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宇宙エレベーター競技会が2018年に開催

~上空3,000mからのロボット降下などに挑戦

一般社団法人 宇宙エレベーター協会会長の大野修一氏

 2017年11月9日、一般社団法人 宇宙エレベーター協会と日本大学理工学部 青木研究室主催による「GSPEC会議」が開催された。GSPECとは、宇宙エレベーター協会(以下、JSEA)がこれまで主催してきた宇宙エレベーター競技会「SPEC」を発展させた競技会であり、現時点では2018年9月第2週に米国での開催を予定している。

 GSPEC会議では、最初にJSEA会長の大野修一氏による講演が行なわれた。その要旨は以下の通りである。JSEAは、2008年に活動を開始し、2009年から毎年SPEC(宇宙エレベーターチャレンジ)を行なってきた。こうした宇宙エレベーターのコミュニティは、現在、北米とドイツ、日本の3カ所にあるが、JSEAはその中でも活動内容・規模いずれも世界最大である。

 2009年から2016年までSPECを実施してきたが、2018年から、新たな宇宙エレベーター競技会「GSPEC」を開催する。SPECは、ヘリウム入りバルーンに吊されたテザーをクライマーで昇降するチャレンジであったが、GPSECでは、クライマーチャレンジと高機動ロボットチャレンジの2つの競技が行なわれる。

一般社団法人 宇宙エレベーター協会(JSEA)の沿革について。2008年に活動を開始し、2009年から毎年SPEC(宇宙エレベーターチャレンジ)を行なっている
宇宙エレベーターのコミュニティは、現在、北米とドイツと日本の3か所にあり、IAA国際宇宙航行アカデミーにも認知されている
JSEAは、活動範囲や内容・規模いずれも世界最大の宇宙エレベーター推進団体であり、2009年からSPECを開催、新たにGSPECとして宇宙エレベーター競技会を企画している。GSPECでは、クライマーチャレンジと高機動ロボットチャレンジの2つの競技が行なわれる予定だ
SPECの目的は、クライマー性能向上への技術手法の比較や検証、垂直なテザーという特殊なシステムの実験、宇宙エレベーターについての正しい知識の普及機会の3つであり、大学を中心に国内外で20チームほどが参加している

2018年のGSPEC開催に向けて、Black Rock砂漠への遠征を実施

 2017年9月に、JESAの有志メンバー11名は、GSPECの事前実験と情報収集を目的としてアメリカのBlack Rock砂漠への遠征を行なった。Black Rock砂漠は、Playaと呼ばれる平らな砂地が広がっており、高度100kmまで利用できる航空特区となっているため、モデルロケット打ち上げイベントARLISSの会場としても利用されている。

 Playaを覆っているのはSiltと呼ばれる泥で、非常に粒子が細かく、雨が降ると地表がぬかるみ、車両の走行が困難になる。また、10m/sを超える強風が吹くと砂ぼこりで視界が悪化し、ひどいと1m以下しか見えなくなる。

 現地でヘリウムを入手し、持参したテザードバルーンを高度50mまで浮上させて2台のクライマーによる昇降実験には成功したものの、翌日夜に強風が吹き、バルーンの球皮が破れて吹き飛ばされ、バルーンを喪失してしまったという。そのため、予定していた全ての実験が実施できたわけではないが、強風への対処という新たな課題を注出することができた。

