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FOVE 0購入前に疑問を解決。あれやこれやを小島CEOに聞いてみた

~今後はVRの中のキャラがユーザーの視線に照れたりするように

FOVE 0を手に持つCEOの小島由香氏

 別記事にて掲載している通り、FOVEは11月3日より視線追跡型VR HMD「FOVE 0」の予約受け付けを公式ホームページで開始した。1週間内であれば通常価格から50ドルを引いた549ドルで注文できる。

 短時間ながら過日に同社CEOの小島由香氏にインタビューする機会を得たので、FOVE 0の特徴や動作タイトルなどについて、いくつかの質問とその回答を掲載している。購入の参考にして欲しい。

――Vive対応ゲームはFOVE 0で動くそうですが、どの程度互換性が維持されるのでしょうか? また、Vive用のゲームを遊ぶ目的でFOVE 0を購入しても大きな問題は生じないのでしょうか?

小島(敬称略、以下同) Steam対応後はLighthouseを必要としないもの(Xboxコントローラ対応型)は遊べる想定です。また、既にSteamVR対応のOculusの250超タイトルに対してはそのまま遊べます。

――FOVE 0対応として発表されるゲームタイトルはありますか?

小島 発売ではありませんが、バンドルとして東京ゲームショウ 2016で発表したシューティングデモゲーム「Project Falcon」、目線でコミュニケーションを図るデモゲーム「Judgement」、瞬きを用いたミニゲーム「Functions」などはバンドルする予定です。また、来年(2017年)2月からはインターネットカフェでもFOVEコンテンツを楽しむことができ、こちらは現在30社ほどが開発を進めています。

――視線追跡型は現在市場に出回っているポジショントラッキングがメインのVR HMDよりも酔いにくいとしていますが、それはなぜでしょうか?

小島 既存の“画面中心に照準ポイントが固定されているUI”では、単純な選択動作でも頭を大きく振る必要があります。視線追跡型VR HMDでは頭を振って固定された照準に合わせるのではなく、目で見たところに照準が動き、選択することができます。これにより大きく頭を振る必要がなく、三半規管に優しいため酔いづらいと言われています。

 また、画面全てにピントが合っているという現在のスタンダードなVR HMDは不自然で現実との差異を生み、かつ画面の情報量が多すぎるため、VR酔いに繋がっています。視線追跡技術により、見ているところのみピントを合わせ、そのほかの領域を自然にぼかすことで、より現実に近いVR体験を提供できます。

――視線追跡のセンサーではどこまで目のアクションを把握できるのでしょうか?

小島 目の開閉状況、まばたき、片目つぶり、奥行き情報を含んだ視線まで把握できます。従って目を閉じている時間、瞬きの回数もカウント可能です。目を細めるなどは現在研究を進めており、ご提供できる精度を確認次第、随時SDKに追加していく予定です。

――フォービエイテッドレンダリングについて、注視点以外の解像度を落として負荷を軽減できるとのことですが、解像度はどの程度まで落ちるのでしょうか? また、同機能を実行した場合としなかった場合で、PC側はどれほどの負荷軽減に繋がるのでしょうか?

小島 注視点以外の解像度の落とし方はコンテンツの特性によって変わってくると考えています。理論的には本技術を使用することで通常の6分の1程度の負荷となると言われています。

――FOVE 0で、Kickstarterのストレッチゴールに設定されていた「ADVANCED GAZE ANALYSIS」および「Lighthouse」に対応する予定はありますか? または次世代のFOVEには搭載されますか?

小島 どちらも既に研究開発を進めており、対応する予定です。次世代FOVEには搭載したいと考えており、今後とも研究開発を進めていきます。

――既存のゲームをFOVE 0の視線追跡に対応させるのは難易度が高い作業なのでしょうか? それとも開発者は容易に実装できるのでしょうか?

小島 UnityやUnreal Engine、Xenkoといったゲームエンジンをサポートしており、プラグインも現在準備しています。これらを用いれば既存コンテンツを一から作り直さなくても、FOVE 0でプレイ可能な形に比較的簡単に対応できます。

――OculusやVive用に既に発売されているタイトルで、新たにFOVE 0に対応させるといったタイトルは今のところ出てきているのでしょうか?

