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ミクシィ、阪大、東大、ワーナーがロボット「オルタ3」によるアンドロイド・オペラを披露
2019年2月28日 17:58
株式会社ミクシィ、国立大学法人大阪大学 基礎工学研究科 石黒研究室、国立大学法人東京大学 総合文化研究科 広域科学専攻 広域システム科学系 池上研究室、株式会社ワーナーミュージック・ジャパンの4社は、2019年2月28日、新国立劇場で「4社共同研究プロジェクト合同記者発表会」を開き、アンドロイド「オルタ3」を公開した。人間と人工生命・アンドロイドとのコミュニケーションを通して、人とアンドロイドによる新たなエンタテインメントの可能性を探る。
アンドロイド+オペラによる非日常
「オルタ(Alter)」は、機械が露出したむき出しの体と、性別や年齢を感じさせない顔を組み合わせることで、人の想像力を喚起し、生命性を感じさせることを目指したアンドロイドロボット。空気圧アクチュエータで動作し、CPG(セントラル・パターン・ジェネレータ)とニューラルネットワークを組み合わせた制御システムによって操作される。2016年8月に公開された初代機を含めて、これまでにも2台製作されている。
「オルタ3」は外界との相互作用による動作生成技術をさらに推し進めて、海外を含めた運用を容易にするために、より堅牢で、継続的に使用可能になるようなデザインを目指した。また動作生成には、東京大学 池上研究室が理論設計し、オルタナティヴ・マシン社が開発したダイナミクス生成エンジン「ALIFE Engine」を使用している。
オリンピック年である2020年8月には、指揮者の大野和士氏、作家の島田雅彦氏、音楽家の渋谷慶一郎氏が共作する新国立劇場の特別企画に参加する。子供たちとアンドロイドが創る新しいオペラで、「オルタ3」が物語の核となる役で出演し、もう一方の核となる100人の子供たちによる合唱と、相互に関わり合いながら歌い、演じて、アンドロイドと子供たちの友情のドラマを紡ぐという。
そのほかプロのオペラ歌手と新国立劇場合唱団も出演し、管弦楽は東京フィルハーモニー交響楽団が務める。新国立劇場バレエ団も参加する。「新国立劇場始まって以来の全ジャンルのコラボレーション」となる予定だ。
日常と非現実的存在の組み合わせで人の想像力を喚起させる
会見でははじめに、オルタのシミュレーターを提供する株式会社ミクシィ代表取締役社長執行役員の木村弘毅氏が「4社共同研究プロジェクト」の概要を説明した。木村氏は「コミュニケーションによって世の中を鮮やかに変えていくことが当社のミッション。人類のコミュニケーションを根元から変えるこのプロジェクトに共感して共同研究を進めてきた」と述べ、大阪大学教授の石黒浩氏、東京大学教授の池上高志氏、ワーナーミュージック・ジャパン エグゼクティブ プロデューサーの増井健仁氏を呼び込んだ。
大阪大学の石黒氏は4年前から池上氏とオルタの共同研究を始めたと振り返った。そして「通常のVRは現実で非現実を体験するが、『オルタ』は非現実的なものを日常のなかに持ち込んで人を繋ごうとしている」とプロジェクトの核心を紹介した。
東京大学の池上氏は、「AI(人工知能)は人がやっている作業を自動化するものだが、Alife(人工生命)は自律的に行動するのでわれわれにもどうなるかわからない。アルゴリズムを抽出し、ALIFEエンジンを作って、オルタを作った。オルタ=オルタネイティブマシンには『これまでの機械とは全然違うもの』という意味を込めている」と語った。
ミクシィの木村氏は同社が開発したシミュレーターの概要を簡単に紹介し、コンピュータ上でアンドロイドの動きを再現できると述べた。また、「ミクシィにとっては大きな取り組み。こんなクールなものを作れるのは日本だけ。ハイカルチャーのなかでこういった表現をしていくのが日本としてやっていくべきことだろう。我々としてもぜひ応援していきたいと考えている」と述べた。
ワーナーの増井氏は「われわれはエンタメ業界で、これまでは人で作ってきたが、人とアンドロイドでどんなエンターテイメントが作れるのか試していきたい」と語った。海外に対しては「人間と人間のコミュニケーションではない新しいアートのかたちが響くのではないか、それを伝える使命があるのではないか」と考えているという。
「オルタ3」の「ALIFEエンジン」は一般利用も視野に
「オルタ3」開発については、大阪大学の小川浩平氏、東大の土井樹氏、ミクシィの村瀬龍馬氏の3人が紹介した。小川氏は「今回おそらく一番人間の想像力を喚起できるロボットを作ることができた」と述べた。土井氏は「オルタ3」の運動を制御する「ALIFE Engine」について簡単に紹介した。池上研究室での人工生命研究成果をいかしたもので、研究者だけではなく一般の人にも使ってもらえるものを目指すという。
