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VAIO、ナイルワークスの農業用ドローンを量産
~ドローン生産工場と初出荷を報道公開
2019年5月27日 06:00
株式会社ナイルワークスは2019年5月24日、VAIO株式会社を委託先とした量産化体制を住友商事とともに構築したと発表し、ドローンの出荷式を安曇野にあるVAIO本社で行なった。
ナイルワークスは2015年1月に創業した農業用ドローンの設計/開発/製造/販売、生育診断技術・栽培技術の研究開発、農業クラウドサービスの開発・販売を行なっているスタートアップ。VAIOは2014年にソニー株式会社から独立、PC事業に加えて小型高密度設計・製造を活かしたEMS事業、ソリューション事業を進めている。合わせて、VAIOとドローンの生産の様子も公開された。
ナイルワークスの自動飛行型農薬散布マルチコプター「NileT-19(ナイルティー19)」は、センチメートル精度で自動飛行ができる農業用ドローン。最大8Lの薬剤を搭載し、1haあたり15分で散布できる。6月から販売開始され、量産化モデル第1弾となる。
大きさは1,820×1,410×823mm(幅×奥行き×高さ)。重量は18kg(機体13kg、リチウムイオン電池5kg)。プロペラ径は約66cm。プロペラ数は8。水洗い可能な防水構造で、飛行時間は15分から20分。最高時速は20km。飛行可能風速は10m/s、散布時は3m/s。フライトコントローラはナイルワークス独自。各種センサーは加速度3軸、角速度3軸、地磁気3軸、気圧、ソナー、RTK-GNSSなどを搭載している。さまざまなセンサー情報の組み合わせや重み付けを、その場その場で最適になるようにダイナミックに調整することで、高精度な飛行ができるという。
操縦装置はAndroidタブレットで行なう。事前に圃場のかたちを測量し、タブレットに登録するだけで飛行経路が自動設定される。農薬散布時には「開始」ボタンを押すだけで離陸・散布・着陸までを自動で行なう。
ドローンを作物上空30〜50cmの至近距離で飛行させ、上下2枚のプロペラを逆回転させてまっすぐな気流を作ることで、薬剤の飛散量を抑えることができる。薬剤の散布ポンプのオン/オフタイミングと薬剤吐出量は飛行速度と薬剤の必要量に応じて自動調節される。
また、搭載したカメラを使って作物の生育状態を1株ごとにリアルタイムで診断し、その結果に基づいて最適量の肥料・農薬を1株単位の精度で散布する新しい精密農業の実現に取り組んでいる。ナイルワークスはこのドローン技術で2018年の「第8回
ロボット大賞」農林水産大臣賞を受賞している。
生産予定台数は来年(2020年)が500台、再来年が2,000台、さらにその翌年が4,000台。加えて海外生産も行なっていくとのこと。現時点では稲を対象としているが、今後、小麦への対応も進めていく予定。
安曇野発の技術で日本の農業を変える
出荷式ではナイルワークス 代表取締役社長の柳下洋氏が、30年前、はじめてAIを使った商品を企画した当時の話を振り返った。そのきっかけはソニーが当時作っていたワークステーション「NEWS」だったという。既存の製品よりも圧倒的に安い価格で発表されたワーククステーションを柳下氏は発表されてすぐ予約し、8年間使い続けた。
NEWSからは、「使いながら技術者からのメッセージが伝わってきた」という。必要なものはすべて載っているが余計なものが載っておらず、ほとんどのソフトウェア、開発環境のソースコードも開示されていた。NEWSが作られたのは安曇野であり、柳下氏にとって「安曇野は聖地に近い場所だった」という。「私は安曇野が生んだNEWSに育てられた。私はいわば安曇野の孫である」と述べ、「つまりこのドローン(NileT-19)は曽孫」と語り、会場の笑いを誘った。そのくらい安曇野とは縁が深いという。
そして「良いものを作りたい。どうすれば相手が喜ぶか」といった製品に込められた「技術者の思い」は必ず相手に伝わると続け、日本の農業は必ず最先端になると述べた。会場に集まった出資者たちはいわば「大きな家族」だと続け、「ファミリーひとりひとりの思いがここに凝縮されている。ふらふら飛んでもがんばれという気持ちになる。それは重要なこと。われわれの思いはきっと(ドローンを使う)農家さんたちにも伝わる。きっと迷惑もかけるが思いを込めればそれは必ず日本全体に伝わり、農業を変えるところにつながる。そういう願いがある」と挨拶した。
量産を担当するVAIO 代表取締役社長 吉田秀俊氏は、「昨年(2018年)夏にこの話をいただき、10カ月くらい経った。自分たちの成果がかたちになって飛んでいる姿を見ると感無量」と述べた。
