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デル、日本国内でビジネスにおけるVR/ARの活用を訴求

デル 最高技術責任者(CTO)の黒田晴彦氏

 デルおよびNVIDIAは、2018年4月24日、大阪・北梅田のナレッジキャピタル コングレコンベンションセンター(グランフロント大阪内)において、産業向けVRセミナー「VRでつながるねん」を開催した。

 VRの実用化により、医療、建築、デザイン、製造、映画など、さまざまな業界において、VRの活用がはじまり、産業向けVR/ARの市場規模の拡大が見込まれている。

 デルでは、Windows MRのDell Visorや、VR-Readyワークステーションと位置づける「Dell Precision」シリーズやPC、ストレージなどの提供を通じて、VR市場の活性化を推進する姿勢をみせる。

 3月には、NVIDIA、ダッソー・システムズ、ボーンデジタルとともに、産業向けVRの普及促進を目指すVR研究会を発足することを発表。今後、産業用VR分野における共同検証や、サービス開発に関する情報発信などを通じて、安心して利用できる産業用VR関連サービスやソリューション、インフラの提供を目指す考えだ。

 今回のセミナーは、日本のVR/AR市場での市場性や各業界におけるVR/ARの取り組み事例を紹介。VRのデモンストレーションや展示も行なった。

VR先進活用国を目指す

 会場には、産業用VRの導入を検討している企業や、産業系VRに携わる企業など、約100人が来場した。

 基調講演では、デルの黒田晴彦最高技術責任者が、「広く浸透するVR、先進活用国になろう!」をテーマに、VRの現状と今後の方向性について紹介。「日本では産学連携が遅れている点が課題。日本のお家芸であるモノづくり技術と結びつけることで、日本をVR/ARの先進国にしていこう」と提言した。

 黒田氏は、冒頭に、CES 2018のデルテクノロジーズのブースでは、VRを活用して、大リーグのピッチャーが投げる球を打つデモストレーションを行なったり、平昌オリンピックにあわせて、VRを活用して女子団体パシュートや女子カーリングを題材に、選手の視点で見たり、臨場感を体験できるようなコンテンツが登場していることを紹介。「もはや普通のメディアとして利用されるようになっている」とした。

 また、1989年にVRという言葉が初めて使われたことを紹介。「従来のVRは、ゲームなどのBtoCで利用されてきたが、昨今では、エンジニアリング、データ分析、教育、医療などのBtoBで使われるようになっている。

 VRデバイスも、独立型の高性能モデルから、スマートフォンを利用したエントリーモデルまで幅広い品揃えがあるほか、VRのコンテンツ制作の体制も整い始めており、開発をするためのツールも提供されている」とし、「デルでは、ジャガーの電気自動車の発表会で協力。VRを活用し、車庫入れの際に車体がコンパクトであることや、疾走する様子を示したりした」と、具体的な事例を紹介した。

 米国の事例では、Nikeと組んでモノづくりを変える取り組みを開始。デザイン部門でMRデバイスを活用し、生産性を高めるといった取り組みを開始したことを紹介。

 「ここでは、音声認識や手書きデザイン技術を採用。手書きしたものをCADへと転換し、CADから仮想試作をし、それをもとに仮想テストを行ない、仮想データを取得。さらに、仮想試作の調整を行なったり、再テストを行なったり、自然界の色から色を選択し、最終的には、仕上がりを共有するといったことがVRやARを利用して行なえる」と説明した。

 黒田氏は、VRとARの違いについても説明。「VR(仮想現実)では、閉じた没入型の世界を実現するものであり、産業用途では主にオフィスでの利用に適している。また、AR(拡張現実)は、デジタル情報が挿入された現実の世界を見ることができるものであり、おもに現場での活用に適している」とした。

 「オフィスにVRが入ると、離れた場所の様子を見られたり、大きなプラントのなかを見るなど、場所、空間、大きさを超えて、実体験ができる。また、VRでは、単にディスプレイを見るだけで、自らが動くと画像も動くため、自ら直接参加する感覚になることが重要な要素の1つだといえる」。

 「一方でARは、固定型の利用だけでなく、移動型の利用によって用途が広がっている。たとえば、移動型の利用によって、現場にARが入ると、めがね型のARデバイス上に、文字を出し、画像を出し、遠隔地とのコミュニケーションが行なえ、現場の作業を支援することができる。VRはオフィスのIT(Information Technology)を支援し、ARはOT(Operational Technology)を支援するものになる。そして、ITとOTの世界が結びつけることができ、これまでにはない効果が発揮できるようになる」と述べた。

