ニュース
東芝が31年かけて培った技術を集大成させた「dynabook V」の見所
~Kaby Lake搭載で17時間駆動のモバイル2in1
2016年12月3日 06:00
先日発表された東芝製モバイル2in1「dynabook V」シリーズは、同社が「これまでのノートPC開発31年間で培ってきた技術の集大成」であると表現するほどの意欲作だ。実際、製品発表会では開発担当者が、報道陣を前に製品分解を実演するなど、製品の表面からは見えにくい隅々まで紹介が行なわれた。
東芝が1985年に発売した「T1100」は世界初のラップトップPCだ。東芝クライアントソリューション株式会社取締役(技術・品質所管)の柏木和彦氏は、「我々は、PCを通じて人々の未来や、夢、想いを応援し、その可能性を広げる手伝いをしたいと考えている。その思想は今でも、そしてこれからも変わらない」と述べる。
直近の3年では、2013年に「ビジネスもプライベートも高品位に楽しめる」をテーマとした「dynabook KIRA」を、2014年には「綿密なペン作業でクリエイティブな作業も快適に」をテーマとした「dynabook KIRA L93」を、そして2015年に「考えることや創造的思考をサポート」をテーマとした「dynaPad」を投入した。
今回のdynabook Vは、ブランド名には「KIRA」も「Pad」も付かないが、これらの製品の機能や方向性を1台に融合させた製品で、タブレットにもモバイルPCにも、メインPCにもなり、かつ紙とボールペンのような書き心地の手書きをサポートする。
他方、新製品は、4月付けで東芝本体から分離し、東芝クライアントソリューション株式会社になって、初めて一から設計、開発した製品でもある。新会社の未来を占う上でも、重要な位置付けの製品となる。
モビリティの追求
製品のスペックなどは、過去記事を参照してもらうとして、発表会のスライドに沿って、製品の内面を紹介しよう。
モビリティを高めるには、マザーボードの小型化が重要となる。dynabook Vでは、第7世代CoreプロセッサやThunderbolt 3などを搭載し高機能化を図りつつも、10層基板の採用により、dynabook KIRAから基板面積を14%小型化。Thunderbolt 3については、同社製品として初搭載ということで、試作したコネクタ+基板を3D CTスキャンし、その情報を元にシミュレーションを行ない、最終的に製品化させるというプロセスを経ることで、規格通り40Gbpsという高速な通信を行なえる品質を確保した。
モバイル機器は持ち運ぶということで、振動や衝撃への信頼性を高めるためにもシミュレーションと解析を行なった。例えば、基板が反った時にCPUの角に負荷が集中することが分かった。一方で、厚さの制約から、デスクトップマザーボードのようなバックプレートは取り付けられない。そこで、小さなL字板金をCPU裏面の四隅に配置することで、負荷を低減させた。CPUだけでなく、あらゆるパーツごとに、強度、変形、熱応力、振動、衝撃についてのシミュレーションを実施。最終的には、製品全体でのシミュレーションと解析も行ない、全体のバランスを最適化した。これにより、薄型ながらも100kgfの面加圧と、76cm落下試験に耐える剛性を実現している。
剛性は、使い勝手にも影響する。顕著なのがキーボード面だ。タッチパッドは、従来の設計ではスペースキーとの間の歪みが大きくなることが応力シミュレーションで分かったため、サイドに補強リブを多く立てることで剛性を強化した。
今回の製品は、液晶が360度回転する機構を備えているため、スムーズに回転するが、きちっと止まり、かつ信頼性が高い2軸ヒンジを開発。2万回の開閉にも耐える堅牢性を確保した。
モバイル製品でもう1つ重要なのがバッテリの駆動時間。これは、デバイス毎に電力を測定し、その妥当性を検証し、電力ロスの最小化を1つ1つ積み重ねることで約17時間という長時間駆動を達成した。同時に、独自のバッテリ制御で、バッテリセルの寿命への影響を抑えつつ、30分の充電で7時間駆動できる急速充電を実現した。
モバイルでも高い性能
薄型のノートPCや2in1では、放熱の問題から高性能なCPUを搭載することが難しくなる。それに対し、dynabook Vは最新の第7世代Core i7を載せることに成功した。このCPUのTDPは15Wと、Core mの3倍以上だが、底面と背面から吸気する「W吸気」機構と、新開発の薄型ファンにより、メインPCとしても使える性能を実現した。
モバイルPCとしては異例なのが、音質へのこだわりだ。harman/kardonと共同開発したスピーカーは、音質を損なわずに低音域の音量を増強するため、スピーカーボックス内でのバスレフの形状を最適化し、空気の流れるエリアをも考慮して筐体を設計した。また、ノートPCでは両脇に設置されることが多いが、前面下部に前向きに配置することで、指向性の高い高音域の再現性を高めた。
紙とボールペンに近いペンの書き心地
dynaPadでも訴求されていたペンの書き心地は、さらに改良された。まず、パネルはペン先との視差が少ないダイレクトボンディングを採用。また、映り込みが少ない非光沢のシートを貼ってあるが、これは見た目だけでなく、ペン芯との摩擦係数を最適化したものとなっており、紙+ボールペンに極めて近い書き心地を実現した。
キーボードも見えないところにさまざまな配慮がなされている。キーピッチは19mm、キーストロークは1.5mmを確保。さらに、キートップ中央に0.2mmのへこみを持たせ、フォントも見やすいものに変更し、バックライトも搭載。パーツ自体は薄くてペラペラしたものだが、多数のネジで最適な位置に留めることで、たわまないようにし、打鍵感を改良した。