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「HoloLens」で建築業界にデジタル化のイノベーションを起こす

~日本マイクロソフトと小柳建設が提携

日本マイクロソフト株式会社代表取締役社長 平野拓也氏(中央左)、小柳建設株式会社代表取締役社長 小柳卓蔵氏(中央右)

 日本マイクロソフト株式会社と小柳建設株式会社は、Windows 10搭載ホログラフィックコンピュータ「Microsoft HoloLens (以下HoloLens)」を活用したプロジェクト「Holostruction」の推進において提携を発表した。

 都内で行なわれた記者発表会には日本マイクロソフト株式会社代表取締役社長の平野拓也氏、小柳建設株式会社代表取締役社長の小柳卓蔵氏が登壇。

 平野氏は、「HoloLensは、実際に触れられるアナログな現実世界(Phisical Reality)と、人工的に作り出された完全なデジタルである仮想世界(Virtual Reality)を重ね合わせ、融合させた複合現実(Mixed Reality)を実現するもの」と説明し、開発者からも多くの反響を得て、今ではWindows Storeで150以上のアプリケーションが公開されていると述べた。

 特に日本は他国と比較して購入者も多く、大きな盛り上がりを見せているとした。

 今回提携を発表した小柳建設では、日本国内での発売前に米国から入手するなど早期からHoloLensを活用しており、米Microsoftが提供する開発プログラムを締結することで、米Microsoftおよび日本マイクロソフトのコンサルティングサービスと連携してコンセプトモデルを開発してきたという。

 米Microsoftを含めたHoloLensの業務活用提携では、パイロットや整備士の訓練アプリケーションを開発した日本航空(JAL)に続く国内2社目となる。

 同氏は、日本マイクロソフトでは「近未来コミュニケーションの実践」、「建設現場社員の働き方改革」、「業務の透明性の確保」、「建設関連業務のデジタル化」という4つの軸で、小柳建設のデジタルトランスフォーメーションを支援すると述べた。

HoloLens
複合現実
4つの軸

 次いで登壇した小柳氏は、2020年のオリンピック・パラリンピックや、東北・九州での災害などを受け、土木建築業界に対するニーズが高まっていると述べた。

 しかし一方で、現状の建築業界は就労人口不足が深刻化しているという。少子高齢化に加えて、「汚い、キツい、危険」の“3K”や、業態が古いといったイメージ、耐震偽装などのデータ改竄といったマイナスイメージの事件による「不透明な業界」というレッテルなどが就労人口問題に拍車をかけているとした。

 結果、業界では「少子高齢化による就労人口対策」、「建設事業の構造改革」、「法制度や環境課題への対応」、「情報やテクノロジーの有効活用」の4つの課題を抱えているとする。

 同氏は、それらを解決することで、建設業界を子供から尊敬されるような「カッコイイ仕事」にすることを目指し、新潟という片田舎から業界にイノベーションを起こしたいと述べた。

 政府では「i-Construction」と称した建設業界のICT全面活用を推進する取り組みを行なっており、そういった背景から今回のHoloLensを活用した「Holostruction」の構想に至ったという。

 日本マイクロソフトとは以前からAzureの利用などで関係があり、今回の協業は共に創り上げていく「共創」でもあるとした。

建設業界の抱える課題
Holostructionコンセプト

 Holostructionのコンセプトは、「業務の透明性」、「安全性」、「現場の効率」の3点を高めるというもの。

 業務の透明性は、業務全体を“ガラス張り”にし、正しい情報を提供することで、計画や施工、検査など関わる人間すべてに共有することを目的としている。コンセプトモデルでは、さまざまなデータのデジタル化を行ない、すべての業務トレーサビリティを確保する仕組みになっているという。

 建設現場では、工事の検査を行なう検査員の負担や不足が課題となっており、BIM (Building Information Modeling)/CIM (Construction Information Modeling)といった設計から工事、メンテナンスまでサイクル全体のモデルに蓄積された3Dデータなど全情報を活用する仕組みを用いて、直感的な検査基準の検討、検査文章の作成負担の軽減にも取り組んでいる。

 また、本コンセプトモデルでは設計図を3Dで可視化しつつ、検査に必要なデータや文章も格納しており、紙文章に換わりホログラムだけで全書類を閲覧することも可能となっている。

 コンセプトモデルでは、現場と物理的に行き来が難しい場合や危険な場所などでも円滑なコミュニケーションが可能となるよう、HoloLensを活用した新たなコミュニケーションアイデアも試行している。物理的な場所にとらわれずに現場の状況を確認したり、視界の共有も可能なため、安全確保やコミュニケーションの迅速化が可能になるという。

 小柳氏は、「建設業の技術者は、2D(平面)の設計図を見て脳内で立体化できるようになって初めて1人前と言われるが、Holostructionがあれば入社初日から同じイメージを共有できる」とした。

 遠隔地からの通信では、同氏が実際に体験した際「まるでテレポートしたかのような感覚」を覚えたと述べ、いつでも現場の状況を判断し即決できることは大きな強みになると語り、事業者やパートナーとのコミュニケーションにも活用でき、働き方改革にも貢献できるとした。

業務の透明性
未来のBIM / CIMデータ活用
近未来コミュニケーションの実践

 平野氏は、今回の提携は第1弾であり、小柳建設の掲げるビジョンを実現する上でHoloLensは始まりに過ぎないと述べ、コグニティブやAIなどでまだ支援できることがあるとした。

 また建設業に限らず、製薬などでも紙を何年も保存する必要があるといったデジタルトランスフォームを妨げる問題を抱えており、解決に向けて政府との取り組みは1つの大きなポイントになっていると述べ、実際に省庁への働きかけなどを行なっていると語った。

 小柳氏は、今後発注者に向けた体験会を開催する予定であることを明かし、提案を行なうことで、発注者である行政機関に判断してもらう機会を作るという。IT企業ではなく建設業自身が提案を行なうことで、説得力も生まれるのではないかとの見方を示した。

複数人で建造物の3Dモデルを見るデモの様子