これから拡大するVR/AR市場

 VR/ARの産業利用はこれからますます拡大することになるという。

 2017年時点での市場規模は、コンシューマ用途と産業用途はほぼ半分ずつだが、今後、産業用途が飛躍的に拡大。2025年には圧倒的に規模が大きくなると予測されている。

 だが、VRとARを分けてみると、VRはゲームで使うことが多いと予測されており、2025年においてはVR全体の約4分の3を占める。これに対して、ARでは、ゲーム・娯楽向けが3分の1に留まり、産業用、デザイン・エンジニアリング、教育・トレーニングが約半分を占めることになるという。

 また、デルが、17カ国3800人のビジネスリーダーを対象にした調査では、VRに投資している企業は現時点では27%だが、5年以内にはこれが78%に急増することも示した。

 こうした産業用途での活用を促進する上で、コンテンツの開発が重要な要素となるが、「これまでの経験をもとにすれば、VRとARの適用分野検討には、デザインシンキングの手法を用いるのが効果的である」とし、「何度も失敗を繰り返しながら進化をさせることが大切である。現在では、数日で、ARの簡単なコンテンツを開発できるツールや、無償で提供されているツールがあり、まずは、これらを活用して、コンテンツを開発し、うまくいきそうだと思ったら、多くの機能が提供される有料の開発ツールを使って本格的な開発をすればいい。無償で使えるツールを活用して試作し、それを進化させるといった繰り返しができるアプローチが、VR/ARの開発手法には適している」と述べた。

 講演の後半では、いくつかの産業分野での事例について紹介した。

 たとえば、遠隔地との接続においては、オフィスでVRデバイスを使えば、現場のARデバイスから情報を取得して、仮想物体を体験できるようになること、現場でロボットが見ているものを、VRデバイスを使って、オフィスや自宅で、同じ体験することができるといった様子を紹介した。

 「全身にセンサーをつけて、人が右を見ると、ロボットも右を向くといったように、人の動きと同じ動きをロボットが行なうということもできる。また、触っている感覚や温度の感覚まで伝えられるようになっている。」

 「ARデバイス上に表示されるアバターを活用して、オフィスと現場の人同士がコミュニケートするといったこともはじまっている。ANAがスポンサードしているXPRIZEでは、アバターを活用して、日本にいなから、世界を旅しているような体験ができるような取り組みを行なっている。さらに、ブレインマシンインタフェース(BMI)のようなものも登場している」などとし、「これらを実現するために、音声認識、画像認識、感覚認識といった機能が活用されている。単純に画像が出るだけのVRやARだけでない」とした。

 また、「音声認識や画像認識などは、エッジコンピューティングやミストコンピューティング、フォグコンピューティングで処理されることになる。今後、VRやARを使うには、現場におけるミストコンピューティングやフォグコンピューティングの活用が必要になる。これらを利用することで、新たな知の創出が可能になる」とした。

 一方で黒田氏は、日本におけるVR/AR活用の実態についても触れた。

 「日本では匠の技を、AIが学習して、継承していくといった取り組みが始まっている。これに加えて、今後は、VR/ARを結節点として、複数の人やIT/OT、IoT、AIなどが連携し、日本のモノづくりがさらに進化していくことが期待される。VR/ARを通した改善活動やすりあわせなどにより、新たな匠をVRやARを使っていく創出すれば、日本のモノづくりの差別化になる」とした。

 だが、その一方で、日本では、この分野における産学連携が遅れていることを指摘した。

 「日本では、日本バーチャルリアリティ学会が、1996年から活動を開始し、20年以上の歴史がある。現在は、15の研究委員会があり、情報技術と文化の融合や、心理学との連携など幅広い研究が行われている。だが、産業界との連携がまだである。米国では、SIGGRAPHという団体があり、そのアジア版として、SIGGRAPH ASIAがある。このイベントが、2018年12月には、いよいよ日本で開催される。これをきっかけに、産学連携を進めていくことが大切である。今後、VR/ARの活用を、モノづくりを中心に発展させ、VR/ARの活用先進国になることに期待したい」と締めくくった。