 遠征の様子やGSPECの概要については、プロモーションビデオとしてYouTubeに公開されているので、そちらをご覧いただきたい。

GPSECの事前実験と情報収集のために、2017年9月にBlack Rock砂漠への遠征を行なった
遠征の行程。赤字で記したPlayaが砂漠の砂地のことである
資機材はハンドキャリーで持ち込み、米国内ではピックアップトラックを利用
砂漠での宿泊にはRVを利用。8名就寝可能な車を2台借りたが、広さは十分だったとのこと
飲食については、RVではすべて自炊した。水は合計310Lを消費。メンバーの1名が調理担当となりほぼ専任状態であった
実験を行なったPlayaは、国立保護区内の平原で、1万年前まで存在したLahontan湖の湖底である。高度100kmまで利用できる航空特区となっており、7万人が集まるBurning Manやモデルロケット打ち上げイベントARLISSの会場として利用されている。最寄りの町までは173kmも離れている
ドローンで上空から撮影したPlayaの様子。中央に写っているのが遠征の車や設備類である
Playaを覆っているのはSiltと呼ばれる泥で、非常に粒子が細かく、雨が降ると地表がぬかるみ、車両の走行が困難になる。また、10m/sを超える強風が吹くと砂ぼこりで視界が悪化し、ひどいと1m以下しか見えなくなる
ヘリウムで浮かべたバルーンの様子
ヘリウムは現地の溶接資材店で調達した。価格は日本の2.5分の1~3分の1と安い。テザードバルーンの直径は4.5m。ヘリウムガスを充填したところ、浮力は標高や温度の関係で想定の20%減の24kgとなった
9月12日に現地入りしたが、9月14日午後に強い雨が想定されるとの情報から1日目の気象観測を省き、9月12日からテザードバルーンを展開し、KUクライマーとデモクライマーの昇降実験を実施した
しかし、9月12日の夜、突然強風が吹き、係留してあったバルーンが地面に接触する状況に。2時間ほどで風は収まったが、9月13日の夜、さらに強い風が吹き、再びバルーンが地面に接触、その後バルーン球皮が破れて吹き飛ばされ、バルーンを喪失した

GSPECでは、上空からロボットを降下させて、ミッションを行なわせる

 GSPECでは、テザーを昇降するクライマーチャレンジに加えて、上空からロボットを降下させて、着地、ミッションを行なわせる高機動ロボットチャレンジが新たに行なわれるため、フィールド全体での無線通信によるテレメトリーや映像送受信環境の確立が求められる。

 ロボットチャレンジでは、パラシュートや翼、ジェット噴射などさまざまな手段で減速し、着地することが想定されており、その後の目標地点までの移動手段も、2足や4足、車輪など自由である。ミッションの詳細はまだ未定だが、火星などでの建設作業に相当するものを検討中である。

 講演では、GSPECのロードマップについても語られた。2018年に高度3,000mでスタートし、2019年には10,000m、2020年には20,000mを目指すという。そのためには、耐風性の高い雨滴型テザードバルーンの開発が求められる。また、費用面でも2018年の高度3,000mへの展開には5,000万円が、2019年の高度10,000mへの展開には1億円が、2020年の高度20,000mへの展開には2億円がかかると想定されており、その工面も課題である。

GSPECのミッションフロー。テザーを昇降するこれまでのクライマーチャレンジに加えて、上空からロボットを降下させて、着地、ミッションを行なわせる高機動ロボットチャレンジが新たに行なわれる。そのため、フィールド全体での無線通信によるテレメトリーやVR、映。像送受信環境の確立が求められる
GSPECの高機動ロボットチャレンジの詳細。ロボットを積載したコンテナをクライマーが上空まで運搬し、そこからロボットを射出する。減速や着地にはパラシュートや翼、ジェット噴射などさまざまな方法を想定。また、目標地点までの移動には2足、4足、車輪などを想定。ミッションの詳細は未定だが、火星などでの建設作業に相当するものを検討中とのこと
GSPECロードマップ。2018年に高度3,000mでスタートし、2019年には10,000m、2020年には20,000mを目指す
GSPECは宇宙エレベーター技術開発の地上実験でもあり、成層圏での実験を目指す
そのためには耐風性の高い雨滴型テザードバルーンの開発が重要となる
GSPECにかかる費用。2018年の高度3,000mへの展開には5,000万円が、2019年の高度10,000mへの展開には1億円が、2020年の高度20,000mへの展開には2億円がかかる
Blach Rock砂漠で実際にテザーの昇降を行なった神奈川大学のクライマー

日本大学理工学部が推進している宇宙空間でのクライマー移動プロジェクト

 続いて、日本大学理工学部副部長で、JSEAフェローを務める青木義男教授が、同大学が進めている宇宙プロジェクトについて発表を行なった。その要旨は以下の通りである。

 日本大学が進めている宇宙プロジェクトは、超小型テザー衛星開発と軌道エレベーターの実験であり、日本学術会議のマスタープラン2017で「宇宙インフラ整備のための低コスト宇宙輸送技術の研究開発」として採択されている。

