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デルとNVIDIA、産業分野におけるVRの利活用を訴求
2019年4月24日 18:46
デルとNVIDIAは24日、大阪・北梅田のナレッジキャピタル コングレコンベンションセンターにおいて、産業向けVRセミナー「BIM/CIMでVRやりまっせ」を開催した。
大阪での産業向けVRセミナーの開催は、2018年4月に続いて2回目。今回は、建設業などで利用されているBIMやCIMに焦点をあてた内容とした。
デルでは、Windows MR対応のヘッドマウントディスプレイ「Dell Visor」を発売しているほか、VR-Readyワークステーション「Dell Precision」や、高性能グラフィックボードを搭載したPCをラインアップ。ゲーミングPCのALIENWAREシリーズでは、VRを活用したゲームをスムーズに楽しめる環境を提供している。
昨今では、自動車や道路設計、建築現場や街づくりなど、さまざまな業界におけるVR/ARのビジネス活用が拡大。デルでは、今回の産業向けVRセミナーを通じて、VRのビジネス活用を活性する狙いがあるとした。
セミナーの内容も、日本のVR/AR市の現状や今後の広がりなどについて、事例を交えて紹介するものになった。
会場には、産業用VRの導入を検討している企業や、産業系VRに携わる企業、専門家など、約70人が参加した。
人の無意識とVRの関係
冒頭、挨拶したデルの最高技術責任者である黒田晴彦氏は、「自民党の政務調査会IT戦略特命委員会での議論をもとに、国全体を仮想化する『バーチャル・ジャパン』に取り組む動きがある。すでにシンガポールはこれを実現しているが、日本でやるにはまだ時間がかかると言われている。
一方、国土交通省では、Society 5.0を進めるなかで、BIMやCIMにおいて、官民のデータを組み合わせて、バーチャルな都市や国を作りあげるといった動きも始まっている。また、内閣府では、サイバーとフィジカルを組み合わせた仕組みを通じて、国土の情報に、建物の情報を組み合わせ、さらにそこにVRを組み合わせて、これを土木分野で活用できるようにしたいと考えている。今後、VRとBIM、CIMの活用領域が大きく広がっていくことになる。産学官の連携により、この動きを日本中で加速させたい」などと述べた。
なお、黒田最高技術責任者は、日本VR学会の理事も務めている。
基調講演では、大阪大学大学院情報科学研究科准教授兼大阪芸術大学アートサイエンス学科客員教授の安藤英由樹氏が、「潜在的応答を利用したVR/ARインタフェース」と題して、VR/ARにおいて、人が無意識のうちに行なっているさまざまな処理に対して、臨場感や運動学習といった要素がどう働きかけているのかについて解説した。
安藤准教授は、「バーチャルは仮想ではない。バーチャルというのは、目の前にはないが、それをあるように感じさせることができるものである。本質はリアルと同じものであり、リアルに感じるエッセンスがバーチャルになる」と切り出し、「VRの本質は、頭のなかで考えて意識するのではなく、無意識に感じてしまうところにある。VRで、高い場所にいる映像を見ると、平地にいることが頭では理解できていても、足がすくんでしまう。頭とは別に、身体が反応してしまうことになる。これがVRの本質である」とした。
セミナーでは、人間の錯覚を利用することが、VRには有効であることを示した。「VRを作るときには、画質などのクオリティをあげるだけでなく、脳の動きを使う必要がある」とし、その一例として、VRデバイスを装着したときに、両耳の後ろの電極間に数mAの微弱な電流を流すと、電流の流れの向きに応じて、自分が動いているように感じる錯覚が起こることを紹介した。「この平衡感覚への錯覚を利用することで、ゲームを行なっているさいには、加速度がかかっているように感じられることができる。商業施設にあるような、大規模だったり、高価だったりするような装置が不要で、加速度を体感できるゲームを提供できるようになる」というわけだ。
「錯覚とは、実在する対象の真の性質とは異なる知覚であり、感覚刺激から運動を誘導できる。このケースでは、前庭器官に微弱な電流を流すことで、平衡感覚を錯覚させることができる。ゲーム以外の分野にも活用できる」とする。
たとえば、この技術を活用することで、人間の歩行を誘導する措置を実現。歩行者に対して、クルマが後ろから近づいてきたときに、クルマから微弱な電流を発信することで、人がなにもしなくても無意識にクルマをよけることができるという。
「人間は感覚に基づいて運動を生成しており、感覚を刺激することで、運動を誘導することができる。だが、どのぐらいの電流であればいいのかといった実験ガイドラインづくりが必要である。大阪大学では耳鼻科の医師と話し合って、ルールを決めている」とした。
