やじうまミニレビュー
単体でリアルタイム配信できる全天球カメラ「Pilot Era」
2019年6月4日 12:00
中国Pisofttechが現在Indiegogoで出資を募っている「Pilot Era」は、カメラ内で動画や写真のステッチングを行なえる、“真の世界初オールインワン”を謳う全天球カメラである。
一般的な全天球カメラは、それ自体でステッチングが行なえても、プレビューを表示したり配信をしたりすることはできず、別途スマートフォンやPCを用意する必要がある。
しかしPilot EraはAndroidをベースとしたPilot OS、および800×480ドット表示対応3.1型液晶を内蔵しており、本体のみでプレビューや、360度動画のリアルタイム配信が行できるのが特徴。また、8K解像度にも対応し、後処理なら24fps、リアルタイム処理なら7fpsの動画を生成できる。
そしてもう1つのポイントは、Nano SIMに対応し、4G/LTEを介して直接各種動画サービスにリアルタイム配信できる点である。今回、COMPUTEX TAIPEI 2019の開催に合わせて、本機を台湾に持ち込んで試す機会を得たので、本製品の特徴の1つであるリアルタイム配信機能に絞って、簡単に使用レビューをお届けしたい。
アマチュアというよりプロ向け
Pilot Eraはそれ自体でリアルタイム配信などもできるようになっているわけだが、その分、リコーのTHETAシリーズなどと比較すると、本体はかなり大きく重くなっており、サイズは61.4×61.4×159mm(同)、重量は690gとなる。
カバンの隙間に入れておいて手軽に旅行に持っていき気が向いたら使うサイズというより、事前に配信スケジュールなどきちんと決めたうえで持ち運んで使う、プロを意識したタイプの製品だろう。
製品版がどうなるかわからないが、試作機には専用のバッグが付属しており、本体、バッテリ、ドック、ACアダプタ、ケーブルをきれいに収納できた。この点もプロ向けを意識しているように思われる。
Wi-Fiを介した配信であれば本体のみで行なえるが、Gigabit Ethernetを使った配信や、LTEを使った配信には、下部に別途ドックを付ける必要がある。サイズと重量が増すため、さらに手軽とは言いにくくなる。もっとも、それでも1kgを切るため、プロユースなら軽いほうかもしれない。
バッテリは着脱式で、液晶背面に装着する。本体前面の液晶下部にはホームボタンを備えており、いつでもホームに戻れる。そして左右側面には、シャッターボタンと排気口を備えている。カメラは各面に1基ずつ備える。底面には三脚用のネジ穴と、USB Type-Cを備えている。本機のほとんどの操作は画面で行なうため、インターフェイスは最小限だ。
シンプルなUI。画質は発展途上
本機はAndroid OSをベースとしているものの、独自のランチャーを搭載しており、機能を「Camera」、「Gallery」、「Live」、「Settings」の4つに絞っている。そのため操作に戸惑うことはほとんどない。
Cameraでは、360度写真、ステッチ前の4枚の写真、360度動画、Google Street View動画が撮影できる。プレビューの表示方法を切り替える機能も搭載しており、用途に応じて使い分けるといいだろう。
ステッチ処理済み写真(8,192×4,096ドット)と、リアルタイムステッチ処理済み動画(3,840×1,920ドット/30fps)の例を以下に示す。
写真に関してはダイナミックレンジが狭く、継ぎ目の処理も近景は一部うまく行っていないように見える(本機がステッチング可能なのは2mから無限遠のようだ)。とはいえ、その場の雰囲気や臨場感を伝えるのには十分ではないだろうか。
本機はソニーセンサーの採用が謳われているほか、ソフトウェアを含めてまだ試作段階であり、画質についてはチューニングの余地が残されている。アップデートについてもかなり頻繁に行なわれていたため、今後に期待したい。
一方、動画に関してもステッチング処理がうまく行なわれていないほか、ダイナミックレンジが狭くにすぐに白飛び/黒つぶれしてしまう傾向がある。露出に関しては周囲の状況に応じて自動で変化するものの、写したいものが白飛びしているからそこに合わせて露出を手動で変更する、といったことはできない。このため、こちらも1つの対象物を撮影したりするのには向いておらず、あくまでも周囲の雰囲気を伝える用として捉えたほうがいいだろう。
