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AIで医療分野にイノベーションを起こすNVIDIA

Kimberly Powell氏(Vice President of Healthcare, NVIDIA)

 NVIDIAは9日、同社のヘルスケア関連事業について、都内にて記者説明会を開催した。

 説明会には、米NVIDIA ヘルスケア事業ヴァイスプレジデントのキンバリー・パウエル(Kimberly Powell)氏が登壇し、説明を行なった。

 2007年の発表以来、CUDAは医療分野において、超音波検査の画像化やCTの再構成などの領域で、早い段階から活用されてきたと説明。同社は、医療分野の中でも医用画像に注力しており、その理由として、演算性能への要求がとくに高い領域であるためとした。

 事実、画像の再構成や可視化、AIといったワークロードにおいて、この6年間でコンピューティング性能の要求は10倍に膨れ上がっていると説明。

NVIDIAの事業領域
単一アーキテクチャですべてをカバーする
10年間のイノベーションの歩み
6年で医療画像に対するコンピューティング性能への要求は10倍に

 このうち、医用画像処理におけるAIの活用はまだ初期段階ではあるが、それでも公開される論文の50%はAI関係となっており、急速に進んでいるという。医用画像分野のAIは、人間の身体が複雑なため、数百~数千単位のアルゴリズムからなっており、演算性能も大きくなってくるのだと語った。

 同氏は、AIが今後同分野に大きな影響を与えるであろうことを示唆するポイントとして、NVIDIAのAIスタートアップの支援プログラム「Inception」のメンバー2,800社のうち、300社がヘルスケア分野で、その大半が医用画像関連であると述べた。

 医用画像以外の分野では、医療機器系が多く、超音波検査機やMRIといった既存の装置をAIを使って改善するものや、クラウドのAIを活用した、小型の新たなデバイスを製造するといったものが多いとした。

 NVIDIAでは、研究段階から商用化への流れを実際に検証するため、マサチューセッツ総合病院など大手医療機関と提携し、医用画像処理のための新たなアーキテクチャ研究や、AI必要とされる学習の方向性、実用するにあたって必要な要件などを研究しているとした。

医療画像に関連したAIスタートアップ300社
大手医療機関との提携

 それらの結果、同社では「Project Clara」と称する、医用画像診断スーパーコンピューティングプラットフォームを、GTC 2018にて発表している。

 Claraは自動運転用のDrive、スマートシティ向けのMetropolisと同様に、医用画像に特化したソリューションとなるもので、医療画像の演算ワークロードの仮想化、拡張性を持たせた次世代のイノベーションへの対応、リモート対応という3つの特徴を備えている。

 パウエル氏は、医用画像において、これまでの10年間で、CT反復再構成、MR圧縮センシングといった多数のイノベーションで、放射性被ばく量の最大90%削減やMRI画像の取得時間短縮といった進歩が起きているが、医療現場の装置や機器の交換サイクルが長いことで、実際に医療に携わる医師が、そのイノベーションのすべてを扱うことができなかったという問題があったと説明。

 ディープラーニングは高度な画像分析処理や定量化処理に新たな可能性をもたらしており、V-Netという最新アルゴリズムでは3Dボリュームセグメンテーションを活用し、心臓の血液料を自動測定することが可能となっているという。

 15年前ならば、V-Netのようなアルゴリズムを実行するには消費電力500kWの1,000万ドル級のシステムが必要となっていたが、現在であれば数基のTesla V100で処理できるようになっているとした。

 Claraは、コンピューティング能力の進化によってもたらされた、それらのイノベーションを活用するための「仮想のスーパーコンピュータ」となるプラットフォームであり、スタートアップが取り組んでいるように、あらかじめ組み込んだ新機材の導入だけでなく、インストールベース300万台といわれる既存の機器にClaraを接続することで、旧式の機器に最新の機能を追加し、アップグレードするといった活用も想定していると説明した。

 Claraはプラットフォームのため、機器に組み込んだり、病院内にデータセンターを設置するかたちのほか、クラウド上のGPUを利用する場合でも利用できるという。同氏はこれについて、NVIDIAの製品が単一のアーキテクチャからなっているため、どんな環境でも同じワークロードを処理できるという利点が活きているとした。

医用画像スーパーコンピュータプラットフォーム「Project Clara」

 医療機関だけでなく、NVIDIAでは大手医療機器関連企業とも提携を行なっており、業界大手のGE Healthcareや、医療システム国内シェアトップのキヤノンメディカルシステムズとパートナーシップを提携している。

GE Healthcareとの提携
キヤノンメディカルシステムズとの提携

 製薬分野でもAIやHPC、可視化といったワークロードの需要の高まりがあると述べ、ジェノミクス、クライオ電子顕微鏡を使ったタンパク質の発見、創薬でのハイコンテントスクリーニングなどでの活用が進んでいるとした。

 パウエル氏は、ヘルスケア領域はAIの活用が活発に行なわれると見込まれる分野であり、数年内には66億ドル規模の市場に成長するとの予測もあると述べ、AIにとって新たなフロンティアになる領域であると語った。

製薬分野への活用も
スタートアップ企業とのパートナーシップ
医療分野はAIの新たなフロンティア