小島 開発者用VR ヘッドセットのFOVE 0がこれから世に出る段階のため、まだ完成したという話は聞いていませんが、コンバートしたいというお話は各所から頂戴しています。タイトル名はまだ検討段階のため控えさせてください。

――OculusおよびViveのタイトルはSteamから購入できますが、FOVEの場合も基本はSteamで展開されるのでしょうか? その場合Steam上のタイトルにViveなどと同じようにFOVEのアイコンが追加されますか?

小島 Steamとインターネットカフェ独自プラットフォーム「Virtual Gate」(提携先のTechnoBlood社運営)が主なタッチポイントだと考えています。Steamに関しては現在交渉を進めており、アイコンが追加される可能性もあります。

――OculusとViveのように独自のコントローラを出す予定はありますか? 東京ゲームショウではXboxのコントローラを使ってデモを行なっていましたが、ゲームをプレイする場合に適したコントローラはXboxのものなのでしょうか?

小島 現状、独自コントローラの製作は検討中です。弊社は3年以上前から続けているVRでの視線追跡技術試用経験が強みであり、視線が適したアクションや視線で行なうべき操作に関して知見が溜まってきています。全てを視線で無理やり操作するよりも、より自然に近いアクションの方が没入感が高まるため、例えば敵に照準を合わせるのは方向キーでなく視線追跡で、銃のトリガーを引くのはコントローラで、という分け方をして、東京ゲームショウではXboxコントローラを使用しました。そのためXboxコントローラに限定する理由もございません。

――FOVEはViveとの互換性が高いとのことですが、Vive用のコントローラは使えますか?

小島 Steam対応後はLighthouseを必要としないもの(Xboxコントローラ対応型)は遊べる想定ですが、Viveコントローラ必須のものは使えません。

――既にOculus RiftやHTC Vive、PS VRを持っているユーザーに対し、視線追跡以外でFOVE 0はどのような点をアピールができるのでしょうか?

小島 2,560×1,440で1枚の有機ELパネルを使っているため、他HMDと比較して42%ピクセル密度が高く綺麗に見えます。また独自開発のポジショントラッキング精度も安定しています。

――OLEDのパネルはSamsung製のものでしょうか?

小島 はい、Samsungのものです。

――FOVE 0についてネットカフェ以外にも導入予定の商業施設などはありますでしょうか? またはそういったことを検討したいというコンタクトは来ていますか?

小島 現時点で発表できる施設はありませんが、導入検討のご相談はありがたいことにたくさん頂戴しています。限られた人数で対応しているため、親和性を加味しながら今後も視線追跡を体験できる場を増やしていきたいと考えています。

――次世代FOVEの構想として表情認識を挙げているのはなぜでしょうか? ハプティクスといった触覚で没入感をもたらす機能についても導入を検討しているのでしょうか?

小島 VR空間における感情の表現力、そしてコミュニケーションの質をより高めたい、という観点で表情認識を第一に検討しています。ハプティクスセンサーによるデバイスも没入感やできることの幅を広げますが、まずは“Face to Face”、つまり目と表情を用いて、アバター上に自身の表情や、感情をトレースすることでVR空間でストレスなくコミュニケーションできる世界を目指したいと考えています。

――現状ではVRはまだ普及前の段階にあると言えますが、VR市場を着実に盛り上げて行くために必要と考えられることは何でしょうか?

小島 ハードウェア側で言うと第一に環境含めた低価格化。つまり必要なPCスペックの低下と、GPUの低価格化。もしくはGPU一体型HMDに向けた強力で省エネなGPU開発。来たる4Kパネル時代でどんどん必要スペックが上がっていくので、マスに市場を広げる上では重要となってくると思います。ビジネス面では、エンターテイメント以外での市場の開拓。医療、教育など公的機関と連携して広く導入できる事例を作っていければ社会に新たな形で根付いていけるのではと思います。

――先日Microsoftが、Windows HolographicをサポートするMR(Mixed Reality) HMDを299ドルの価格でメーカー各社から提供されると発表しましたが、FOVE 0にとって脅威となり得ますか?

小島 基本的には、FOVEは視線追跡技術から始まり表情認識といった、より表現力重視の方向へ向かっていくため、Microsoftが提案するMRとは住み分けが図れると考えています。また、視線技術をライセンスしていくという点では協業も可能と考えます。

――FOVE 0の構想から、クラウドファンディングが始まり、そして今年(2016年)にはいよいよ開発キットが出荷されます。この期間を振り返ってみていかがだったでしょうか?

