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慶應・野崎研、リアルハプティクスで力触覚を伝える双腕ロボットアームを開発
~CEATEC JAPAN 2017に出展
2017年9月29日 10:58
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と慶應義塾大学(野崎貴裕 理工学部システムデザイン工学科助教、村上俊之同学科教授、先導研究センター・ハプティクス研究センター)は、2017年9月28日、身体感覚を伝送可能な双腕型ロボット「General Purpose Arm(GP-Arm)」の開発に成功したと発表し、記者会見にてデモンストレーションを行なった。
マスター側(操作側)と移動台車上に乗った双腕ロボットのスレーブ側からなり、視覚、聴覚、移動感覚、触覚を伝送できるテレプレゼンスロボット。硬さや柔らかさ、変形やたわみなどを高精度にそのまま伝える独自の力触覚技術「リアルハプティクス技術」によって、ロボットがモノにふれた感覚を、あたかも直接さわったかのように伝えることができる。
視覚はスレーブ側のステレオカメラと、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)からなるビジョンシステムで伝える。腕は各関節で力を感じることができる。ロボットの移動の制御は、操作者の足元に置いた板下に設置されているモーターのトルク変化を検知する「筋収縮測定システム」を用いることで、操作者の脚部状態を測定。前進や後退、旋回動作が可能だ。
デモでは、紙コップに水を注いだり、キッチンペーパーを折りたたんでテーブル上を拭いたり、開発者である慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科助教の野崎貴裕氏の肩をロボットで揉んだり叩いたりするといった動作が披露された。
将来的にはロボットアバターとして危険な場所で遠隔作業をさせたり、操作データを保存することでロボットに自動作業させることを想定用途としている。
このシステムは10月3日から6日の日程で幕張メッセにて開催される「CEATEC JAPAN 2017」に出展される。すでに30社と共同研究をしており、その社名はCEATECで公開される(ホール4:ベンチャー&ユニバーシティエリア(S10-65))。
加速度規範の双方向制御で力を伝達する
NEDO ロボット・AI部 プロジェクトマネージャーの関根久氏は、NEDOが進めている「次世代人工知能・ロボット中核技術開発プロジェクト(略称:SamuRAIプロジェクト)」について概要を紹介。「人を豊かにする社会」に向けて、生産性の向上や高齢化対応などのためにロボットとAIの開発を進めていると述べた。今回のロボットアーム開発はその枠組みの一環。
今回のロボットアームは慶應義塾大学ハプティクス研究センター所長の大西公平教授らによるハプティクス技術と、人とロボットの協調をテーマに研究を行なっている同理工学部 村上俊之教授らによる力制御の基礎技術とがコア。
全体のシステムを開発した野崎貴裕氏は「少子高齢化によって人工的な労働力の創生が必要。だが、現在のロボットには致命的な欠陥がある」と、位置制御のみからの脱却の必要性をアピール。「現在のロボットはドリルを使った切削技術から発展してきた。そのため硬い物体に当たっても微動だにしないため頼もしい側面もあるが、物体に適応する能力が低く、従来の位置制御だけでは不十分だ」と力制御の必要性について説いた。
大西教授らが開発したハプティクス技術を双腕型ロボットに応用したのが今回のロボットである。視覚や聴覚はユニラテラル(一方向)な感覚だが、硬さとは、物体に力を与えたときの反力によって感じられるバイラテラル(双方向)な感覚だ。硬い物体ならカツンという鋭い反応が返ってくるし、柔らかい物体ならそれほどの反発は返ってこない。柔らかい物体を扱うには、力制御が必要になる。
スレーブ側が感知した硬さをマスター側に伝えるためには、時間遅れのない位置の追従と力の伝達が必要になる。だが接触動作において力制御の柔らかさと位置制御の硬さを両立させることには矛盾があり、そのままでは両立しない。
研究グループでは、この課題に対して「加速度規範のバイラテラル・コントロール(Acceleration-based Bilateral Control:ABC方式)」を提案している。モーターの回転角とトルクの制御を加速度次元で統合する数学的手法で、大雑把に言うと加速度を質量で割ったものの和をゼロにするのが力制御、その差をゼロにするのが位置制御になると見なせるような形に数学的に変換し、力制御と位置制御を行なう。力と位置の制御は実際には一万分の5秒程度ずれているのだが、人間にはその遅れはわからない。
原理は2002年に大西教授らによって発表され、2004年にデモシステムが公開された。現在でもハプティクスでは世界でもトップの技術だという。特許も取得している。位置センサーの情報から力を推定しているため、力センサーが不要で安定動作するところも特徴だ。
本物の力触覚「リアルハプティクス」で、アクションの時代を
単なる「ハプティクス」ではなく「リアルハプティクス」と呼んでいる理由は、振動や筋肉への刺激による錯覚ではなく、本当に力を伝えており、硬さ・柔らかさが把握できる技術だからだ。
人間の動作の保存や再現なども視野に入れている。単に再現するだけではなく、さまざまな人の動作情報を編集したり、拡大・縮小することもできるという。たとえば感じる力を倍にしたり、半分にしたりすることもできる。特定の周波数帯域だけの感覚を強調するようなことも可能だ。
わかりやすい例として、会見では、触覚を用いることでさまざまな形のネジに対応することができる例が動画で示された。たった1つのデータを用いていろいろな作業に対応ができるという。野崎氏は、IoTの次の形として「次はInternet of Actionsの世界がやってくる」と語った。
この技術は農業用選果・選別システムを開発しているシブヤ精機株式会社と慶應義塾大学によって共同発表されたばかりの新型の選果ロボットにもすでに搭載されている。また、各社と共同研究を行なっており、それらの一部はCEATECで発表される。
バイラテラル制御を簡単に行なうための力触覚コントローラ「ABC-Core」は20mm×20mmで、共同研究先にこのチップを貸し出す形になるという。将来的には、リアルハプティクス技術を事業化するために設立されたベンチャー会社・モーションリブ株式会社からビジネス展開される予定だ。
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