ミクシィの村瀬氏はシミュレータ上で仮想空間上でロボットの動作チェックを行えるツール「Alter3 Simulator」について改めて紹介した。動作テストや演出チェック、衝突検知などを本体に依存することなく仮想的に検証できるようになった。シミュレータを使うことで世界をまわるツアーなどにも対応しやすくなるし、本体を動かせないときの確認や演出チェックも容易になると述べた。
シミュレータ自体はミクシィがこれまでのゲーム開発などで使っていた「Unity」を使っている。アンドロイド開発で新しい経験を積むことができたという。今後は「ALIFE
Engine」とも組み合わせて、アルゴリズム開発や、事前リハーサルが難しい大規模会場を想定した演出のチェックなどにも貢献できるのではないかと考えているという。
アンドロイド・オペラ「Scary Beauty(スケアリー・ビューティ)」
「アンドロイド・オペラ『Scary Beauty』」は、人工生命研究者が集う「ALIFE 2018(人工生命国際学会)」のパブリックプログラムとして 2018年7月に、日本科学未来館(東京・お台場)で初演が行われた。当時は「オルタ 2(Alter2)」が人間のオーケストラを指揮し、それを伴奏に自ら歌う姿を披露した。作曲とピアノは音楽家の渋谷慶一郎氏が担当した。
アンドロイド・オペラの発案者である渋谷慶一郎氏は、池上氏とのノイズや立体音響に関する共同研究から今回のプロジェクトに参画するようになったと経緯を紹介した。2012年のボーカロイド・オペラ「THE END」などのあと、池上氏から「次に何をするのか」と問われたときに、「アンドロイドのオペラを作りたい」と答えたときに、たまたま石黒氏と知り合い、そして「オルタ」を使ったオペラができあがるに至ったという。
渋谷氏は「アンドロイドは人間のようなものだが、まだそれに人間は感動できていない。テクノロジーは心地よいものは多いが、ヤバイもの、心に刺さるものがない。『死』と『生』が僕の大きなテーマ。アンドロイドにしかできないものと人間にしかできないものを掛け合わせるとすごくビビッドなものができる」と語った。「命がないものに命を与える作業をこのプロジェクトでやっていると思っている」という。
「オルタ3」は従来どおり空圧アクチュエータで動作しているが、従来機よりも速度やロバスト性が改善している。渋谷氏にとっては「人間に似た動きができるが、人間の動きとは異なる動きもする。その不完全な状態の指揮に人間が戸惑うところ」が面白いという。
ワーナーの増井健仁氏は、2018年7月の未来館での公開後に各国から問い合わせがきており、今年1年間、世界に打って出たいと述べた。
今後は海外展開、2020年には新作も
「オルタ3」は、『Scary Beauty』を筆頭に、日本科学未来館キュレーターの内田まほろ氏の企画によって世界各地での展示が計画されている。なお日本科学未来館では「オルタ」を常設している。内田まほろ氏によれば「オルタは、人間と機械、プログラムの境界を少しずつ越えながら、目の前のお客様に感動や驚き、思考する時間を与えている」とのこと。とくに海外の来館者からの評価が高いという。
今後については「日本の文化と技術を背負って世界の各地でオルタと人々が対話する」と述べ、3月にデュッセルドルフでの展示を先駆けとして、世界各地で色々な人と対話してもらいたいと考えているとした。
2020年、オリンピックとパラリンピックのあいだの時期に公開される予定の新作については、新国立劇場 芸術監督の大野和志氏と小説家の島田雅彦氏が壇上に加わって紹介した。大野氏によれば、「ロボットと100人の子供たちが合唱して、受け取った知恵をもとに人間の未来を考えたり想像したり、人間の普遍的な姿を子供たちが確信していくというストーリー」のオペラになるという。
作曲は渋谷慶一郎氏、台本は島田雅彦氏が執筆する。さまざまな斬新な場面が登場する予定で、80人のオーケストラのなかで人間とアンドロイドが、人間の未来を演繹するとのこと。
島田氏は「今回のオペラはまだ見ぬ未来を考察するもの」と述べ、フィリップ・K・ディックのSF「ヴァリス」も紹介しながら、「わかりやすいオペラを心がけている」と述べた。すでに台本は仕上がっているという。大野氏は「子供も楽しめるし、一般のオペラファンにとっても興味深い内容になる」と自信を示した。流れとしては、もともと子供たちを迎えたオペラを2020年にやりたいという話があって、それと別に進んでいたアンドロイドオペラの話が企画のなかで融合したという。