といった、フラッシュメモリの「メモリ寿命」を出荷前に予測する技術を開発したと発表した。
ニューラルネットワークを用いることで、フラッシュメモリがデータを保持できる時間や、読み出し可能な回数といった「メモリの寿命」を、製品の出荷前に予測(推論)することに成功したという。
具体的には、ニューラルネットワークを用いて、工場内(出荷前の状態)で、書き換え回数が1回の条件(ストレス前)から、書き換え回数が2,000回(ストレス後)のエラー率(ECC Decoding Fail Rate: EDFR、誤り訂正符号の復号に失敗する確率)を予測している。
フラッシュメモリは、PCやスマートフォンのストレージなどさまざまな用途に使われているが、用途によって求められる信頼性(寿命)が異なる。たとえばアーカイブ用途では、1度データを書き込んだあとは頻繁な書き換え/読み出しが行われないため、データ(コールドデータ)では、長期間のデータ保持性能が求められる。
一方、SNSの画像や動画データのように、頻繁に読み出しが行なわれるデータ(ホットデータ)の場合は、読み出しディスターブ(読み出し時にメモリセルに弱い書き込みストレスが印加される)が問題となり、用途によってフラッシュメモリに求められる信頼性/寿命が異なるという問題があった。
今回の研究で予測されているEDFRは、フラッシュメモリの信頼性を表すもので、コールドデータではデータ保持時間の予測に、ホットデータではリード可能な回数の予測に相当する。
それらの予測により、ニューラルネットワークが「データ保持時間が長い」と予測したチップは、コールドデータの保存に適しているため、長いデータ保持が求められるアーカイブなどの市場に出荷し、逆に「読み出し可能な回数が多い」と予測されたチップは、頻繁に読み出しが行なわれる市場へとそれぞれに選別して出荷することが可能となる。
出荷後にはニューラルネットワークを用いて、エラーの発生したメモリセルを検出することも可能で、エラーしたメモリセルのデータを反転することで、エラーを訂正することも可能になるため、フラッシュメモリの耐久性の向上にも貢献するという。
実験の結果では、約9割の確率でエラーを検出することに成功したとする。
中央大学では、本技術によって幅広い用途で要求されるさまざまな寿命(信頼性)を的確に満たすことができるため、フラッシュメモリがさらに多くの用途で使用され、市場の拡大が期待されるとしている。
また、研究は実用化に向けて初歩的な検証を行なった段階であり、今後の課題として、フラッシュメモリは大量に出荷されるために、チップの間でバラつきが生じるが、実際にどの程度のバラつきが存在し、ニューラルネットワークの予測(推論)にどのような影響を及ぼすかは大量のメモリを測定して検証する必要があるとした上で、ニューラルネットワークの推論は対象に多少のエラーがあっても結果は変わらないため、メモリチップのバラつきに対してもロバストであることが期待されるとしている。
研究成果は、6月10日~14日に京都で開催される「IEEE Symposiaon VLSI Technology」で発表される。