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ロボット接客カフェ「DAWN ver.β」が期間限定でオープン
~ロボットによる障がい者の働き方改革の可能性を探る
2018年11月26日 17:21
日本財団、株式会社オリィ研究所、ANAホールディングス株式会社は一般社団法人分身ロボットコミュニケーション研究会と協働して、「分身ロボットカフェ DAWN ver.β(ドーン・バージョン・ベータ)」を障がい者週間に合わせて11月26日から12月7日までの期間限定で開くと発表し、26日に記者会見とテープカットを行なった。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者や脊椎損傷者など、これまでは就労の対象として考えられなかった重度障がい者が、株式会社オリィ研究所が開発している分身ロボット「OriHime-D(オリヒメ・ディー)」を遠隔操作することで働く実験カフェ。今回は約10名の障がい者が交代でカフェの注文・接客を行なう。
日本財団は2015年4月から就労モデルの構築と人材育成を二本柱として障がい者就労の環境改善を目指す「はたらくNIPPON! 計画」プロジェクトを展開している。今回のカフェもこのプロジェクトの一環。ANAはロボティクスやVR技術を組み合わせた遠隔操作ロボット「AVATAR」を利用するサービスを開発しようとしている。
チケット代金は1人1,000円。当日チケットは27日(火)の12:00から会場で販売する。1時間交代制で、13:00、14:00、15:00、16:00からの部がある。
カフェテリア以外でもオリィ研究所の分身ロボット「OriHime」や視線入力PC「OriHime eye」の体験などができるコーナーが設置されており、こちらは自由に見学できる。
ロボットを使った障がい者の働き方改革の可能性を探る
日本財団会長の笹川陽平氏は「我々の調査では、日本の障がい者のなかで社会で働ける可能性のある人が600万人がいる。障がい者=社会からの支援がないと生活できない人たちと考えがちだが、これは大きな間違いだ。
『1億総活躍時代』で人手不足のなかで、働く可能性のある人をもっと活用することが大切だ。福祉政策には制度疲労も起きてきている。どんな可能性があるのか探りながら社会に健全なかたちで参画できるのが1億総活躍時代の正しいあり方なのではないか。ロボットを使って障がい者の働き方改革の可能性を探り、誤った考え方を訂正していく必要がある」と挨拶した。
株式会社オリィ研究所 代表取締役CEOの吉藤健太朗氏は、最初に、4歳で交通事故に遭い、その後、脊椎損傷によって盛岡の病院で寝たきりとなったが昨年亡くなるまで吉藤氏の秘書を務めていた、故・番田雄太氏と一緒に開発してきたロボット「OriHime」を紹介。
「OriHime」はインターネット経由でロボットの手・首の向きを動かして相手と会話ができる20cm程度の卓上サイズロボット。カメラ・マイク・スピーカーが搭載されている。2009年から「利用者にとっての分身となるロボット」として開発され、2015年からビジネスレンタルを開始した。
「OriHime-D」は「OriHime」をもとに2018年7月に開発された身長120cmの等身大サイズロボット。上半身に14自由度を持ち、500g程度の物体を運ぶことができる。意思伝達用の視線入力装置「OriHime eye」を使って操作する。番田氏と相談しながら肉体労働ができるテレワーク「アバターワーク」ができるロボットとして開発した。
視線入力装置「OriHime eye」は、眼や指先しか動かせない重度肢体不自由患者のための意思伝達装置。視線入力で透明文字盤を操作して、文字を入力し、読み上げることができる。価格は45万円(非課税対象商品、補装具費支給制制度を活用可)。ALSでも最後まで筋力が残る眼球運動を活用して、ロボットが操作できる。
これらの技術によって、身体が動かない人みんなで活躍できるロボットカフェができるのではないかと考えて8月に会見を行なったところ、各所から声がかかり、そのなかからANAホールディングスと一緒に今回の取り組みを実施するに至ったと紹介した。
現在の「OriHime-D」については、「何もできない」と紹介した。能力としては、移動と簡単な相槌を打つことしかできない。今回の実験で、カフェの利用者を含めた1,000人程度からアンケートをとり、さまざまな意見を収集して、実験中にも機能を増やしていき、最低限必要な機能は何か探っていきたいと考えているという。また一緒に働きたい人、企業も継続して募集していく。
ANAホールディング株式会社取締役会長の伊東信一郎氏は、同社がすすめる「ANAアバタービジョン」とオリィ研究所のビジョンが共鳴して今回の取り組みに至ったと紹介。分身ロボットを離れたところから操作することで、あたかもその場にいるように見たり聞いたり感じたりすることができる技術を目指す。それを「新しい移動手段」とみなして、ANAで取り組みを行なっている。
現在は、大分県などで遠隔観光事業をすすめている。東京から遠隔操作で釣りを行なったりできる。「今まで不可能だったことが可能になる、すべての人がつながる、より良い世のなかを作っていきたいと考えてこの活動に参画した」と述べ、今回は沖縄の「美ら海水族館」と「大分サファリパーク」に「OriHime」を設置したので、来場者にはアバターブースから体験を実感してもらいたいと紹介した。
以前から吉藤氏と知己があったという衆議院議員の野田聖子氏は「ICTを使ったテレワークに20年来取り組んできた」と述べ、障がい者施策については2つの顔を持っていると自身のことを紹介した。
1つは国会議員として、障がい者にもできることがあるということを示し、人の気持ちを変えて、仕事とマッチさせていくこと。もう1つは障がい児の母親としての顔だ。障がい者は家族とセットで動いていることが多い。親がいるかぎりは守られるが、親は自分がいなくなったあと、自立できるかどうか不安に思わざるを得ない。吉藤氏らの技術革新によって親自身も解放されることを望んでいるという。今回のロボットは「障がい者だけではなくすべての人のためのツール」だと祝辞を述べた。
分身ロボットで身体が1つしかない時代を超える
吉藤氏は「身体が1つしかないのではなく、将来は分身ロボットを使って、自分で自分の介護ができるくらいにしたい」とコメントした。ANAホールディングス株式会社アバター・プログラム・ディレクターの深堀昴氏は、吉藤氏と出会って、実際にALSの人と一緒に開発しているリアリティに感銘を受け、日本財団のビジョンに共鳴して参画したと述べた。
吉藤氏は「アバターロボットができると、むしろ自分自身も一緒に動きたくなる。移動手段を使う大変さを突破するモチベーションをアバターで見つけてもらって、そのあとに物理的移動につなげてもらいたい」とした。
今回の取り組みが「なぜカフェだったのか」という質問については、吉藤氏と番田氏が最初から「将来はカフェをやろう」といっていたからだという。パイロットに関しては今回は30名くらいの応募があり、書類で第3次審査くらいまでやったとのこと。面接を通し、カフェでの接客コミュニケーションをやることで、今後、さらに道案内などにも繋げていけるのではないかと感じたと可能性を述べた。
日本財団ソーシャルイノベーション本部公益事業部シニアオフィサーの竹村利道氏は「働ける可能性は誰にでもある。日本財団は実験ではなくイノベーションを起こすハブとなって社会を変えていきたい。この国には多様な潜在能力がある。その方々の1つのツールとしてOriHimeは活用できる。「できない」という社会の意識を変えるために、このツールを使って、私たちは働けるということの実証を実現していきたい」と抱負を述べた。