一方で、ARとVRを活用した視野共有システムについても紹介した。
「複数の人が同じ映像を共有して見ることで、言葉では、説明しにくい内容や、身体の動きなどを伝えることでき、技術の伝承が短時間でできるようになる」という。
独楽まわしが上手な人と、初めて独楽まわしをする人が、それぞれVRデバイスを装着。VRを見ながら、上手な人のやり方を真似することで、独楽をまわしを続けることができる実験の成果や、腹腔鏡手術におけるトレーニングでも効果が出ていることなどを紹介した。
「短時間で修得できるようになるほか、うまい人がやっていることを手本として学ぶため、独自のやり方をしたり、やってはいけないようなことはやらないようになるというメリットもある」という。
「今後は、過去の手術映像を利用したさまざまな手術を教材化したり、ロボット手術の追体験教材を安価に提供するといった取り組みがはじまるだろう。これにより、若手の医師の育成にも貢献できる」とした。
さらに、「心音移入」の実験成果についても説明。これは、ヘッドフォンを装着し、心臓に聴診器を当てながら、映像を見ることで、感情が移入できるというもので、運動会で徒競走のスタートを待って、緊張している子供の映像を見る場合など、その人のことや状況をより理解しながら映像を見ることができるという。
安藤准教授は、「潜在的応答を利用することで、新たな価値を創出できる可能性がある。たとえば、一度、危険なことをVRで体験しておくと、実際に、そうした場面に遭遇したときに、思考停止にならずに、行動を起こすことができる。こうした分野でも、VRやARを活用してもらいたい」と述べた。
そのほかの活用/開発事例
続いて行なわれたフォーラムエイト 執行役員 システム営業マネージャの松田克巳氏による「IM&VR~BIM/CIMにおけるVR活用事例と今後の展望~」では、各種のBIM/CIMモデルや各種オープンデータに対応した「VR Design Studio UC-win/Road」によるVRドライビングシミュレータの道路設計への適用事例や、施工現場におけるVR適用事例などを紹介。
「国土地理院が提供する日本全国のオープン地形データを取り込んで、シミュレーションするといった使い方が増えており、このデータは、土木分野にも利用できる。設計した橋脚が街中に設置された場合にはどんな形になるのかといったことも可視化できる。各省庁がオープンデータの公開を行なっており、これを活用できる環境も整備されはじめている」などとした。
Epic Games Japan テクニカルアーティストの小林浩之氏は、「エンタープライズ分野におけるUnreal Engineの4つの活用事例について」として、もともとはゲーム分野向けに開発されたUnreal Engineが、建築、工業製品のデザイン、建物の内装のシミュレーションなど、エンタープライズ分野において利用されはじめていることについて紹介した。
「高速、高品質なレンダリング可能であること、視覚的に理解しやすいノードベースのプログラミング機能を採用していることが、エンタープライズ分野で利用されている理由である」などとした。
また、バルコ VRビジネスマネージャーの中村星一氏は、「ラージスケールVRコラボレーション」と題して講演。「従来のモノづくりは、実際に作ってみないとわからなかった。だが、バーチャルエンジニアリング環境では、企画、設計、実験、生産、ユーザーというあらゆる人たちがバーチャル環境に入り、迅速にフィードバックでき、開発の精度を高めることができる」と、VRのメリットを訴求。
ヘッドセットなどのVRデバイスとは異なるVR事例についても紹介し、「プロジェクタを活用し、大きな画面に高精細な映像を表示し、複数人で利用する大型環境での利用を提案している。モックは本物だが、そこに映し出す映像はバーチャルといったような使い方ができたり、12K×4Kという高解像度を実現したり、20台以上のプロジェクターを組み合わせて表示したりといったことが可能になる。複雑な設計や検証であればあるほど、共通認識や合意形成が重要になり、こうした大規模なVRに対するニーズが生まれている」とした。
「ディスプレイの進化がもたらすVR体験の向上」と題した講演を行なったジャパンディスプレイ ディスプレイソリューションズカンパニー ディスプレイソリューションズ第2事業部商品部の柳俊洋部長は、「VRヘッドマウントディスプレイは、映像をレンズで拡大するため、TVの15倍、スマホよりも2倍も高精細なディスプレイが使われている。画像のリアリティ、動画ぼやけ抑制、遅延の抑制という点での課題を解決する技術が必要であり、とくに遅延は20ms以内に抑制しないと、VR酔いが生まれることになる」と説明。同社がそれらの課題解決に向けたディスプレイを開発していること、今年半ばからは4K解像度、2020年秋には6K解像度、2021年には8K解像度のVRヘッドマウント向けディスプレイを開発する計画についても明らかにした。