 このプロジェクトでは、STARS-Meと呼ばれる超小型2機体衛星を打ち上げ、宇宙空間で2機体に分離、テザーを伸展させて、クライマー移動を行うというものだ。STARS-Meの開発は、静岡大学と共同で行なっており、2017年12月末にエンジニアリングモデルを完成させ、2018年1月末にフライトモデルを完成させる予定とのことだ。

 STARS-Meは、いわゆるCubeSatと呼ばれる1辺が100mmの立方体形状の超小型衛星を2機組み合わせた構造になっており、結合時のサイズは100×100×227mm、重量は2.66kgとなる。

 青木教授らが構想中のテザー展開衛星も紹介された。これは、1辺が600mmの立方体形状の衛星の中に、1辺が100mmの超小型衛星を多数搭載し、宇宙空間で放出、整列させテザーを展開。1辺が5kmの正方形状のテザー網を作るというもの。単独衛星に対して、圧倒的なQCD(Quality Cost Delivery)向上を実現できることが利点だ。

 また、スペースデブリ衝突リスクが小さく、いくつかの衛星が壊れても運用可能で、打ち上げコストも抑えることができる。テザー衛星の1次元展開は実証済みであり、2020年までの短期課題としては、2次元展開や撮像合成と情報定量化が、2025年までの中長期課題としては、長期耐久性の検証が挙げられ、5~10年以内の実用化を目指しているとのことだ。

 テザー展開衛星は、観測だけでなく、スペースデブリの回収途や宇宙空間大量輸送への応用も考えられる。また、青木教授は、開発中のリニアモーターコイルの実物を披露した。テザーを伝導体としてリニアモーターを実現することで、上昇や下降を行なうものであり、GSPECなどでの採用も検討中とのことだ。

日本大学理工学部副学部長 JSEAフェロー 青木義男教授
日本学術会議マスタープラン2017では、成層圏エレベーターと軌道上エレベーターを組み合わせたハイブリッド宇宙エレベーターを含む、「宇宙インフラ整備のための低コスト宇宙輸送技術の研究開発」が採択された
STARS-Meのメインミッションは、ミニエレベーター移動のデモンストレーションであり、宇宙空間で2機体衛星とクライマーの実証評価を行なう
STARS-Meの実施体制。日本大学だけでなく静岡大学の研究室とも共同で行なっており、2017年12月末にエンジニアリングモデル、2018年1月末にフライトモデルを完成させる予定だ
ミッション内容。結合している2機の衛星からアンテナを展開させ、機体を分離、テザーを展開して、クライマーの移動を行なう
超小型衛星の諸元。2機を結合しているときのサイズは100×100×227mmで、重量は合計で2.66kgである
超小型テザー衛星の開発状況
青木教授が手にしているのが、超小型テザー衛星のイメージモックアップである
超小型テザー衛星のイメージモックアップ。1辺が100mmの立方体形状である
青木教授らが構想中のテザー展開衛星。1辺が600mmの立方体形状の衛星の中に、1辺が100mmの超小型衛星を多数搭載し、宇宙空間で放出、整列させテザーを展開。1辺が5kmの正方形状のテザー網を作るというもの。単独衛星に対して、圧倒的なQCD(Quality Cost Delivery)向上
テザー展開衛星は超小型衛星と同等のコストで、格段に高い性能を実現できる
テザー展開衛星の特徴。スペースデブリ衝突リスクが小さく、いくつかの衛星が壊れても運用可能であり、安く打ち上げることができる
テザー展開衛星の技術課題と実現の目処。1次元展開は実証済みであり、2020年までの短期課題として、2次元展開や撮像合成と情報定量化が挙げられ、2025年までの中長期課題として、長期耐久性の検証が挙げられる。5~10年以内の実用化を目指している
テザー展開技術の進化や応用。性能向上により、状態観察レベル向上が可能になる。また、新用途としてはスペースデブリの回収が考えられるほか、技術展開としては、ロケット打ち上げコストの低減や宇宙空間大量輸送への応用も考えられる
青木教授らが開発中のリニアモーターコイル。テザーを伝導体とすることで、リニアモーターを実現する