Ubuntu日和
【第46回】Ryzen 8000Gシリーズ発売!自作PC+Ubuntuでのゲーム体験を探る
2024年2月17日 06:18
既報の通りRyzen 8000Gシリーズの発売が開始された。
長年AMDのファンであり、APUが出てきてすぐの不遇の時代から使用し続けてきた筆者としては、Ryzen 8000Gシリーズは飛びつきたくなる魅力的なものだ。もちろん狙うは最上位のRyzen 7 8700Gだけだ。
しかし昨今の円安で329ドルが5万7,800円になってしまって懐に痛すぎる。しかもSocket AM5のマザーボードを所有していない筆者は必然的にマザーボードとメモリも購入することになる。それらも例外なく円安の影響を受けている。
Ryzen 7 8700Gと同じCPUコアを積んだRyzen 7 7840HSを搭載したMINISFORUM UM780 XTXはCPUとマザーボードの値段を出せば本体まるごと買えてしまうくらいの価格で、コストパフォーマンスは段違いだ。こちらを購入するほうがいいのではないか……という葛藤を抱えつつ、パーツを選定して実際に組み、Ubuntuをインストールしてゲームするところまで行なった様子を漢の生き様として記していきたい。
ハードウェア選定
実のところRyzen 7 8700G一式を購入してUbuntu PCに仕立てる読者というのはあまりいないだろう。しかし選定したハードウェア情報には価値があるはずだ。例えばメモリの相性問題などがあるが、そこはOSが介在する前の話だからだ。
というわけでまずは構成表を見ていこう。
分類 | メーカー | 型番 |
---|---|---|
APU | AMD | Ryzen 7 8700G |
マザーボード | ASRock | B650I Lightning WiFi |
メモリ | Team | CTCCD564G6000HC48DC01-A |
CPUファン | ID-COOLING | IS-55-BLACK |
SSD | キオクシア | SSD-CK1.0N4P/N |
ケース | InWin | Chopin MAX |
APUはいいとして、まず決めたのはメモリであった。メモリはVRAMも兼用するので、速ければ速いほどいい。しかし速いと相性問題が心配で、かつ値段も高くなる。今回は64GBにしておきたかったので、Teamの「CTCCD564G6000HC48DC01-A」にした。6,000MHzで動作し、電圧は1.1V、価格もさほど高くない。
マザーボードはメモリの相性問題が発生しにくそうなメーカーということでASRockにした。ASRockのB650搭載Mini-ITXマザーボードは2種類出ており、今回購入したB650I Lightning WiFiとB650E PG-ITX WiFiだ。
買った段階では“安い方でいい”と考えていたのだが、あとからメインPCとして使用するにはディスプレイ出力が2ポート必要なことに気がついた。B650I Lightning WiFiはHDMI出力1ポートのみだ。当面は検証用だからいいものの、メインPCとして使用する際にはマザーボードを買い直すか、ビデオカードを追加するか、ディスプレイを1枚のままにするかを悩むことになる。というか実はずっと悩んでいる。というわけでiGPUを使用する場合はマザーボードのディスプレイ出力ポートの数に注意しよう。
SSDとケースはすでにうちにあったものだ。Chopin MAXは格好いいので特に用途もなく購入したらしばらく眠ることになったものの、これを機に使用することとした。SSDは勢いで買ったもの速さを活かす場面がなくて、これまた眠ることになっていたものだ。
CPUとマザーボードとケースが決まれば、CPUファンもだいたい決まってくる。Ryzen 7 8700GにはCPUファンがついてくるものの、Chopin MAXのようなコンパクトケースには入るはずがない。価格と性能と入手性を考えてIS-55-BLACKにした。このケースに入る最大のファンかと考えたものの、やはりちょっと無理があった。もう少し小さいもののほうがよさそうだ。
IS-55-BLACKの誤算は120mmファンが交換できることで、より高さの確保ができるケースに変更すればより冷えるファンを使用できるということになる。少なくともTDPが65WのCPU/APUを使用する限りにおいては活用することはなさそうだが。
CPUとメモリとファンを組み込んでみた。
背の高いメモリにしなくてよかったと思える。オーバークロックしてもよく冷えるであろう。
実際にケースに組み込んでみた。
よく見たら上面が少し浮いている。このケースにこのファンは少し大きすぎた。
UEFI BIOS
