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米メリーランド大とNISTが53量子ビットの「量子シミュレータ」を開発

~原子量子を使って磁気量子物質の相互作用をモデル化

量子シミュレーションのイメージ。レーザーが50以上の原子量子ビットのアレイを操作することで、量子磁気のダイナミクスを研究できる 写真: E.Edwards/JQI

 米メリーランド大学(以下UMD)は30日(米国時間)、同大学と米国立標準技術研究所(NIST)のチームが、53個の相互作用する原子量子ビットを使って、磁気量子物質をシミュレートする量子シミュレータを開発したことを発表した。

 量子シミュレータは、複雑な量子物質をシミュレートするために量子ビットを使用する、一種の量子コンピュータ。

 一般的なトランジスタコンピュータでは、20以上の相互作用する量子をシミュレーションするという複雑な物理現象を再現するには、問題の規模が大きすぎるため、スーパーコンピュータでもシミュレーションが困難となる。量子シミュレータでは、量子コンピュータを用いることで、そのモデル化を可能にするものとなる。

 今回開発されたものは、53個のイッテルビウム(Yb)イオンで構成されているという。UMDでは、量子シミュレータの構築は、本格的な量子コンピュータの実現に向けた重要なステップであるとしている。

 量子シミュレータでは、これまで20量子ビット(qubit)以下のものしか存在しなかったが、今回はそれを上回る53qubitを達成しているとする。

 レーザーを用いて量子ビットを制御するという手法は、先日MITと米ハーバード大が発表した51量子ビットの量子コンピュータシステムも同様だが、そちらではルビジウムを利用している。

 UMDの物理学ポスドク研究員Jiehang Zhang氏は、リリース中で「システムの改良により、そう遠くないうちに100個以上のイオン量子を制御することができると考えている」と述べており、そうなれば量子化学や材料設計の困難な問題を探求できるようになるという。

 UMDのチームリーダーであるChristopher Monroe氏によれば、各イオン量子ビットは、完全に複製可能な安定した原子時計で、外部のレーザービームと結線されており、外部から再プログラミング/再構成が可能なため、あらゆる種類の量子シミュレーションや将来の量子コンピュータアプリに適応できるとしている。