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月産30万台の能力を持つ東芝情報機器杭州社PC製造ライン見学記
2016年8月26日 06:00
別記事でお伝えしたとおり、現在、東芝のPCは中国・杭州にある東芝情報機器杭州社(Toshiba Information Equipment Hangzhou:以下TIH)にて設計・製造されている。TIHは、日本メーカーならではのものづくりの力と、多くのコンポーネントメーカーの工場が近辺に集結する立地条件などを活かし、高品質なPCを高効率・低コストで製造することを目指す。本稿では、マザーボードから製造するそのラインの様子を順を追ってご紹介する。
部品調達&ピッキング
CPUやメモリ、電源、液晶パネルなどは、各部材メーカーから随時納品される。適宜抜き取り検査を行なうが、電気用品安全法の対象部品や筐体は全数検査を行なう。電気用品安全法の対象となるACアダプタやバッテリについては、自動検査を行なうとともに、シリアルナンバーをスキャンすることで、製造ラインでも検査情報を確認し、未検査品が出荷されるのを防止している。また、筺体では外観、反り、寸法などを検査している。
検査に合格したものは倉庫にて受け入れられるが、注文に応じて都度製造ラインへ払い出すことで、TIHとしては余分な部品を払い出さないことにしている。
こういった倉庫では、部材が荷崩れするのを防ぐため、いくつかの段ボール単位でストレッチフィルムで包む姿が見受けられるが、TIHでは布製の大きな帯(エコベルト)で包んでいる。これは、開梱時にストレッチフィルムがゴミになってしまうため、使い回しのきく布製の帯を使うことで環境に配慮している。
注文が入ると、そのPCに必要な部材をピッキングする。TIHでは、この秋モデルから大ロットで生産するコンシューマ向けPCの製造も開始しているが、従来通り法人向けPCも扱っている。法人向け製品もBTOに対応しているが、小ロットの注文数が多いため、それまで個別の注文ごとにピッキングしていたのを複数の注文分を同時にピッキングする形に改善した。
また、ピッキング専用のタブレットを開発。従来はハンディーターミナルで棚のバーコードをスキャンして部材を判別していたが、タブレットに部材の写真を表示し、次の部材がある棚を音声で指示するなど、視覚と聴覚の両方で分かるシステムを構築し、ピッキングの精度を高めた。
また、要所要所に設置されたディスプレイには、製造ラインでの組み立て、部材配置、ピッキング、注文などの進捗状況が全て可視化されており、状況に応じて即座にピッキングの優先順位やラインへの人員配置などを調整するシステムも導入している。
ピッキングは人手で行なうが、ピッキングした部材の一部は、ロボットが製造ラインまで自動配送する。ちょっと大きなお掃除ロボットのような無人搬送車「AGV」は、部材を載せたカートを下から支え、エレベーターも乗りこなして、目的の場所まで部材を届ける。バッテリ駆動式で、バッテリがなくなりかけると、充電ステーションへ自動で移動する。このAGVは地元のベンダーや大学との協業により制作されたもので、最先端技術と低コストを実現し、生産効率向上に寄与している。
マザーボード製造
別記事で紹介したとおり、TIHではマザーボードの設計・製造も自前で行なっている。別記事でも触れたとおり、TIHのマザーボード製造ラインでは、これまでに培ったノウハウを元に、マザーボードの不良率を徹底的に低減し、製造ラインでのマザーボード単体での通電チェックを不要とした。また、全ての部品を自動実装できるようにしたことも合わせ、製造リードタイムを2日から3時間に短縮。月産30万枚の製造能力を有する。
マザーボードは両面実装となるため、表面を実装するラインと裏面を実装するラインがペアとなり、これが6ペアある。また、7~8年前には工程内の手作業や各種チェック作業で1ラインに10~15人のスタッフが必要だったものが、2~3人にまで減らしている。