小島 量産まで想像以上に時間がかかりましたし、必要コストも当初の見積もりを大きく超えています。市場も大きく変わりましたね。会社を立ち上げた時はまだOculusがFacebookに買収される前でPlaystation VRの発表もありませんでした。しかし、そこからHTC、Samsung、Microsoftとどんどん大企業が参入してきて心臓に悪いです。初めてのスタートアップ、初めての量産、ということで1つ1つが苦労の連続でしたが、やはり一番苦労したのは、激変する市場の中、自分たちが作りたいものをぶらさずに、信じ続けることだったかもしれません。でも、日本のみならず世界からここまで反響をいただけたということも想定外だったので良くも悪くも計画通りには進みませんでしたが、結果的には良い位置にいると思っています。

――ユーザーに知って欲しいFOVE 0の魅力とは何でしょうか?

小島 個人的に押したいのはAIキャラクターとのコミュニケーションです。今まではユーザーがどこを見ているのかキャラクターが認識することはなかったのですが、これからは視線がばれるので「見られている」という意識をプレイヤーが持つことになります。それは今まで持っていなかった緊張感だと思います。ユーザーの視線を読むことでキャラクターが攻撃を先読みしたり、嘘を見抜いたり、このAIがこちらの感情的な情報を読み取り頭が良くなっていくというのは、今後のVRの表現力においてすごい可能性を秘めていると感じています。

――最後になりますが、FOVE 0を買おうか迷っているユーザーにひと言お願いします。

小島 VRで最先端を狙うなら、今、視線追跡に手を付けるべき! 視線追跡機能はすぐに世界標準になります。どのVR HMDも基本機能はほぼ横並びだと思うのですが、FOVE 0は世界初の、すぐにご家庭で開発実装可能な視線追跡技術を持つVRヘッドセットになっています。この1点においてはどこにも競合コンテンツがない、間違いなく世界最先端を自分で作れるプレイグラウンドだと思います。VR全体のデザインルールが作れるチャンスです。

 視線追跡はハードウェア的には1つの機能ですが、UI、コミュニケーション、AI、焦点表現などゲームデザインの文法を根本から変える可能性がある、開拓途上の宝島みたいな機能です。ぜひ世界をびっくりさせる視線追跡コンテンツを、FOVE 0で、誰よりも早く作ってください! FOVEも皆さんのイマジネーションを全力でサポートします。


 小島CEOは以前よりインタラクティブなものに興味を持っているとのことで、FOVEではそういった相互にコミュニケーションが行なえるようなデバイスになることを1つの目的にしていると言う。

 VRコミュニケーションの代表作と言ったら自分の中ではサマーレッスンなのだが、これについて小島CEOにうかがってみたところ、「サマーレッスンいいですよね~。直接試したら本当に良くって」と述べ、VR開発者としてもサマーレッスンは楽しめる作品のようだ。小島CEOは、実物感や実在感を感じるだけのコンテンツはたくさんあるものの、サマーレッスンのすごいところはインタラクションが綺麗に決まっているからとのことで、「あれは自分にとって1つの目指す形です。できればアイトラッキングを使って密にイチャイチャしてほしいですね~」と語っていた。

 小島CEOによれば、「現状のサマーレッスンでは頭の傾きでキャラが反応しており、大まかな方向は見えるものの、顔全体を見ているのか目を見ているか、口を見ているのか、そういった細かいキー配置をするならアイトラッキングが適しているのではないでしょうか」とのことで、より没入感を得るためにFOVE 0で実装したいという素直な感想をいただけた。そうなってくれれば、あの手のゲームが大好きな筆者としても願ったり叶ったりである。

 ちなみに好きなゲームについてうかがってみたところ、Rockstar Gamesの刑事もの「L.A.ノワール」が好きだという。「あれは尋問するゲームなんですが、逆に尋問されてみたいんです!」とやや興奮気味に話をしてくれた。なお、最近は物語が分岐するインタラクティブシネマものを片っ端からやっているとのことで、その中でも突如時間を巻き戻す超能力を得てしまった少女の物語「Life Is Strange」が楽しかったそうだ。