ニュース

PC自作のディープゾーン「CPUオーバ ー クロック」の今

DOS/V POWER REPORT 2018年5月号の特集は「PC自作最新事情 春の一斉チェック」

このゲームに適したCPUは? ビデオカードはどのくらい必要? 賢い投資で楽しくPCゲームを遊ぶコツを徹底検証!!

 DOS/V POWER REPORT2018年5月号(3月29日発売)では、「PC自作最新事情」と題して、PC自作界隈で最近話題になっている話題、最新の製品情報、そしてPCパーツの運用ノウハウの常識&ディープゾーンを大ボリュームでお届けします。

 本稿では、この特集に掲載した「PC自作のディープゾーン『CPUオーバークロック』の今」の内容の一部を抜粋し、CPUオーバークロックの現状と初歩の知識の解説を掲載。さらに、驚異のクロックに到達している“エクストリームな世界”をお見せします。

(著者: 清水貴裕)

マルチコア化が進み性能向上の比率もアップ!? OCの現状

 2017年3月にAMDがRyzenをリリースしてからというもの、CPUの性能競争が加速しマルチコア化が進んだ。コア数の増加は強力なマルチスレッド性能をもたらし、全コアをOCすることでの性能向上率も飛躍的に上がる。しかし、コア数に比例して発熱や消費電力が増加し、マザーボードの電源回路部分や電源ユニット対する負担も増えている。そういった事情もあり、知識やテクニックだけでなくパーツ選択のよしあしがOCの結果を大きく左右するようになった。

 最近のIntel CPUは、自動OC機能のTurbo Boostで4GHz台半ばまでクロックが上昇するモデルが多い。高い動作クロックがもたらすシングルスレッド性能はIntel CPU最大の武器と言えるだろう。常用のターゲットとしてはTurbo Boostの最大動作クロックを超えるラインが目安になるので、全コアを4.5GHz以上に設定する人が多い。Kaby Lake-Sから改良された14nm++プロセスを採用するCoffee Lake-Sを例に挙げると、個体差こそあるものの、チューニングしだいでは6コアながら5GHz超えでの常用が狙えるほどのポテンシャルを秘めている。極冷の世界においては7GHz超えの記録も飛び出しており、Intel CPUのOC耐性の高さは折り紙付きだ。

 一方のRyzenはコア数とマルチスレッド性能において競合する価格帯のIntel CPUよりも有利で、コストパフォーマンス面での強みがある。ただ、OCでの伸びしろがIntel CPUよりも少なく、常用可能なレンジが最大で4.1GHz前後と低い。この傾向はハイエンドでも同じで、Skylake-Xが4.5GHz超で常用できる場合が多いのに対し、Threadripperは4.1GHz前後が限界となる場合が多い。

CINEBENCH R15
CINEBENCH R15実行中のシステム全体の消費電力およびCPU温度(Core i7-8700K環境)

    【本稿の検証環境】
  • マザーボード: ASRock Z370 Extreme4(Intel Z370)、ASRock X299 Taichi XE(Intel X299)、ASRock X370 Taichi(AMD X370)、ASRock X399 Taichi(AMD X399)
  • メモリ: G.SKILL Trident Z F4-3600C15D-16GTZ(PC4-28800 DDR4 SDRAM 8GB×2 ※DDR4-2666で使用)×2
  • ビデオカード: 玄人志向 GF-GT520-LE1GH(NVIDIA GeForce GT 520、1GB)
  • ストレージ: ADATA Premier SP550 ASP550SS3-240GM-C(Serial ATA 3.0、240GB)
  • 電源: Enermax MaxTytan EDT1250EWT(1,250W、80PLUS Titanium)
  • CPUクーラー: CRYORIG A80
  • シリコングリス: Thermal Grizzly Kryonaut
  • OS: Windows 10 Pro 64bit版
    ※室温: 25℃前後、電力計: Electoronic Educational Devices Whatts Up? PRO、CPU温度: HWMonitor 1.34のTemperatureのPackageの値

OC指南 Intel編: Intel Z370マザーのOC設定の基本

 UEFIの基本的な設定は下の手順のとおり。低負荷時に動作クロックを落とすというCPU標準の挙動は省電力性で見ると理にかなっているのだが、ことOC時には不安定さやベンチスコア低下の原因となる。そのため動作クロックは固定しよう。UEFI内においてはCPU C Statesを無効化して、電圧モードをFixed Modeに設定するだけ。その後はWindowsのコントロールパネルから電源プランを高パフォーマンスに設定すればOKだ。

 OC設定中は負荷テスト時の温度が90℃を超えないように注意。破損の可能性が高まるだけでなく耐久性にも影響がある。まずは定格電圧からスタートし、その上限クロックを確認してから昇圧するのが好ましい。

(1) 動作倍率モードの設定。まず最初に動作倍率モードの設定を行なう。基本となるのは全コアを同じ倍率で動作させるAll Coreモードだ
(2) CPU倍率の設定。次にCPU倍率の設定を行なう。Coffee Lake-Sは45倍、Skylake-Xは43倍辺りから始めるとよいだろう。控えめな設定から始めるのがベターだ
(3) ベースクロックの設定。倍率の次はベースクロック(BCLK)の設定を行なう。ほかの箇所に影響のない定格の100MHzが基本だ。Auto設定のままだと自動でOCされる場合があるので手動設定を心掛けよう
(4) CPU電圧の設定。今回は動作クロックを固定するので、CPU電圧も固定となるFixed Modeを選択する。Skylake-Xの場合は1.15V辺りから始めると高負荷時のオーバーヒートの心配が少ない
(5)LLCの設定。高負荷時の電圧降下を抑制するために、Load Line Calibrationを設定する。ASRockマザーの場合はLevel 1に設定するともっとも降下が少なくなる
(6) 省電力機能を無効化。動作クロックが変動すると高負荷時に不安定になる場合があるので、省電力機能のCPU C States Supportを無効化してCPUクロックを固定