また、2018年末から発売した高精細VRヘッドマウンドディスプレイ「VRM-100」についても説明し、「ディスプレイメーカーならではの映像にこだわった製品であり、細かい文字も細部まで表示できる。業務用途にふさわしい、高いメンテナンス性を実現しているほか、OpenVRに対応した開発環境も提供。日本のメーカーならではの、日本から対応できる強みを生かした、安心のサポートを提供している。いまは、日本の企業に限定して提供している」などと述べた。
さらに、導入事例として、福井コンピュータの浅田一央氏と、ユタカ工業の福士幹雄氏が、「土木現場におけるVR活用事例」を紹介。建設現場のVRにより、高い場所から転落したり、重機がぶつかるなど、実際には体験できない危険を再現する安全体験に利用されている例や、地域住民への説明や施工検討などにも、VRを利用している例を示しながら、「VRを活用することで、理解度を高め、ミスを削減することで、安全で効率的に作業を進めることができる」(福井コンピュータの浅田一央氏)とした。
ユタカ工業の福士幹雄氏は、「目指しているのは、現場に関わるすべての人が見える化できるということ。ドローンで撮影した情報など、必要な情報をリアルタイムで見ることができ、異常や問題に気がつき、迅速に問題解決ができる。現場の安全性確保にもつながる。道路の拡張工事のシミュレーションでは現場の状況を事前に把握し、クルマの誘導スタッフを増員するといった対策をとることができた例もある。また、作業後の現場での確認作業についても、雪が降ってしまって確認できなくなっても、点群データで再現したVRを活用して検証ができる」とした。
NVIDIAのQuadro RTXとDell Precisionワークステーション
最後に主催者側からの製品説明があった。
エヌビディア エンタープライズマーケティング シニアマネージャの田中秀明氏による「RTX 4000でCAD/BIMにプラスVRを実現」では、2019年春に登場する「Quadro RTX 4000」について説明。「TURING世代となったことで、性能が大きく飛躍した。ディープラーニングの学習をするためのTENSORコアと、光の動きなどを表現するレイトレイシングを高速処理するためのRTコアを搭載している」と前置きし、「Quadro RTX 4000は、シングルスロットに搭載できる最高性能のGPUになる。前世代にと比較して、最大2.8倍の速度向上を実現しており、先行ユーザーからは、性能に対して高い評価を得ている。コストパフォーマンスに優れたGPUである」と語った。
Quadro RTX 4000は、VR Readyの製品であり、VR性能を大幅に強化。CAD/BIMのVR展開にも最適だという。
また、マルチユーザーVRプラットホーム「NVIDIA Holodeck」についても触れ、「フォトリアルなグラフィック、物理的に体感、リアルタイムコラボレーションのほか、GPUで加速したAIを活用できるのが、NVIDIA Holodeckの特徴である。昨年発売したNVIDIA Holodeck EA2では、デザインワークフローを革新し、建築デザインにも対応した。日本のユーザーから要望が高かった平面カット機能も追加している。まだ発売されていないが、登録すれば利用できる」とした。
さらに、VR開発者向けの開発キットを提供していることにも触れた。
デル クライアント・ソリューションズ統括本部 ビジネスディベロップメント事業部クライアントテクノロジストマネージャーの馬場勇輔氏は、「設計・デザイン そしてVRを支えるDell Precisionワークステーション」と題して、Dell Precisionワークステーションについて説明。
「今年(2019年)で21年目を迎える製品であり、業務を効率化するスマートデザイン、AIを活用したDELL PRECISION OPTIMIZERによる自動チューニング、メモリーエラーの発生を抑え、稼働時間を最大化するDell Reliable Memory Technology Proという3つの特徴がある。また、ラックマウント型でもVR Readyとなっているなど、幅広い製品を用意しており、いち早く、Quadro RTX 5000および6000を搭載した製品もラインアップした。ソフトウェアベンダー、ハードウェアベンダーとのパートナーシップにも力を注いでいる」と語り、「デルは、VR環境に向けては、さまざまな出力装置に最適化されたシステムの提案、トータルシステム価格の適正化、複数メンバーによる同時体験の実現を提供する」などと述べた。