本誌の読者にとっては今更なことだが、新しいCPU/APUを使用するためには新しいUEFI BIOSに更新する必要がある。UEFI BIOSのアップデート方法は主にUEFI BIOS内のメニューからとOSからがあるが、マザーボードによっては電源を入れなくてもアップデートする仕組みを持っているものがある。
というか、昨今のAMD用マザーボードであれば多くの場合対応している。ASRock製マザーボードではBIOS Flashbackという機能が相当する。今回はかなり高い確率でUEFI BIOS内メニューでのアップデートはできないだろうとの予測から、最初からこの機能を使用することにした。具体的な方法はマニュアルに書かれている。事前によくマニュアルを読んでおくのがおすすめだ。
UEFI BIOSのバージョンをどうするのかは悩ましいが、今回はBetaではあるものの「2.08.AS01」にした。ちょうど組み立て作業をした日(2月6日)にリリースされたというのと、STAPM機能をオフにする修正が含まれていたからだ。STAPM機能に関する解説は省略するが(必要であれば後藤弘茂氏の記事を参照してほしい)、デスクトップ用APUには不要な機能が誤って有効にになっていたという不具合だ。
そんなこんなでBIOS Flashback機能でUEFI BIOSをアップデートし、初回起動するという最も緊張する時間を難なく乗り越え、無事に起動した。
なるほど、メモリの速度が5,200MHzとなっている。これを手動で6,000MHzにクロックアップし再起動するという再び緊張する時間を迎えたが、こちらも難なく起動した。
自作PCの緊張感と楽しさはだいたいこの瞬間に集約される。あとは余興だ。本連載的には問題発言以外の何物でもないが。
Ubuntuインストール
Ubuntuのインストールを行なう。インストールするバージョンは22.04 LTSとする。理由は後述する。
インストール、初回起動ともに問題なく行なえる。現在22.04 LTSをインストールするとカーネルのバージョンは6.5という比較的新しいものになるため、問題は起きにくい。Ryzen 8000Gシリーズは出たばかりだが、コードネームPhoenixベースのAPUはもっと前からリリースされており、すでに対応が完了していると考えるのが自然だ。ただしそれはあくまでAPU周りのことであり、有線LANやWi-Fiなどマザーボードによって差異のあるパーツに関してまた違ってくる。
元に22.04 LTSのカーネル6.5ではWi-Fiが認識しなかった。認識させる方法もありそうだが、筆者は特に困らないので特に何もしていない。Wi-Fiを使用するのであれば、IntelのWi-Fiチップを搭載しているB650E PG-ITX WiFiなどのほうがいいだろう。この目で動作を確かめたわけではないので動作しないかもしれないが。
グラフィックは表示されるものの、パフォーマンスは出なかったので第15回を参照に「Radeon Software for Linux version 23.40.1 for Ubuntu 22.04.4」をインストールした。この記事にもある通り、このドライバは20.04/22.04 LTSのみの対応だ。
あとはRyzen AIも使用できるはずだ。こちらはドライバが公開されているが、今回は試さなかった。活発に開発が行なわれ、あっという間に情報が陳腐化そうなのと、カーネルのビルドからやらなくてはいけないなど大掛かりなのと、Ryzen AIを活用できるアプリケーションが思いつかなかったのが主な原因だ。
UbuntuでもフルHDでゲームができるのか
わざわざUbuntuでゲームをする人がいるのかは謎だが、第2回を見てしている人がいると信じたい。
Ryzen 8000GシリーズのウリはiGPUだけでフルHDのゲームができるということらしいので、早速筆者も最近ハマっている(周回遅れも甚だしいが)、「ライザのアトリエ」をやってみた。SteamでProtonを有効にする方法は第2回とは変わっているが、ここでは説明を省略する。
ところが、少なくともUbuntu上では、「ライザのアトリエ」をフルHDでプレイするのは不可能だった。しかし1,600×900ドットであればおおむね45fps以上出て、このくらいなら充分にプレイ可能であった。というか実際にプレイしている。スクリーンショットは許諾が必要そうなので省略する。
これはもう完全にドライバの問題だろう。いつかより最適化されると信じてはいるが、現段階でやはり快適にプレイしたければWindowsでやるのがいい。とはいえ、少しやるくらいならUbuntuでもどうにかなるということが分かったのは収穫だった。さて、アイテムの採取に戻ることとする。