OC指南 AMD編: AMD環境でのOC設定の基本

 AMDプラットフォームでのOCも基本的にはlntelプラットフォームと同じだが、細かい違いがある。その中でも便利なのが動作倍率の設定で、Intelプラットフォームが1倍きざみなのに対し、AMDプラットフォームは0.25倍きざみでCPU倍率が設定可能となっている。メモリクロックに影響を与えずに細かい動作クロック設定ができるのは優位な点と言える。

 CPU電圧の設定に関しては、前述のとおりRyzenシリーズは昇圧に対する伸び代があまりないので、定格電圧を基準にして1.4V辺りまでの間で伸びるポイントを探るのがセオリーだ。手動設定時には、AdvancedタブにあるAMD CBSを選択後、Zen Common Options内にある自動OC機能のCore Performance Boostを無効にする必要があるので注意。上記はASRockマザーボードの例だが、他社製でも似た表記の設定があるはずだ。

 とくに高クロックなXMPメモリの動作を安定させるのに役立つのがSoC電圧の昇圧だ。使用するモジュールにもよるが1.1V前後を試してみよう。

(1) 動作クロックの設定。CPUクロックの設定をManualに変更して、動作クロックの設定を行なう。0.25倍きざみで細かく設定が可能なので、ベースクロックは100MHzのままでOK
(2) 動作電圧の設定。動作クロックを設定したらそれに合わせてCPU電圧を設定する。CPUの個体差にもよるが、発熱や耐久性を考えると1.4V以下に抑えておいたほうがよいだろう
(3) メモリ設定を適用。OCメモリを使用している場合は、XMPセッティングのロードを忘れずに行なう。Intelプラットフォームと同じで動作クロックやレイテンシ、電圧が自動設定される
(4) SoC電圧を設定。メモリの安定性を向上させる効果があるSoC電圧を昇圧する。マザーボードやCPUの耐性にもよるが、DDR4-2666以下の場合は定格のままでもOKだ

7GHz超えの記録が続々! 極冷OCの世界はすごい オーバークロックのエクストリームな世界

記録狙いのレーシングマシン。筆者が実際に使用しているX299 OC Formulaを用いた極冷システム。温度計でポットの温度を計測する。液体窒素の冷気を飛ばすためにポットにケースファンを取り付けている
圧倒的な高クロックが魅力。Core i7-7700Kを使って7GHzを達成した際のCPU-Z画面。2Vという常温では即破損するような超高電圧設定ができるのは極冷ならではだ

 極冷OCの魅力は何と言っても常温では達成できない圧倒的なクロックの高さにある。Kaby Lake-Sの登場以降、7GHzを超える記録が続々と達成されて極冷OCが大きな盛り上がりを見せたのは記憶に新しい。その後発売されたKaby Lake-Xでは、内蔵GPUを持たず電源供給用のピンが増えたことがプラスに働き、7.2GHzを超える記録も達成されている。Coffee Lake-SでもOC耐性の高さは健在で、もはや7GHzの大台は環境さえ揃えれば誰でも目指せるようになった。

 極冷OCにおいても、UEFIやユーティリティで電圧や動作クロックの設定をするという手順は空水冷となんら変わりない。しかし、設定できる値の上限が大きく異なる。CPU電圧においてはプラットフォームにもよるが、1.8V~2Vという超高電圧が当たり前で、記録狙いの際は2.1Vまで昇圧することさえある。

絶縁塗料でコーティング。結露しやすい極冷OCでは、ショートを防ぐために絶縁塗料で基板をコーティングする必要がある。お勧めはPlastidipというゴム系のはがせる絶縁塗料
殻割りとグリス交換は必須。標準グリスは熱伝導率が悪いだけでなく零下でひび割れを起こしやすいので、殻割りして塗り直す。液体金属は零下でははがれてしまって使えない

 機材面での最大の違いは、専用の銅製ポットをCPUクーラーとして使うことだ。レスポンスに特化したものや温度のキープ力に優れたものなど、さまざまな形状のポットが出回っている。競技プロともなると、複数のポットをCPUごとに使い分けている場合が多く、なかには自分で作ってしまう人もいるほどだ。それほどにポットの性能は重要で、10~50MHzほどクロックに違いが出てくることもざらだ。

ハイスコア狙いのマストアイテム。筆者が設計したオリジナルのダイ直冷却用ポット。ヒートスプレッダをフレーム型にし、ポット底面を凸形状にすることでダイを直接冷却可能とした

エクストリームOCのトレンド!「ダイ直冷却」

 1MHzでも高いクロックを目指すためにオーバークロッカーが着目したのが、ダイを直接冷やす方法だ。グリスの熱伝導率はよくて12W/m・Kほどで液体金属グリスであっても70~80W/m・Kほどだが、銅は温度にもよるが400W/m・K前後と圧倒的に高い。これらの数値から分かるとおり、グリスが熱輸送のボトルネックなのは明白。ダイ直冷却は熱輸送の面で大きなメリットがあると言える。

 これまでに複数のCPUをダイ直冷却と通常の環境で比較検証してみたが、どのCPUでも極冷OC時に50MHz前後のクロック上昇を確認している。これはスコアにも大きく影響してくるので、競技の世界では今後必須アイテムとなってくるだろう。


 このほか5月号本誌では、電圧モードやメモリ周りの設定テクニック、OC向きパーツの選び方などを紹介しています。これらの記事や、特集の全貌はぜひ本誌を購入してお楽しみください!

Amazon.co.jpで購入