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パナソニック、夜間でも250m先の物体を検知できるTOFセンサーを開発

~1光子を1万倍以上に増倍するアバランシェ・フォト・ダイオード画素を導入

 パナソニック株式会社 オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社は3日、視認性の悪い暗闇で人やモノを検知することを目的として開発した、TOF(Time-Of-Flight)方式距離画像センサーについて、技術セミナーを行なった。

 1光子の微弱な光を1万倍以上の電子に増倍して検出する、光電子増倍機能を持つ「アバランシェ・フォト・ダイオード(APD)」を画素に導入。超高感度化技術を用いて、微弱な反射光を捉えて高密度な距離画像を実現する。

 また、チップサイズを従来のAPD画素を用いた場合に比べて半分以下に小型化し(12×8mm)、従来比4倍の25万画素を実現した。

開発された距離画像センサー
チップ写真

暗闇のなかでも小さく遠くのものが見えるセンサー

APDイメージセンサによる取得画像

 従来のセンシング技術では、真っ暗な状況では光が弱くて見えにくい。小さいもの、遠いものはさらに見えにくい。

 同社技術本部 センシングソリューション開発センター センシングシステム開発部 開発2課課長の香山信三氏は、今回のTOFセンサーは「暗い中でも、小さく、遠いものが見える技術だ」と紹介した。

 超高感度な画素技術、高解像度化技術、そして近いところから遠いところまでを画像で距離計測ができる、3つの技術によって実現したという。

暗闇のなかで遠くの小さなものを見ることを目的としたセンサー
パナソニック株式会社 オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 技術本部 センシングソリューション開発センター センシングシステム開発部 開発2課 課長 香山信三氏

 通常のイメージセンサーに用いられているフォトダイオードでは、1光子から1電子を生成するため、微弱な信号に対してはノイズに弱い課題があった。

 APDは、1光子から生成した1電子に強い電圧をかけることで、物質中のほかの電子と衝突させる。これを初期のトリガーとして、次々に衝突が繰り返されて、雪崩(avalanche、アバランシェ)のように信号を増倍させる。

 これによって、微弱な光の少ない光子量であっても、光電子を増倍させることで、暗闇のなかでも画像情報を取得できるようになった。

通常のCMOSセンサーは1光子から1電子を生成する
光電子増倍機能アバランシェ・フォト・ダイオード(APD)

 従来は、APDを使って高感度化するためには、横に電子蓄積部を設ける必要があったが、今回、この画素の電子増倍部と蓄積部を縦積み構造にすることで、従来に比べて画素面積を極少化することができるようになった。

 これによって、通常のカメラと変わらない画素面積で、はるかに高感度化させることができた。

縦積みすることで従来よりも画素面積を極小化

 距離情報は、光源から対象に短いパルス光を発して、その往復飛行時間を計測することで距離を測る「TOF(Time-Of-Flight)」方式で取得する。

 この方式にも、近距離だと多くの光が戻ってきてしまう一方で、遠距離だとわずかな光しか戻ってこないという課題があるが、パナソニックでは今回、遠くの弱い光を確実に検出することを目的としてセンサーを開発した。

 具体的には、多パルスを打って画素のなかで積算することで、戻り光が光子一個以下でも、最終的にはクリアな距離画像を得られるようにした。

TOF方式による距離計測を採用
複数のパルスからの到達回数を積算
信号を積算することで距離画像を鮮明化できる

 実際の状況では、複数の物体の距離をそれぞれ計測して1つの距離画像にする必要がある。

 そこで、短パルスでフルレンジを細かく時間分割し、それぞれの分割区間の距離画像を取得し、最終的に重ね合わせて1つの距離画像に生成している。

 香山氏は「暗いシーンであっても、非常に広域に、細かいものまで見えるセンサーだ」と強調した。

時間分割し、分割した距離ごとに画像を取得し、重畳して距離画像を生成
実際に距離測定した画像。肉眼では見えにくい人や物体が見えている

 光源は、レーザーを用いた近赤外光を想定している。フレームレートは現在は試作品のため5フレームだが、今後は高速化する。夜間をターゲットにしているため、昼間に関しては今後の課題とする。

 今後のスケジュールについては、2019年度を目処に機能サンプル提供を検討する。2021年度までに顧客提案活動を開始するという。

 おもな用途としては、車載センシングのほか、固定カメラによる道路監視、工場監視、駐車場監視などを想定している。

 従来、距離センサーとして用いられることが多い「LiDAR」では、解像度が低いという課題があった。それに対して、今回のTOFセンサーは高解像度である点がアピールポイントだという。

 なお、今回のセンサーはあくまで現在のセンサーで足りない部分である「夜間」で「遠いところ」を見ることにフォーカスしたものだが、近いところを見ることに比重を置くことも可能だとのこと。また、悪天候へのロバスト性については、雨や雪程度であれば十分に検出して除去できると考えていると述べた。

従来デバイスとの比較
想定用途は車載のほか、暗所で遠くまで見る必要があるシーン

今後はさまざまなセンサーを組み合わせて統合する時代へ

 同社 技術本部 センシングソリューション開発センター所長の田中毅氏は「CCDやCMOSを使ったセンサーは各社で進められている。従来のCMOSセンサーでは、数十m程度と不得手だった遠距離の測定ができるようになったのが大きな進化だ」と述べた。

 同センター センシングシステム開発部 部長の小田川明弘氏は、「イメージングからセンシングに使いたい。光の信号を増やして高感度化する部分は従来の進化の過程にあるが、物体を検知するセンサーに持っていくのは別の流れだ。距離を計測するデバイスはほかにもあるが、画像もわかって距離もわかるデバイスとして、違う方向性を提案したい」と述べた。

 今後の展開として、それぞれのセンサー情報をどう統合してAIや機械に判断させるかは、大きな課題であるし、今後伸びる領域だろうと個人的には考えていると語った。

 今後、一長一短あるさまざまなセンサーを使って、多種類の情報を取ることになるが、今回のTOFセンサーの場合は、1つのセンサーで距離とイメージが取れているので、同じ座標系で距離と二次元画像が取れていることになる。

 将来、さまざまなデバイスからの情報を統合するときに、こういった複数の情報を兼ね備えたセンサーデバイスの情報は、その基盤となる役割を果たしていくのではないかと考えているという。

パナソニックのさまざまなセンサー群
パナソニック株式会社 オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 技術本部 センシングソリューション開発センター 所長 田中毅氏(左)、同 センシングシステム開発部 部長 小田川明弘氏(右)