展示会でナイルワークスの柳下氏とドローンに対面した吉田氏は、さまざまな技術的優位を持っていることはもちろんだが、プロペラガードが最初から付いていることについて質問したときに、柳下氏が「お客様の視点で安全なものを届けないといけない。安全設計を肝に命じ、つねに顧客視点で開発している」と答えたと振り返り、「VAIOが製造受託するには、こういう人たちと、共感できるものをやりたい。ぜひやらせてもらいたいと言った」と述べた。柳下氏から熱い気持ちで語られた「日本の農業を変える」ことに参加させてもらいたいという気持ちで量産を引き受けたという。そして日本の農業に貢献したいと述べた。
ドローン製造の様子も
今回、実際にドローンを製造している様子も公開された。ドローン内部のコントローラなども含めて公開されたのだが、写真の掲載は一部に制限された。ドローン組み立ては心臓部であるコントロールユニット、散布ユニット、フレームの3種類に分けられる。コントロールユニットは要するにPCだ。内部はメインボードのほか、8つのモーターを制御するモータードライバーが収められている。
ナイルワークスのドローンは屋外向けドローンだ。組み立ての前に防水シールをしたり接着剤で固定したりする必要があるため、組み立て前日に固定し、1日養生してから組み立てを行なっている。農薬散布用のホースはさまざまな長さのものがあるが、ロールからカットして使用している。骨組みはカーボンのパイプだが、モーターなどの線材(配線)はやや複雑で、難易度が高いとのこと。
一部のセンサーのキャリブレーション・検査は組み立て途中で屋外で行なっている。最後まで組み立てたあとはモーター検査をした上で、最終的に飛行試験を行なう。ドローン組み立てに用いる治具兼台車も特注だ。
各工程で細かくチェックが入るVAIOの生産ライン
合わせて、VAIOを生産・出荷している様子も公開された。まず見せてもらったのはVAIO S11、S13、SX14の3モデルを切り替えながら生産しているライン。VAIOは顧客からのオーダーによってCPUやメモリ、キーボードのタイプや拡張クレードルの有無などが異なる。種類が多いと間違いも出やすい。そのため1台1台に固有IDが振ってあって、生産システムと連動しながら組立チェックを行なっている。
パームレストはアルミの板の上に樹脂部品を搭載している。以前はビス固定だったが重さや厚さを抑えるため、今はボンド塗布で接着している。部品によっては両面テープを使うものもあるが、設備を使ってボンド塗布をするほうが正確で、かつ強度が出るという。実際に0.5mm厚のアルミ板を両面テープで貼り合わせたものとボンドを使ったものをさわってみると明らかにまったく強度が違っていた。
ただしボンドも良いことばかりではない。ボンドは塗布したらすぐに取り付けないといけないし、一方で、固まるまでふれず、養生する時間が必要なので、次の工程にすぐ回すことはできない。生産においては制限が出てくる。だが薄くて軽く堅牢性のある製品を作るために、ボンドを採用しているのことだった。ボンドを塗布したあと部品を載せていくのだが、その塗布からの時間などもすべてバーコードで管理されている。
製品のかたちにした後は検査だ。VAIOでは検査用のWindowsを入れて、検査プログラムを走らせている。一番気にしているのはタッチパッドやキーボードなどのフィーリングで、そのチェックは人の手で行なっているという。なにかあると生産設備の人間が呼ばれてすぐにチェックするとのことだった。Wi-FiやLTEなど無線関連についてはシールドボックスを使って検査している。検査が終わるとエイジングと、顧客が注文選択したアプリケーションを入れ分けて、完成となる。
最後は梱包だ。注文に応じて、同梱するマニュアル類も言語やアプリケーションによって異なる。ここも生産管理されている。作業者は生産履歴と連動する作業補助ランプを使いながら、間違いがないよう梱包していく。このように最終的にパッケージされる段階までなにを梱包するか1つずつチェックされている。
安曇野ではソニー時代からモビリティが高くハイパフォーマンスのセットを作ることが多く、そのため求められる基板は、より小さく薄く部品点数は多くなった。結果的に高密度高実装に強くなったという。
たとえば「VAIO Z」のボードの場合は、長辺が30mmを超えるコンシューマ向けとしては大きなパッケージと、顕微鏡でないと見えないような0.6×0.3mmサイズの部品が混載している。部品のサイズが違うと難易度が高いという。VAIO Zのボードの場合は、ハンダのリフローを行なうさいにアルミ製のキャリアの上に載せて焼いている。基板が薄いとそりやすく、また大きなパッケージのものを載せていると不良が出やすいためだ。そのためキャリアを作ってサポートしている。