マザーボード製造ラインでは、まずプリント基板にはんだを印刷。微小なはんだ粉をペースト状にして、基板に充填する。次に、リールに巻かれた状態で納入された各電子部品が、このはんだペーストの上に1つ1つ自動的に装着されていく。
部品が全て装着されると、はんだ付け炉ではんだ付けが行なわれる。この際、加熱によってプリント基板に反りが生じ、これによって不良に繋がることもある。TIHでは過去に溜めた莫大なデータやシミュレーションで得られた情報を元に、基板にとって負荷の低い温度設定などの最適な条件ではんだ付けを行なう。
プリント基板に実装される部品数は1,500~2,000個にも及ぶが、はんだ印刷や電子部品の装着の様子は機械によって、はんだの体積や高さ、そして部品の実装のずれなどが全て自動撮影され機械が不良を判定している。さらに撮影された膨大なデータを分析し、搭載精度が悪化している、あるいは悪化しそうな部品に対して、調整の必要を自動分析し、それに基づいた調整がエンジニアによってなされる。なお、全ての部品について、その製造履歴情報がTIHでは記録されている。
SoCなどBGA部品に対しては、信頼性を高めるため、接着剤による接着を行なっている。新たにUV硬化接着剤と自動塗布装置を開発し、塗布の自動化とUV硬化プロセスを導入することで、基板の信頼性と生産性を同時に上げた。
ちなみに、TIHでは、これらのマザーボード製造ラインの装置の保守部品を揃え、整備も自前で行なっている。
組み立て&検査
PCの組み立て製造ラインは13本あり、大ロットライン、中ロットライン、小ロットラインに分けられている。大ロットとは、同じ構成で多数製造するもので、量販店で販売されるコンシューマ向けモデルなどが相当する。
大ロットラインでの作業は、ベルトコンベアによる流れ作業だ。順番に流れてくる部材に対して、各担当者が同じ部品を組み付けていく。工程によって作業の難易度は異なるが、TIHではその難易度と作業者のスキルレベルを数値化し、作業者のスキルレベルを定量的に把握し、ラインでの作業者の最適配置と計画的な作業者のスキルアップを行なっている。
一方小ロットでは、ラインがセル化されており、熟練のスタッフが1人で1台を全て組み上げる。多品種BTOを行なう中間の中ロットラインもある。現場では、ラインリーダーを中心に、どのようにすれば生産効率が上がるかなどを常に意識しており、時には現場のチームでアイディア出しを行ない、改善へと繋げていく。
組み立てが終わると、検査に入る。これまで、キーボードや、画面出力、音声出力などは3人のスタッフが自らの五感を使って、触る、見る、聴くなどして検査していた。これも今では自動化されており、ロボットアームが作業を行なう。光学メディアの挿入+読み取り検査も自動化されている。
検査の後は、エージングとソフトウェアのインストールを行なう。これも自動化されており、ネットワーク経由でOSやソフト、エージングプログラムが自動的にインストールされ、エージングを行なう。エージングの後、組み立てに問題がないかを確認するため、ランダムで抜き取り分解検査も行なう。これらの検査、エージングが終わると、梱包に入るが、ここでも抜き取りで開梱検査を実施。全ての品質を確認、保証されたものが、ここから出荷されていく。
ソフトウェアインストールとエージングにかかる5時間を含んだ部品のピッキングから梱包が完了するまでの時間は9時間だ。
愚直に日本のものづくりを行なうTIH
以上の通り、TIHにおけるPCの設計・製造は日本ならではの厳しいレベルの品質を、徹底した効率の上で実現している。また、それらは日々現場での反省、発案を元に常に改善されている。TIH総経理の中原氏の言葉を借りるなら「愚直にものづくりを行なっているだけ」と言うが、率直に言って、今回の取材を通じ、先頃の東芝本社での会計問題や、中国での製造にまつわる不安は一掃され、日本人として非常に頼もしいと感じることができた。
最終的にその良さを判断するのはユーザーとなるが、これまでの1年から2年間へと延長された保証にも裏打ちされているとおり、その品質には一定の期待をおけるだろう。