やじうまミニレビュー

世界に1つだけのキーボードが特注できる「VARMILO」で往年の名機を再現してみた

やじうまミニレビューは、1つ持っておくと便利なPC周りのグッズや、ちょっとしたガジェットなど幅広いジャンルの製品を試して紹介するコーナーです。
届いたCMX 340X復刻キーボード

自作キーボードブームの影で

 「自作」が大きなジャンルを形成しているパソコン業界だが、「自作キーボード」はちょっと特殊である。規格にあったパーツを揃えれば実質はめ込むだけのパソコン本体とは違い、もう1つレイヤーが下というか、基板から作ってスイッチをハンダ付けとなると、急にハードルが上がるのは事実である。

 とは言え、自分の中にキーボードとしての理想像がしっかりある人は、どうしても市販の物ではかゆいところに手が届かないというか、フィットしない感をいつまでも持ち続けることになる。そうしたストレスから解放されるために、自作キーボードを指南するサイトで情報を得たり、リアルショップでは自作キーボードの聖地、秋葉原の遊舎工房が頼りになるところである。

 だが地方に住んでいると、なかなか秋葉原に出かける機会もないし、パーツの発注も組み立ても、周囲に仲間がいないので不安がある。そんな折も折、ユーザーの発注どおりにカスタムでキーボードを作ってくれるサービスがスタートした。

 株式会社フェルマーが運営する「VARMILO(アルミロ)」がそれだ。さすがに左右分離しているベース基板はないのだが、キートップやスイッチを1つ1つカスタムできるのは魅力である。このサービスを使って、筆者のキーボードへのこだわりの原点となったモデルを再現してみることにした。

オンサイトでカスタマイズ

 VARMILOでカスタマイズできるキーボードは、「65%」と「80%」のテンキーレスと、「100%」「110%」のフルキーボードの4種だ。今回は省スペースなキーボードが欲しかったので、「65%」をベースにしていく。

 まず最初に有線/無線、LEDの有無、Mac/Windows/両用などから大まかにタイプを選択する。静電容量スイッチがいい人はここで選択を間違えないようにしたい。今回はオーソドックスな「有線/単色LED選択可」から作っていく。

まずは基本仕様を選択

 カスタマイズできるのは、ベースプレートの色、ケースの表裏、キートップの色とフォント、スイッチの種類などだ。汎用的に使うキーボードであれば、キートップはオーソドックスに、スイッチにこだわるといった選択になるだろう。一方、何らかの専用キーボードを作る場合は、ショートカット用にキートップを色分けするという事になる。

キーカラー以外に印字の仕様も選択できる

 スイッチの選択肢は豊富だ。Cherryの各軸はもちろんのこと、KaithやZealioの各色も選択可能だ。各スイッチの特性をあらかじめ知っていないと選べないとは思うが、キー1個1個に別のスイッチを割り当てることができるのは面白い。Realforceなどでは小指で打つキーのみ軽くするといった配列の製品もあるが、それを真似することもできる。さらには、キーを見なくても指先の感覚だけでどのキーかわかるといった、マニアックなカスタマイズも可能になるわけだ。

1つ1つのキーに個別のスイッチをアサイン可能

 今回はキートップのカラーにこだわり、スイッチはCherryの赤軸で統一した。その結果、16,595円という値段となった。ただ日本までの送料が5,000円かかるのが痛いところだ。もう少し安ければ気軽に発注できるのだが。

 発注したのち、メールで製造開始の案内が届くほか、サイトでは製品の製造工程が追跡できる。注文したのが9月7日で、3日ぐらいで組み立てまで終わったようだ。発送は翌週になったようだが、17日には日本に到着、そこで検品を受けて、自宅まで発送される。手元に受け取ったのが19日だったので、発注から2週間弱で届いたことになる。ただメーカーとしては、発注から到着まで3週間ぐらいを目安にしてほしいということであった。

製造工程がトラッキングできる

思い出のキーボードを復刻

 今回筆者が作りたかったのは、1970年代に存在した、ビデオ編集システムの米国Oroxの「CMX340X」というモデルの専用キーボードである。現物はすでに入手不可能なので、その復刻版を作ろうというわけだ。CMXは筆者がキーボード操作を覚えた最初のマシンであり、キーボードショートカットだけでビデオ編集のすべての操作ができるという発想は、のちのリニア・ノンリニア編集システムに大きな影響を与えた。

 その配色がこれである。ネットで検索しても鮮明な写真はほとんどなく、英語版Wikipediaに載っているのは筆者が使っていた340Xよりも新しいモデルのようで、配列が異なっていた。それでもなんとかピントの甘い写真を見つけて、記憶を頼りに再現した。

接続はUSB-TypeC
足は1段のみ

 「CapsLock」と「Q」の赤いキーの位置が、レコーディングコマンドである。ただし本当のコマンドは「Ctrl+Q」だ。CMXはUnixベースのシステムだったので、PCキーボードのCapsLockの位置がCtrlキーだったのだ。今回はこの色配列にこだわりたかったので、やむなくCapLockを赤とした。後発のソニーの編集機ではレコーディングコマンドが「Ctrl+E」とキー同士が離れて閉まったので、とても使いにくかった。EditのEなのかもしれないが、そういうところは余計なお世話であった。

 A〜Lまでの緑の列はVTRやカメラソースの切り換え、Y〜Oまでの青はレコーディング対象選択、すなわちV/A、Vのみ、A1のみ、A2のみ(当時のVTRはオーディオトラックが2つしかなかった)である。Z〜Nまでの列は、VTRの巻き戻し、早送り、再生、ポーズ、スローといったコントロール部である。「M」と「<」はそれぞれIN点、OUT点の設定だ。

ベースを赤にしたので、色が引き立つ
静音性を考慮してCherry赤軸を選択

 W〜Tまでの配色は、本当は山吹色みたいなカラーなのだが、選択肢がなかったのでピンクになってしまったが、雰囲気は出ていると思う。

 すでにCMX本体も実動するものがないので、この配色は何の意味も持たないが、筆者がキーボード操作を覚えた配色がこれであり、もう二度と触ることはできないと思っていただけに、懐かしさとうれしさでいっぱいである。さらにこの配色でタイプすると、不思議とミスタッチが減った。三つ子の魂百までなどというが、この配色でキーの位置を覚えてしまっており、体がそれを忘れていないのだろう。

 キーボード自作は超実用的ではあるが、こうした思い出のキーボードを作ってみるという非実用的な事ができるのも、自作キーボードブームのおかげであろう。筆者的にはとても満足した買い物であった。