ちなみに写真も動画も5cm距離からのパンフォーカスのみで、AFは備えていない。もっとも、360度全天球カメラという性質上、パンフォーカスやシーン全体の露出調整になっているのは致し方がないところだ。
4G経由でリアルタイムストリーミングを試す
今回、台湾で中華電信のSIMとFacebookを使い、4G経由で動画のリアルタイムストリーミング配信にも挑戦してみた。
ネットワーク接続に関して、SIMを挿入して設定メニューから4Gをオンにするだけで使えたが、設定画面にはAPNなどの設定はなかった。おそらくAndroidでプリセットされているもののみの対応、ということだろう。そのため大手キャリアならともかく、今後登場する新キャリアやMVNOの類の対応はやや気になるところではある(もっとも、本製品は日本国内で無線関連を取得していないが)。
ストリーミングの設定は至って簡単。Liveのアプリを起動してLIVEのボタンを押すと、どのサービスでストリーミングを行なうのか聞かれるので、画面に従ってIDとパスワードを入力していけばよい。設定はほぼそれだけだ。
じっさいにFacebookを介して360度の4K(4,096×1,080ドット)動画をストリーミング配信してみたが、配信中は3~12Mbps、平均8Mbpsほどの帯域を消費した。通信が途切れたり帯域が不足したりすると動画がコマ落ちしたり途切れたりするようだ。画質についてはオフラインで撮影される動画とほぼ同等のレベルだが、スマートフォンなどを経由して鑑賞する分には十分だ。
「抜け道」を利用して仕様をチェック
先述のとおり本機はPilot OSというAndroidをベースとした独自OSで、ほかのAndroidアプリをインストールしたり起動したりする手段は用意されていないのだが、試作機はLIVEアプリにおいて、YouTubeアカウントのログイン画面で、Chromeブラウザへ抜けるための道が用意されている。これを利用してランチャーソフトをインストールすれば、通常のAndroidのように使うことが可能になる。
試作機にはGoogle Playストアが用意されておらず、いまのところ対応する予定はなさそうなため、単なる「全天球カメラつきAndroidスマホ」として使うのはハードルが高いように思う。
本機のSoCは未公開のため、これを機会にCPUIDのサイトからダウンロードできる「CPU-Z for Android 1.24」を入れて情報を確認したところ、6コアのSamsungのExynos 8890と認識された。一方「Antutu Benchmark 7.3.1」では、6コアのExynos 8895として認識されるなど、相違が見受けられる。
認識されるLITTLEのCPUコア側はいずれのソフトでもCortex A53で共通なのだが、big側は8895がExynos M2、8890がExynos M1であり、違いはある。とはいえ、そもそもコア数が8コアではなく6コアなので、説明のとおりカスタムSoCである可能性が高い。ただ、GPUはCPU-ZでもAntutuでもMali-G71として認識されているため、どちらかといえば8895をベースにカスタマイズしたSoCである可能性が高いと言えるだろう。
いずれにしても、本機のSoCはかなりパワフルだ。メモリが4GBで、ストレージが512GBのUFSであるなど、カメラとしもスマートフォンとしてもかなりリッチな仕様である。もっとも、リアルタイムに8K動画をステッチング処理するパワーが必要なので、ハイエンド仕様なのはごく自然なことだといえる。
ネットワークさえあればどこでもリアルタイムに配信。画質の改善に期待
4Gネットワークを介して直接リアルタイム動画配信できるPilot Eraは、360度全天球カメラのなかでもかなりユニークな存在だと言える。プロ向けに近い仕様なのだが、YouTubeやFacebookといった身近なサービスも気軽に利用できるのはいい。
画質は発展途上だが、使い勝手は洗練されており、スマートフォンやPCとの連携を設定することなくすぐプレビューできたり、直接動画サービスに配信できたりと、初心者にとってとっつきやすい部分もある。現時点では技適を取得しておらず、カスタムSoCであるため取得も難しそうだが、全天球カメラの今後の可能性を示唆してくれる製品である。